17 / 71
魔法召いのブレェス
「最低評価」③
しおりを挟む
時々、村を襲う魔物から村を守るため出撃命令を下される。ファウンズがそうだった。ただ単に魔物を駆除するため、前のように険しい箇所を探索しどこにどのような魔物がいるのか、土地などを調査するために指名されるのが大半。あとは生徒の実践を兼ねての魔物駆除。
ロキによればランクーー演習試験時の力と協力性の評価が高い者ほど選ばれやすいというのだが、今回はその予想と異なった。生徒の中からサラビエル講師が指名したのはルーファースとリキと他、複数の生徒。
ルーファースといえば最低評価の持ち主として噂が定着されている。力は別として、協力性が話にならないほどのものでとある事件を起こした。編入生であるリキは入りたてというわけではないが実践熟練度は未熟。
そういった瑕疵(かし)があってか魔物相手に苦戦していた。
「なんでこの俺が……」
自室のベッドに座るルーファースは屈辱の色を顔に浮かべている。
「油断してたからあんな傷を負ったんだと思います。一人で突っ込んでいくのは危険、そんなこと、考えずともわかることです」
「後方にいたお前がわかったような口聞くんじゃねえよ」
「援護役なので後ろにいました」
ルーファースの前に立っているリキは浮かない顔をしていた。回復魔法しか使えないと思われていたからなのかサラビエル講師には「後方で傷ついた者を回復しろ」と指示を与えられ、言われた通りにしていたがおきた光景に大人しくしていられなかった。
戦闘開始早々突出したルーファースは改善命令を下すサラビエル講師の声にさえ耳を貸さず一人で前へ突き進んだ。その罰が当たったのか飛鳥(ひちょう)の降下攻撃をくらったルーファースは一時的に麻痺で動けなくなり他の魔物の攻撃まで受けそうにーー。
きっと戦うことに夢中になっていたのだろう。だから盲目的になって痛手を負った。
「心配しました」
危険だとわかっていても傍に駆け寄って行った。サラビエル講師に止められはしたが、迷っている暇があれば多くの痛みを受ける前に救った方がいいと思ったから。
傍に寄った時にはルーファースは何度か攻撃を受けていて複数の傷があり痛々しく、取り巻いていた魔物たちをラピの力をかりて炎の魔法で葬り去ってから回復を試みた。痛かったに違いない。血を流す傷を治すのは二度目、リキは一瞬動揺してしまった。
「別にお前に助けられなくても死にはしなかった」
「でも痛かったでしょうーー?」
「……馬鹿じゃねえの」
身体的な痛さなんてどうでもいい。それよりもルーファースは助けられたという屈辱が身に沁みている。
魔物の中に突っ込んでくるような真似をして駆け寄ってきた彼女は自分の身のことを考えていたのか。痛みを心配してくる限り頭の片隅にもなかっただろう。戦闘で攻撃をくらうのは当たり前のことだ。
「まじウザ。お前みたいなの初めてだわ」
皮肉な言い草に心情を知ろうとルーファースのことを見つめる。俯いていて表情はわからないが少し怒っているような感じがし、部屋を後にしたほうがいいかと思ったが、ルーファースに手を引っ張られベッドに押し倒された。リキは驚きの色を示す。
「一緒にいるだけで虫唾が走る。調子乗ってんじゃねえぞ」
掴まれている手首がぐっと握られる。相手の手も震えるほど力強く。
「俺に近づこうとするな」
狂気に満ちたパープル色の瞳がリキの心奥を凍らせた。
……昨日までうまくいっていた、一体何がいけなかったんだろう、嫌味な発言をしてしまったのだろうか。
リキはルーファースの部屋の前で微かに痛さを感じる左手を目の前にやる、袖に隠れそうになる手首には赤々としたもの。強く握られすぎてうっすら赤くなってしまったのだ。きっと時間が経てばもっと色が濃くなる。
ルーファースとはあの日以来、戦闘演習で組み続けていて距離も縮まっているものだと思っていた。しかしそれはリキの勘違い。戦闘中の突飛な行動に耐え、少しでも団結力を良くしようとしていたのだが無意味なものになったのだろうか。これで演習試験を共に受けることは自然と破棄となるのかもしれない。
望んでいない約束だった、それで良いはずなのに。
なんだか、逃げている……そんな気持ちになる。
ルーファースの狂気に満ちた目がちらつく。なぜあんなに態度が一変したのかわからない。わからないことだらけで自分が嫌になった。
手首を押さえ扉の前にいるリキの元へひとつの姿。気配に気づき視線を上げてみればそこにいたのはファウンズ・キルーーどうかしたのかという目をしている。リキは情けない作り笑いを浮かべた。
「どうやら嫌われてしまったようです。何がいけなかったのかわからないんですが、ファウンズさんもそんな時ってありますか?」
ファウンズは研ぎ澄まされた目で熟視する。答えはノー、あまり深く考えたことはないと。「そうですか……」と言承(ことう)けするリキは少々落ち込んでいるよう。
「あまり深く考える必要はーー」
「あまり深く考える必要はないぴょん!」
ファウンズの言葉がラピの二倍の声量によって被覆(ひふく)される。
「ご主人様は何も悪いことはしていないぴょん、気負いすることないぴょん。演習中に武器を投げてきたり相棒であるご主人様にわざと攻撃をしかけてきたりする危険人物をリキは戦場で助けたぴょん。自分の身を案じることなく……だから、嫌われたなんて単なる思い違いぴょん」
ーーあの危険人物がいけないんだぴょん。
胸臆で消える声。リキが落ち込んだような時には励まそうとした、されどリキは「あっちが悪い」「こっちは悪くない」など区別をつけると複雑そうな顔をする。悟るようになったラピは言葉を選ぶようになったのだが中々難しく、自然と良いと思ったファウンズの台詞を復唱してしまったのだ。言ったことは全てラピの本心に違いない。
「ありがとう、ラピ」
初めて想いが伝わった。リキの少し晴れた顔を見てラピは思う。
「ファウンズさんも」
あの声は聞こえていた。ラピが復唱したことで存在がうっすら消えたと思われたもの。元気づけようとして口にした言葉ではないかもしれないが、それでも嬉しかった。それだから、なのかもしれない。
ロキによればランクーー演習試験時の力と協力性の評価が高い者ほど選ばれやすいというのだが、今回はその予想と異なった。生徒の中からサラビエル講師が指名したのはルーファースとリキと他、複数の生徒。
ルーファースといえば最低評価の持ち主として噂が定着されている。力は別として、協力性が話にならないほどのものでとある事件を起こした。編入生であるリキは入りたてというわけではないが実践熟練度は未熟。
そういった瑕疵(かし)があってか魔物相手に苦戦していた。
「なんでこの俺が……」
自室のベッドに座るルーファースは屈辱の色を顔に浮かべている。
「油断してたからあんな傷を負ったんだと思います。一人で突っ込んでいくのは危険、そんなこと、考えずともわかることです」
「後方にいたお前がわかったような口聞くんじゃねえよ」
「援護役なので後ろにいました」
ルーファースの前に立っているリキは浮かない顔をしていた。回復魔法しか使えないと思われていたからなのかサラビエル講師には「後方で傷ついた者を回復しろ」と指示を与えられ、言われた通りにしていたがおきた光景に大人しくしていられなかった。
戦闘開始早々突出したルーファースは改善命令を下すサラビエル講師の声にさえ耳を貸さず一人で前へ突き進んだ。その罰が当たったのか飛鳥(ひちょう)の降下攻撃をくらったルーファースは一時的に麻痺で動けなくなり他の魔物の攻撃まで受けそうにーー。
きっと戦うことに夢中になっていたのだろう。だから盲目的になって痛手を負った。
「心配しました」
危険だとわかっていても傍に駆け寄って行った。サラビエル講師に止められはしたが、迷っている暇があれば多くの痛みを受ける前に救った方がいいと思ったから。
傍に寄った時にはルーファースは何度か攻撃を受けていて複数の傷があり痛々しく、取り巻いていた魔物たちをラピの力をかりて炎の魔法で葬り去ってから回復を試みた。痛かったに違いない。血を流す傷を治すのは二度目、リキは一瞬動揺してしまった。
「別にお前に助けられなくても死にはしなかった」
「でも痛かったでしょうーー?」
「……馬鹿じゃねえの」
身体的な痛さなんてどうでもいい。それよりもルーファースは助けられたという屈辱が身に沁みている。
魔物の中に突っ込んでくるような真似をして駆け寄ってきた彼女は自分の身のことを考えていたのか。痛みを心配してくる限り頭の片隅にもなかっただろう。戦闘で攻撃をくらうのは当たり前のことだ。
「まじウザ。お前みたいなの初めてだわ」
皮肉な言い草に心情を知ろうとルーファースのことを見つめる。俯いていて表情はわからないが少し怒っているような感じがし、部屋を後にしたほうがいいかと思ったが、ルーファースに手を引っ張られベッドに押し倒された。リキは驚きの色を示す。
「一緒にいるだけで虫唾が走る。調子乗ってんじゃねえぞ」
掴まれている手首がぐっと握られる。相手の手も震えるほど力強く。
「俺に近づこうとするな」
狂気に満ちたパープル色の瞳がリキの心奥を凍らせた。
……昨日までうまくいっていた、一体何がいけなかったんだろう、嫌味な発言をしてしまったのだろうか。
リキはルーファースの部屋の前で微かに痛さを感じる左手を目の前にやる、袖に隠れそうになる手首には赤々としたもの。強く握られすぎてうっすら赤くなってしまったのだ。きっと時間が経てばもっと色が濃くなる。
ルーファースとはあの日以来、戦闘演習で組み続けていて距離も縮まっているものだと思っていた。しかしそれはリキの勘違い。戦闘中の突飛な行動に耐え、少しでも団結力を良くしようとしていたのだが無意味なものになったのだろうか。これで演習試験を共に受けることは自然と破棄となるのかもしれない。
望んでいない約束だった、それで良いはずなのに。
なんだか、逃げている……そんな気持ちになる。
ルーファースの狂気に満ちた目がちらつく。なぜあんなに態度が一変したのかわからない。わからないことだらけで自分が嫌になった。
手首を押さえ扉の前にいるリキの元へひとつの姿。気配に気づき視線を上げてみればそこにいたのはファウンズ・キルーーどうかしたのかという目をしている。リキは情けない作り笑いを浮かべた。
「どうやら嫌われてしまったようです。何がいけなかったのかわからないんですが、ファウンズさんもそんな時ってありますか?」
ファウンズは研ぎ澄まされた目で熟視する。答えはノー、あまり深く考えたことはないと。「そうですか……」と言承(ことう)けするリキは少々落ち込んでいるよう。
「あまり深く考える必要はーー」
「あまり深く考える必要はないぴょん!」
ファウンズの言葉がラピの二倍の声量によって被覆(ひふく)される。
「ご主人様は何も悪いことはしていないぴょん、気負いすることないぴょん。演習中に武器を投げてきたり相棒であるご主人様にわざと攻撃をしかけてきたりする危険人物をリキは戦場で助けたぴょん。自分の身を案じることなく……だから、嫌われたなんて単なる思い違いぴょん」
ーーあの危険人物がいけないんだぴょん。
胸臆で消える声。リキが落ち込んだような時には励まそうとした、されどリキは「あっちが悪い」「こっちは悪くない」など区別をつけると複雑そうな顔をする。悟るようになったラピは言葉を選ぶようになったのだが中々難しく、自然と良いと思ったファウンズの台詞を復唱してしまったのだ。言ったことは全てラピの本心に違いない。
「ありがとう、ラピ」
初めて想いが伝わった。リキの少し晴れた顔を見てラピは思う。
「ファウンズさんも」
あの声は聞こえていた。ラピが復唱したことで存在がうっすら消えたと思われたもの。元気づけようとして口にした言葉ではないかもしれないが、それでも嬉しかった。それだから、なのかもしれない。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる