魔法召いのリキ・ユナテッド

リオ

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魔法召いのブレェス

噂と召喚獣③

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「ご主人様ァー!」

 少ししてから、そんな声とともにラピが洞穴から出てきた。急いだ様子で走ってきている。何事かと見ているとその後ろから現れた大きなドラゴン。洞穴にはドラゴンがいたのだ。

「リキ・ユナテッド、一人で突出しようとするな」

 ラピがドラゴンに追いかけられているという場景。見ているだけとはいかない。
 サラビエル講師の言うことも聞かずに駆けて行こうとも思ったがその足は止まった。

 前のようなラピが傷つくところは見たくない。しかしラピの傍に行ったからといって守れるのか。ドラゴンがいた際、ちゃんとした対応できるようサラビエル講師が事前に生徒たちの指揮をとり、洞穴から出てきたドラゴンを囲むような戦闘陣形が完成されている。起こらないかもしれない戦闘に備えていたのだ。その陣形から勝手に抜け出してしまえば四分五裂してしまうのではないのかーーと、勉強して手に入れた智識から深く考えてしまう。

 必死に駆け出しているラピを追いかけているかと思いきや、ドラゴンは立ち止まった。そのうちにラピはリキの元へと戻り広げられた両手に乗る。

 サラビエル講師の指令で接近戦に適する者はドラゴンへの接近を命じられ、武器使いのファウンズ・キルが前に行く。
 戦闘に慣れているとはいえもう少し緊張を見せないかと思わせるほどの冷静沈着な顔ぶり。戦闘に慣れていない身のリキとしては頼もしい。

 手のひらに乗っているラピが何かに反応する。

「新たな召喚獣が生まれる予感ぴょん。リキ、召喚魔法を使うぴょん」

 リキは不思議そうな顔をする。新たな召喚獣の召喚ができるなんて思ってもみなかったのだ。
 両の手にいるラピを肩に乗せ、地に落ちた杖を拾う。
 ラピには召喚獣の存在を感じ取ることができるのか。嘘をついているようには見えず、リキは半信半疑に〝召喚魔法〟を口にした。

 出現したのは竜のなりをした一匹の召喚獣。淡く薄い水色の体をしたラピと同じくらいの大きさで背ビレは体色よりやや濃く、碧色に輝く瞳が印象的である。翼を使って空中に浮いている。

 何を思ったかちび竜は後ろを気にかける。そこにはドラゴンーーと、戦っているメンバー。Sランクのファウンズ・キルが着実的に攻めているが、それでも痛手を負わせることはできない。

 なぜか交戦中の処へ向かったちび竜は迷いを見せることなく一直線にファウンズ・キルに向かい、空中に浮いたまま右肩辺りにつく。ファウンズが気づきちび竜を見るが危険を察知しなかったのかドラゴンへ視線を戻すが、その時、二人の体を微かに碧い光が包んだ。

 その瞬間、ファウンズの剣に水が纏う。ラピがロキについた時と同じだ。その時は炎だったがーーそれはラピが炎属性だったから。
 ちび竜は水属性ということになる。

 ファウンズは水を纏った剣を驚異の目で見る。

 しかしそんなことに構っていられないと剣を振るい再びドラゴンとの戦闘を始めた。
 相手は火を吐くドラゴン。剣が水を纏ったことで有効性のある攻撃となり、それまでよりも多いダメージが蓄積されていく。

「ご主人様も参戦するぴょん」
「私は……できない」
「どうしてぴょん? 私がいればリキは炎の攻撃魔法を使えるぴょん。それであいつをやっつけるぴょん」
「ごめんね、ラピ」

 遠くで見ているリキにもわかった。ドラゴンの体に傷ができていくのが。
 数人に囲まれ攻撃を受けるドラゴン。魔物は人を傷つけるというけれど彼は傷つけようとしなかった。
 以前、ドラゴンと会ったのをリキは覚えている。その時は突然上空から現れ攻撃をくらったが、それは一度だけ。きっと相手も攻撃をくらうのが嫌だったに違いない。だから身を守るため相手を傷つけようとした。
 その証明に、『貴方を傷つけるつもりはない』と自分の意思を伝えるとドラゴンは飛び去っていたのだ。

「あいつはご主人様を傷つけたぴょん」
「私はあのドラゴンに傷つけられてなんてないよ。ただ、ラピが傷つけられたのに何もしないっていうのは心残りになると思う」

 自分のためにラピが言ってくれているのはわかっていた。だがリキは自分の意思を曲げることはできない。あれは約束のようなものだ。少しでもドラゴンを傷つけるようなことをすれば約束を破ったことになる。

 何もしないことが果たして最善の選択なのか。
 リキにはよくわからなかった。

 それまで抗戦していたドラゴンはいきなり飛び立ち、ファラウンズの生徒たちが来た方と真逆の方向へ行く。追うのかとサラビエル講師を見れば、ここは引き返すとのこと。調査目的で来ただけであって生徒の人数も少なく後追いしては危険、それに上空を自由に飛ぶドラゴンに追いつけるわけがないーーという理由で学園に引き返すことになった。
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