魔法召いのリキ・ユナテッド

リオ

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魔法召いのブレェス

「最低評価」②

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「必殺技使えねー」
 いつになったら使えんの? と不満そうに聞くロキに、ラピも同じような態度で返す。
「私がついているだけでありがたく思うぴょん」
「ありがたくって言っても、ありがたさわかんねーんだよな」
 日頃から実践室で剣を何度も振るうも必殺技とやらは使えなかった。その腹いせか、お前うるせえし、と余計な一言まで口にする。

「静かな召喚獣とかいたらな………」

「それならいるよ。前にスイリュウっていう竜が出てきたんだけどーー静かでおとなしくて、ある人に懐いててその人に名付けてもらったんだ」

 思わず漏らした願望にリキが応じる。

 今まで力をかしていたラピはロキの肩にいる。彼の期待の眼差しに召喚魔法を口にすると現れた竜ーースイリュウはリキの言っていた通り落ち着きのある召喚獣である。
 どこかとっつきにくさを感じつつも語りかける。が、ロキの言葉にスイリュウは一切無視。それどころか少しの反応も見せない。何かの間違いだろうともう一度おとなしめに話しかけるが断固として応答しようとしない。

 どうやらスイリュウは彼に対して微塵の興味もないらしい。あるとしたらやはりーー名付け親にだけ。

 会話を促すようにするもリキ相手にも反応を示さない。唯一良いのは目を合わせているところ。ロキには目を向けようともしていなかった。
 もしかしたら喋れないのかもしれないと頭をよぎったリキがラピに聞くと案の定、喋れない召喚獣もいるとのこと。というよりも喋る召喚獣のほうが希少らしい。喋らない召喚獣が普通のようだ。

 解説していたラピが力強く、それとーーと言い添える。

「いくらご主人様と仲が良かろうと私たち召喚獣が相手の善し悪しを決めるので、誰にでも力をかしてもらえると思っていたら大間違いぴょん」

 図星を突かれたロキはぎくっとする。スイリュウにも力をかしてもらおうとしていたのだ。ラピよりも落ち着いていて自分にとって良い存在だと思ったから。しかし、召喚獣も人を選ぶようではそれは叶わぬ願い。
 リキからしてみれば赤い炎の方がロキには合っていて、水属性は似合わない。スイリュウの清い水は彼に似つかわしいと水を纏った剣を扱うファウンズのことを思い出す。ドラゴンに臆することなく立ち向かっていた。

 リキは溜め息を零す。ついさっきのことを思い出してしまったからだ。戦闘演習時に約束してしまったもの。
 そんなリキに気づいて顔を覗く。

「どーした。もしかしてやっぱりなんかあったか」

 演習室から出るとロキが傍に来て一緒に実践室へ向かうことになった。そんな時に聞かれたのだ、あいつまた騒動起こしたのかと。演習試験の噂が余程広まっているのだろう。どうして彼と組んだことを知っているのかと不思議に思ったが、その時はフウコなどに聞いたのだろうと想定した。

「うわ、なんだよそれ。ずいぶん横暴な奴だな」

 先刻の戦闘演習について、試験で相棒となるよう強制的に約束されたことだけを打ち明けるとロキは呆れたような声を出した。
 確かに不安ではある。前の試験では事件を起こしたというし、今日の演習中も正常ではない事態が起こっていた。

「俺が組んでやろうか? 試験事には組んだもん勝ちだし」
 悩みどころでもあるが。
「約束を破ったことになるのは嫌だから、とりあえず組んでみる」

 ほんとお人好しだなとリキを見つめる目は珍奇なもの。
 ロキは必殺技を使いたいがためにラピの炎を剣に纏い何度も力を使っている。そうすればいつか必殺技を使える時がくると信じているから。だが中々使える時は訪れない。「行こーぜ」だけで言いたいことが伝わるほど日頃の日課になりつつあった。




「試験までに練習として組もうよ」
 と、来たのは昨日の少年、ルーファース。
「その代わり、ちゃんとルールを守って下さい」
「守るよ、たぶんね」
 はいはい、とどうも信用ならない返事をしたルーファースはリキの疑いのある眼差しに気づくと冗談めかしい態度を取った。

「ごめん、手滑った」

 戦闘早々後ろに振り動かしたルーファースの刃物はちょうどリキの首あたりで止まっていた。計算されていたかのようにダメージを受ける寸前で止められている。意図的なのではないかと思う行為に恐怖を覚えながらもリキは戦闘に集中した。
 一度だけの行為ならまだよかったものの彼の突飛な行動は続いた。相手との交戦中になぜか近くまで来たり、油断している時に刃物を飛ばしてきたり。途中、ラピが怒り出してしまったがリキはあえてほうっておいた。

「少し、おかしな行動とりすぎませんか」
「そう? 君も一応戦ってるんだから警戒心張り巡らしたら」

 戦闘が終わり演習室を出るとリキは今までにないほど疲れた顔をし、壁に寄りかかった。
 ファウンズと組んだ際はあまり体を動かすことなく回復だけをしているだけですんだのだが、ルーファースと組み体力を二倍使うどころか精神的にもだいぶ消費したのである。彼の奇行ーー相棒に攻撃してきたり、武器を飛ばしてきたりーーがこれからも続くのだと考えると耐え難い気持ちになった。

「でもこれくらいでめげてちゃいられないよね」

 魔物と戦うとなったら待ったなし。勝つか負けるか生きるか死ぬか。そんな状況下で疲れたから休むは通用しない。前に目にしたドラゴンは自分よりとても大きく脅威的で到底相手にもならないと思った。今、ファウンズのように立ち向かえるかといったら皆無だ。

 独り言のように呟いたリキだが肩に乗っているラピはちゃんと聞いている。

「大丈夫か?」

 伏せがちにしていた視線を上げるとそこにはロキがいて、リキが返事をする前に明後日の方向を見た。

 「ーーあいつ不気味な笑みしてたぞ」

 先ほどルーファースと通り過ぎた際、彼の顔をふと見て気づいたのだ。何もないのに笑っている、その一瞬ロキには不気味に見えた。


 憤懣(ふんまん)やる方なく実践室へ行くまでの通路でラピは不満を吐き出した。ルーファースの壊滅的な戦いを聞いたロキは意に介するも、リキは大丈夫だと笑った。刃が当たったところで傷を負うものでもないし相棒の奇矯な行動は自分のためになる……かもしれないと。警戒心を張り巡らす鍛錬になりえるかもしれないが、それがなんの役に立つというのか。相棒相手に警戒するようになっても意味がない。
 なるがままにという心持ちのリキを心配するロキだった。
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