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魔法召いのブレェス
落下
しおりを挟む休憩を終え、計画もなく歩き出す。
壮大な目標としてドラゴンの潜む場所を発見する、というのがあるが無理に近い任務だ。広大無辺な大地で特定のものを探す、それも稀に現れるドラゴンを。砂の中にいる蟻を捜すような作業に誰もが諦めているような様子で森を探索する。それでも本気で、見つけようと。
何かが視界に映った。大きな塊。目視したと同時に大地が震え、轟音が轟く。
勢いよく落ちてきたものが何か最初はわからなかった。突風によってざわめいた木々が落ち着いたころ、ようやくそれを認識した。
「ドラ、ゴン……?」
大きくて翼の生えた純白の。
思わずロキは呟く。
探そうとしていたものが今目の前にいる。達成困難な任務、だと思われる標的であるドラゴンが自分からお出ましとは。いや、任務の内容ではドラゴンの潜む場所を特定するだったけか。
ロキが思考しているうちにドラゴンは暴れ出す。
攻撃でもしてくるつもりなのかとリキは気を張り詰めるが、思えばドラゴンは上空から落下してきた。意図して降りてきたわけではないなら何か他に、目的意外の理由があるのか。ふと注視してみると首元に黒い輪のようなものがある。それが首を絞めているようで、ただ暴れているだけのようにみえていたドラゴンは悶え苦しんでいるように見えた。
顔を何度も振り苦しさから逃れようとしている。そんな動作とともに火玉は吐かれた。
木々が燃えゆくところを見て青ざめるシルビア。
「あれ、燃えてるよ」
「水はー……スイリュウだね」
「俺か」
「よろしく」
腰に携えている剣に手を添えたファウンズは了解とだけ言い少し離れた被害地に向かった。
スイリュウは水の力をファウンズに貸すことができる。剣を振るえば水が出現するため火を消すには何の問題もない。今問題なのは目の前のものをどうするかだ。
ユークは力秘めた瞳を今度はドラゴンに向ける。
「どうするんだこれ。ドラゴンの潜む場所を特定するっていう任務を遥かに通り越したところに俺たちいると思うんだけど、兄さん」
「兄さんって俺のことかな。そうだね、いまロキがしようとしていることが一番の脱却法だと俺は思うよ」
「二人とも戦うつもり? いくらなんでも無理だよこんな少数じゃ」
「ユナテッドを守るんじゃなかったのか? 王子様」
剣を構えた二人に動揺しなだめようとするもロキの挑発的な発言にシルビアまでもがその気になる。
ユークたちは一切興奮した状態ではなく、冷静に考えいたった答えのようだった。だったら彼らたちと同じように力を合わせ戦えばいいのではないか。戦って目の前のドラゴンを倒す。
剣を鞘から取り出そうとする。
いや……まて。
躊躇したと同時にもやがかかっていた思考にリキの声が貫く。
「皆待って。よくみて、あのドラゴン様子がおかしいよ。私たちを目に捉えていないどころか自分の体を傷つけてる」
「それがどうした。ドラゴンはどんなものでも仕留めるっていうのがお決まりだろ。相手がどんな状況に置かれていようが俺たちには全くもって関係ない」
それは好都合としか考えられない。
やっぱりあの黒い輪が原因だろうか。
否定的な言葉はリキの耳を通り越し、ドラゴンのことだけに意識は向く。
その間にもドラゴンは火玉を吐き、木々への被害が広がった。
「考えてる場合じゃないね」
シルビアまでもが鞘を握り、剣を抜く構えをしようとする。
このままだとドラゴンは弱っていく一方。それでいいのかもしれない、全員でドラゴンを倒すのなら。でもそれではいけない気がした。
皆より前に出て、リキは離れたところからドラゴンの口元にシールドを張る。
【防御魔法「《防御空間(ガードスペェィシャル)》」】
皆が火玉をくらわないよう、これ以上木々への被害を増やさないよう。ばらばらに散った被害所の対処はファウンズがやってくれているが、一人では追いつくのがやっとでこれからのものまで手をまわすには時間がかかるだろう。
防御空間の中で放たれた火玉は一瞬にして煙と化す。
ドラゴンは自分の放ったもので気絶した。
今のうちだ。
留まりたい気持ちを押し砕き倒れたドラゴンへ歩み寄ろうとする。
「お前なにしようとして」
ロキに説明し説得するのは無理だとさとった。あんなにも冷酷なことを言った人がこんなことをするのを納得するわけがない。
「硬くて取れない」
ドラゴンの首を絞める、暗黒が包む鎖のようなものは、到底手ではほどけそうにないもので。だからといって他に有効な手段などない。
「俺も手伝うよ」
と、シルビアが手伝ってくれるも硬くてなかなか取れなかった。
「あいつらなにして……」
呆気にとられたのは皆同じ。だがシルビアは、はっとした様子でリキのもとへ行った。何をしようとしているかわかった時点で身体が動いたようだった。
「何をしようとしているか、わかってるよね」
隣にいるユークは無表情でロキに問い、疑問などないと正す。一点に見つめる先はドラゴンとリキとシルビアの一体と二人。珍しく賛成しているようではなかった。
燃える木々の対処を終えたファウンズが戻り、ドラゴンの近くにいる二人を見て何を思ったか傍に寄った。
「それを解こうとしているのか……?」
振り返り彼の存在を確認するシルビアとリキ。
「もう消火は終わったんだね。おつかれさま」
「この鎖のせいでドラゴンは苦しい思いをしているようです。だから今楽にしてあげようと」
それを聞いてファウンズの顔がほんの少し変わる。
「恩を売るならそいつは適任ではない。かえって害を受ける」
「……恩を仇で返されるってことですか?」
肯定と言わんばかりに瞳をがっちり合わせたまま。
「でも助けたいんです」
もし鎖を解いて、苦しみから解放されたドラゴンが自分たちを攻撃してきたら。それは考えていた。それでもなぜか見ぬふりはできない。
「恩を着せるためではなく、見てるこっちが苦しいからやりたいからだと言ったら手伝ってくれますか?」
ファウンズは剣を振りかざすとそれを勢いよく一直線に振り下ろした。
ドラゴンの首に巻きついていたものは暗黒の色を失いただの鎖として地に落ちた。
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