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魔法召いのブレェス
噂と召喚獣④
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「良ければ、名前付けてくれませんか?」
帰路に、リキは隣の人物に声をかける。
新しく呼び寄せた召喚獣はどうやら彼を好いているようで、戦闘が終わった後でも長らくファウンズの側にいる。肩の近くで浮遊しているちび竜を見れば、名付け親は自分よりも彼に付けてもらうほうが良いと思った。
「ーースイリュウ」
水属性の竜だからスイリュウ。単純でわかりやすい。
ファウンズもちび竜が自分に慣れているという認識があるのか、特別理由も聞かずに名を付けた。ーースイリュウ、それがこれからのちび竜の名である。
学園に着いてもスイリュウはファウンズから離れようとしなかった。
「貴方に慣れているみたいですね」
表情を変えることなく、ラピのように喋ることもなく、肩あたりでうまく浮遊している。まるで目の前にいる彼のようだとリキは思った。似た雰囲気を持っていて、何か感じるものがあるからスイリュウは彼に親近感を抱いているのだろうかーーと。
「どうしたらこいつは元の居場所に戻る」
「戻す方法はないとのことで、そのコはきっと戻りたい時に戻ります」
ーー戻りたい時に、か。
嫌な顔せず、ファウンズは思い耽た顔をする。
「迷惑でなければそれまでスイのこと、よろしくお願いします」
主人として、断りを入れる。
「ご主人様、言い忘れていましたが私たち召喚獣は召喚師様と離れすぎると存在できなくなってしまうぴょん。だからあまり離れすぎないでほしいぴょん」
ラピから初めて聞いた事実。だからラピは自分から離れようとせず、ずっと側にいたのかとリキは思う。
スイリュウには好きな人の側にいてほしい。けど、離れすぎてしまえば消えてしまう。さすればもう一つお願い事がある。思い当たることがあった。
「側にいてもいいですか?」
彼の側にいればスイリュウは消えない。自分が側にいればスイリュウはファウンズと一緒にいられる。そんな考えで言ったのだが果たして彼は受け入れてくれるのか、リキは凛然とした眼差しで彼を見上げる。
「別に。構わない」
良かった、と朗らかに笑うリキ。ファウンズにはその笑みの意味がわからなかった。
移動して来たのはファウンズが休憩場所としている庭園。リキが以前、ユークに連れられてきた処だ。
こんな偶然もあるものだなと庭園を見渡す。一つしかない白いガゼボに一体に広がる緑ーー誰が手入れしているのかわからないハイビスカスの花。
「ここ、前にある方とお話したところなんです。その時聞きました。貴方の噂のこと」
背中越しの打ち明け。自然体を保つファウンズは彼女がユーク・リフから自分の噂を聞いたのを知っていた。二人が話をしているその場にいた、というのも居場所を知っているユークがわざとファウンズに聞かせるようこの場所を選んだのだ。
ガゼボに寝転んでいたファウンズの姿をリキは目に留めることができなかった。
「可哀想だなって思いました。家族の誰かが人を殺したという噂がたっただけできっと嫌な気持ちになるはずなのに、そればかりか自分まで変な目で見られて」
「誰がどう思おうと何も感じなかった」
それは強がりかーーそうには見えない。我慢しすぎて本当に何も感じなくなってしまったのか、それとも最初から感情というものが欠如してしまっていたのか。
色々考えると切なくなる。
「馬鹿。って言われても何も感じませんか?」
「それは誰がどう言ったかで変わる」
「良かった、ちゃんとした感情あるんですね」
受け取りようで変わるということは他の者と変わらず思いがあるということだ。
心の底から安堵しているような面差し。悪いことを言ってしまったという様子はない。本当に嬉しそうな顔つきをしている。
判然としない発言と表情にファウンズはリキのことを見澄すました。
だが得られるものなし。
馬鹿と言われても何も感じないかと言われ、それに答えたら安心したような顔をして「感情あるんですね」……一体何が嬉しくて顔ばせを柔らかくしたのか。
人情の機微にあまり触れようとしてこなかったファウンズはそれを正確に理解するのに時間がかかる。
帰路に、リキは隣の人物に声をかける。
新しく呼び寄せた召喚獣はどうやら彼を好いているようで、戦闘が終わった後でも長らくファウンズの側にいる。肩の近くで浮遊しているちび竜を見れば、名付け親は自分よりも彼に付けてもらうほうが良いと思った。
「ーースイリュウ」
水属性の竜だからスイリュウ。単純でわかりやすい。
ファウンズもちび竜が自分に慣れているという認識があるのか、特別理由も聞かずに名を付けた。ーースイリュウ、それがこれからのちび竜の名である。
学園に着いてもスイリュウはファウンズから離れようとしなかった。
「貴方に慣れているみたいですね」
表情を変えることなく、ラピのように喋ることもなく、肩あたりでうまく浮遊している。まるで目の前にいる彼のようだとリキは思った。似た雰囲気を持っていて、何か感じるものがあるからスイリュウは彼に親近感を抱いているのだろうかーーと。
「どうしたらこいつは元の居場所に戻る」
「戻す方法はないとのことで、そのコはきっと戻りたい時に戻ります」
ーー戻りたい時に、か。
嫌な顔せず、ファウンズは思い耽た顔をする。
「迷惑でなければそれまでスイのこと、よろしくお願いします」
主人として、断りを入れる。
「ご主人様、言い忘れていましたが私たち召喚獣は召喚師様と離れすぎると存在できなくなってしまうぴょん。だからあまり離れすぎないでほしいぴょん」
ラピから初めて聞いた事実。だからラピは自分から離れようとせず、ずっと側にいたのかとリキは思う。
スイリュウには好きな人の側にいてほしい。けど、離れすぎてしまえば消えてしまう。さすればもう一つお願い事がある。思い当たることがあった。
「側にいてもいいですか?」
彼の側にいればスイリュウは消えない。自分が側にいればスイリュウはファウンズと一緒にいられる。そんな考えで言ったのだが果たして彼は受け入れてくれるのか、リキは凛然とした眼差しで彼を見上げる。
「別に。構わない」
良かった、と朗らかに笑うリキ。ファウンズにはその笑みの意味がわからなかった。
移動して来たのはファウンズが休憩場所としている庭園。リキが以前、ユークに連れられてきた処だ。
こんな偶然もあるものだなと庭園を見渡す。一つしかない白いガゼボに一体に広がる緑ーー誰が手入れしているのかわからないハイビスカスの花。
「ここ、前にある方とお話したところなんです。その時聞きました。貴方の噂のこと」
背中越しの打ち明け。自然体を保つファウンズは彼女がユーク・リフから自分の噂を聞いたのを知っていた。二人が話をしているその場にいた、というのも居場所を知っているユークがわざとファウンズに聞かせるようこの場所を選んだのだ。
ガゼボに寝転んでいたファウンズの姿をリキは目に留めることができなかった。
「可哀想だなって思いました。家族の誰かが人を殺したという噂がたっただけできっと嫌な気持ちになるはずなのに、そればかりか自分まで変な目で見られて」
「誰がどう思おうと何も感じなかった」
それは強がりかーーそうには見えない。我慢しすぎて本当に何も感じなくなってしまったのか、それとも最初から感情というものが欠如してしまっていたのか。
色々考えると切なくなる。
「馬鹿。って言われても何も感じませんか?」
「それは誰がどう言ったかで変わる」
「良かった、ちゃんとした感情あるんですね」
受け取りようで変わるということは他の者と変わらず思いがあるということだ。
心の底から安堵しているような面差し。悪いことを言ってしまったという様子はない。本当に嬉しそうな顔つきをしている。
判然としない発言と表情にファウンズはリキのことを見澄すました。
だが得られるものなし。
馬鹿と言われても何も感じないかと言われ、それに答えたら安心したような顔をして「感情あるんですね」……一体何が嬉しくて顔ばせを柔らかくしたのか。
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