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魔法召いのブレェス

ドラゴンの吐息

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 完全に意識を取り戻したドラゴンは起き上がり自分の足元にいるリキたちを見下ろした。

「どうして魔物は人々を攻撃しようとするの」

 いままで渦巻いていた疑問が口をついて出る。
 魔物を前にして直接聞きたかったのだ。答えがないとしても。
 ドラゴンの瞳が光る。真剣な表情で瞳で自分のことを捉えているリキが、姿形の違う自分を〝感情のある者〝として見ていると感じた。

「人間は魔物を消そうとし、魔物も人間に危害を加える。どちらが正しいのか私にはわからない。ただ私は、人間が魔物の範囲内である私を消そうとしてくるから身を守る。それだけの話」

 それだけ、が、重いように聞こえた。

「ドラゴンが……」
「喋った……」

 ロキとシルビアが驚愕とした顔でドラゴンを見つめる。ファウンズとユークもそれ相応に驚き。紅色の目でドラゴンを目視したままのリキも瞳孔を一瞬開いた。
 ドラゴンと魔物をひとくくりにしてはならない。単純にいえばそういうことだろう。
 知能があり人の言葉を喋るドラゴンは他の獣などの魔物とは違う。そう気づくことに目のあたりにした。気持ちを伝える機能があり、感情がある。それ以上に必要なものはない。
 彼(ドラゴン)とは戦わなくていい。

「少なくとも私たちは貴方を攻撃したりしない」
「だとしてもきっと他の人間(やつら)が殺しにくる。そこにいる者が私を攻撃してきたように」

 そう言ってファウンズに視線を移す。
 なんでかわからなかった。

「この人は何もしてないよ。ただ鎖を解くために近寄っただけで」
「前の話だ」

 誤解しているのだ、そう理解して弁明しようとしたところファウンズ自身が認めるような発言をした。それははっきりと、悪気なく。
 当然リキは愕然とする。他の者も。ユークを省いて。

「そっちの者も、他のドラゴンを攻撃しているところを見た」

 次に視線の的となった彼は都合が悪そうに軽く冷嘲する。

「わからなかったから、じゃ、言い訳にならないかな。俺はドラゴンが喋るなんて思ってもみなかったし気持ちがあるとも思っていなかった。ドラゴンが人間を攻撃する知能のない魔物だと思っていたから駆除しようとしていただけ」
「おい、言い方」

 ユークの苛烈な皮肉にロキが制す。
 いつもなら逆の立場。ロキがきついことを言ってそれをユークが留める。それがお決まり。二人の性格上それが決まった形だった。

「人間もドラゴンも互いを知らないんだね。互いを知らないから衝突し合う」

 シルビアの言った通りもう止められないのかもしれない。これまで攻撃しあっていたから。でも……とリキは思う。こうやって戦わなくてすむこともあるのだからそれを繰り返していくうちに知り合うことができるのではないか、と。
 リキは去ろうとするドラゴンを呼び止める。

「どこへ行くの?」
「願っているのは安息の地。ずっと探しているがそんな場所はない。私は命が尽きるまでその場所を探そうと思っている」

 懐かしい、なぜ。
 何か、思い当たる。

「さらば」
「待って」

 思わず口にした。

「もしかしてーー大きな、鳥さん……?」
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