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魔法召いのブレェス
噂と召喚獣②
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戦闘室に戻ると、ロキはむすっとしていた。
「なんであいつなんかについて行くんだよ。つーかあいつ誰だよ」
戦闘をすっぽかされたことがそんなに腹にたったのか。
「前に何度か会って、話したことがあるくらい」
「……名前は?」
彼の名を問う。
「いつか戦闘で組んでもらう約束したからな。名前ぐらい覚えとかないとすっぽかされるだろ」
ユーク・リフは今日、リキを連れ出す代わりにいつか戦闘でロキと組むと言った。どの程度の力があるのかは知らないが、相手から言ってきた貴重な申し出。断れば、今回無償で交渉を成立したようになる。
未だ何か考えている様子のリキを見て思う。
「まさかお前、名前も知らないやつについて行ったのか」
リキは頷く。ありえない、不用心だ、不用心すぎる。
学園内だから危険なことに巻き込まれる心配はないが、もし外でそんなことがあったら、少し警戒すべきだろう。
見知らぬ男性が声をかけてきただけでついて行ってしまうタイプなのだろうか。いやタイプとか関係ないだろ。
警戒心の問題だ。彼女は警戒心が足りない。ロキは今回の行動でなんとなくわかった気がした。人当たりが良いといつか変な者まで寄ってくる。
「聞こうと思ったんだけど聞きそびれちゃって。聞かなくてまずかったかな」
それはロキに対する気持ち。名前を知らない人を知らないままにしたことではなく、彼の名を覚えておきたい身のロキに悪いことをしたのではないのかという追認。
「今度会った時聞いておくね」
「いや自分で聞いておくから良い」
彼の容姿は覚えている。髪色は銀で男なのに長髪でどこかおくゆかしい雰囲気。名前を聞くついでに今日のことをさりげなく聞くとして。
とりあえず戦闘しようぜ、とロキは言った。とりあえず乾杯しようぜ的な軽い調子で。
出撃命令というのは突然、予期なくやってくる。
今回は六人組での出発。その中の一人がリキ・ユナテッド。
足場の悪い所を通り目的地を目指す。乗り物でいけないと判断された範囲は歩きで進むのだ。
目的地と言ってもこれといった目的があるわけではない。どこか町や村へ行く時はその場が魔物に襲われているという兆候。森の中を徘徊する場合はそういった事態がないということでだいたいが調査のために行う。魔物を退治するためでもある。どちらにしても生徒たちの実績を積み上げるための行動。
時にとても険しい道に遭遇することがある。二回目の出撃命令でリキはそれに出くわした。
細長い橋。十メートルほどある。
ロープと板だけで作られているようだ。わざわざこんな橋を渡らなければいけないのかと思う。落ちたら死。先生の指示では相手と一メートルほどの距離をとりながら進むようにと。一人ずつではないのかと喫驚するが、それはリキ一人のみ。
他の者はどうやら慣れているようで、一人が進むと距離をとって次々と橋に足を踏み入れていった。
拒絶感はないのか。絶望しつつもリキは顔には出さない。顔色には出ているが。
見知った人が前を行く。勇気を振り絞ってリキは皆と同じようなタイミングで橋に踏み入れ、ぎこちなくも進んだ。
橋を渡りきった時には精神的に疲れきっていたのか、碧い瞳の視線に気づかなかった。
橋の次は不安定な足場の段差。安定しない足つきで進む。白い杖を持ち、足元を見ながら慎重にーー。
ずるっと滑り、杖の音をたて尻餅をつく。
痛さに目を瞑る。目を開けるとふいに差し出された手。誰だろうと見上げるとそれはファウンズだった。素直にその手を受け取る。
立ち上がれば、彼は手を放し何事もない顔して前を向く。そしてまた歩き出す。リキはそんな彼の後ろ姿を眺める。
足元を見ていないリキはまたもや躓く。先ほど後ろに倒れたかと思えば今度は前。
意表を突かれ、またもや地に激突すると思ったのだがーー誰かにすっと支えられる。片腕に守られるように。
見上げてみればやはり相手はファウンズ。二度もどじを踏んでしまった。呆られてるのではないかと思うよりも先に礼の言葉が出る。
彼は何も言わず先に行く。
助けてくれた後の素っ気なさ、さり気ない動作。どちらにも優しさがあると感じられた。
ーー立ち止まった先にある洞穴。いかにも何かいるような雰囲気を持ち合わせている。
ここで何かするのか。リキがサラビエル講師を見ると厳粛した顔で洞穴を見据えていた。
休憩場と勘違いした何人かの生徒が疲れたと態勢を崩す。そんな生徒たちを見てサラビエル講師は遺憾そうにする。
ここに来るまで遭遇した魔物はその辺にいる雑魚。そんな奴らを相手にしただけでへばったのか。いや意欲が足りないだけだ。
「ここはドラゴンの住み処かもしれない」
わざわざ言いまいとしていたことを言った途端、生徒たちは鎮まった。
〝ドラゴン〟と耳にしたラピは反応する。もしかしたらそれは以前、リキを傷つけた者かもしれないと。ーーあの洞穴にいるのか。
「私が見てこよう」
「私が見てくるぴょん!」
ラピのことを兎のぬいぐるみだと思っていた生徒は驚愕する。いきなりサラビエル講師に物申したのだ。
「お前が、どうして?」
「あいつはリキを傷つけたぴょん、だからリキを守るためにやっつけるぴょん」
「もしあの洞穴にドラゴンがいたとしてもその時のドラゴンとは限らないがーーまあ、いいだろう。好きにしろ」
承諾された。しかしリキは承諾していない。肩から降ろしてと言われいつも通り手のひらに乗せ地に下ろすが、なんだか胸がざわつく。
またあの時のように消えてしまったら。消えてしまっても召喚魔法を使えば前のように出てくるのかもしれないが、絶対とは言えない。
名を口にするとラピは振り返る。
「ご主人様のためならなんでもするぴょん。心配する必要ないぴょん」
活き活きとした声でここまで言われたなら引き止めるわけにはいかない。
「……もしドラゴンがいたら叫んで」
「叫ぶのは危険だ。相手の姿を見てばれなかった時は静かに戻ってこい」
サラビエル講師の指示にわかったぴょん、と頷く。その言葉を最後にラピは洞穴に向かった。
リキは心配そうにその後ろ姿を見つめる。前と同じようなことは絶対にあってはならない。
「なんであいつなんかについて行くんだよ。つーかあいつ誰だよ」
戦闘をすっぽかされたことがそんなに腹にたったのか。
「前に何度か会って、話したことがあるくらい」
「……名前は?」
彼の名を問う。
「いつか戦闘で組んでもらう約束したからな。名前ぐらい覚えとかないとすっぽかされるだろ」
ユーク・リフは今日、リキを連れ出す代わりにいつか戦闘でロキと組むと言った。どの程度の力があるのかは知らないが、相手から言ってきた貴重な申し出。断れば、今回無償で交渉を成立したようになる。
未だ何か考えている様子のリキを見て思う。
「まさかお前、名前も知らないやつについて行ったのか」
リキは頷く。ありえない、不用心だ、不用心すぎる。
学園内だから危険なことに巻き込まれる心配はないが、もし外でそんなことがあったら、少し警戒すべきだろう。
見知らぬ男性が声をかけてきただけでついて行ってしまうタイプなのだろうか。いやタイプとか関係ないだろ。
警戒心の問題だ。彼女は警戒心が足りない。ロキは今回の行動でなんとなくわかった気がした。人当たりが良いといつか変な者まで寄ってくる。
「聞こうと思ったんだけど聞きそびれちゃって。聞かなくてまずかったかな」
それはロキに対する気持ち。名前を知らない人を知らないままにしたことではなく、彼の名を覚えておきたい身のロキに悪いことをしたのではないのかという追認。
「今度会った時聞いておくね」
「いや自分で聞いておくから良い」
彼の容姿は覚えている。髪色は銀で男なのに長髪でどこかおくゆかしい雰囲気。名前を聞くついでに今日のことをさりげなく聞くとして。
とりあえず戦闘しようぜ、とロキは言った。とりあえず乾杯しようぜ的な軽い調子で。
出撃命令というのは突然、予期なくやってくる。
今回は六人組での出発。その中の一人がリキ・ユナテッド。
足場の悪い所を通り目的地を目指す。乗り物でいけないと判断された範囲は歩きで進むのだ。
目的地と言ってもこれといった目的があるわけではない。どこか町や村へ行く時はその場が魔物に襲われているという兆候。森の中を徘徊する場合はそういった事態がないということでだいたいが調査のために行う。魔物を退治するためでもある。どちらにしても生徒たちの実績を積み上げるための行動。
時にとても険しい道に遭遇することがある。二回目の出撃命令でリキはそれに出くわした。
細長い橋。十メートルほどある。
ロープと板だけで作られているようだ。わざわざこんな橋を渡らなければいけないのかと思う。落ちたら死。先生の指示では相手と一メートルほどの距離をとりながら進むようにと。一人ずつではないのかと喫驚するが、それはリキ一人のみ。
他の者はどうやら慣れているようで、一人が進むと距離をとって次々と橋に足を踏み入れていった。
拒絶感はないのか。絶望しつつもリキは顔には出さない。顔色には出ているが。
見知った人が前を行く。勇気を振り絞ってリキは皆と同じようなタイミングで橋に踏み入れ、ぎこちなくも進んだ。
橋を渡りきった時には精神的に疲れきっていたのか、碧い瞳の視線に気づかなかった。
橋の次は不安定な足場の段差。安定しない足つきで進む。白い杖を持ち、足元を見ながら慎重にーー。
ずるっと滑り、杖の音をたて尻餅をつく。
痛さに目を瞑る。目を開けるとふいに差し出された手。誰だろうと見上げるとそれはファウンズだった。素直にその手を受け取る。
立ち上がれば、彼は手を放し何事もない顔して前を向く。そしてまた歩き出す。リキはそんな彼の後ろ姿を眺める。
足元を見ていないリキはまたもや躓く。先ほど後ろに倒れたかと思えば今度は前。
意表を突かれ、またもや地に激突すると思ったのだがーー誰かにすっと支えられる。片腕に守られるように。
見上げてみればやはり相手はファウンズ。二度もどじを踏んでしまった。呆られてるのではないかと思うよりも先に礼の言葉が出る。
彼は何も言わず先に行く。
助けてくれた後の素っ気なさ、さり気ない動作。どちらにも優しさがあると感じられた。
ーー立ち止まった先にある洞穴。いかにも何かいるような雰囲気を持ち合わせている。
ここで何かするのか。リキがサラビエル講師を見ると厳粛した顔で洞穴を見据えていた。
休憩場と勘違いした何人かの生徒が疲れたと態勢を崩す。そんな生徒たちを見てサラビエル講師は遺憾そうにする。
ここに来るまで遭遇した魔物はその辺にいる雑魚。そんな奴らを相手にしただけでへばったのか。いや意欲が足りないだけだ。
「ここはドラゴンの住み処かもしれない」
わざわざ言いまいとしていたことを言った途端、生徒たちは鎮まった。
〝ドラゴン〟と耳にしたラピは反応する。もしかしたらそれは以前、リキを傷つけた者かもしれないと。ーーあの洞穴にいるのか。
「私が見てこよう」
「私が見てくるぴょん!」
ラピのことを兎のぬいぐるみだと思っていた生徒は驚愕する。いきなりサラビエル講師に物申したのだ。
「お前が、どうして?」
「あいつはリキを傷つけたぴょん、だからリキを守るためにやっつけるぴょん」
「もしあの洞穴にドラゴンがいたとしてもその時のドラゴンとは限らないがーーまあ、いいだろう。好きにしろ」
承諾された。しかしリキは承諾していない。肩から降ろしてと言われいつも通り手のひらに乗せ地に下ろすが、なんだか胸がざわつく。
またあの時のように消えてしまったら。消えてしまっても召喚魔法を使えば前のように出てくるのかもしれないが、絶対とは言えない。
名を口にするとラピは振り返る。
「ご主人様のためならなんでもするぴょん。心配する必要ないぴょん」
活き活きとした声でここまで言われたなら引き止めるわけにはいかない。
「……もしドラゴンがいたら叫んで」
「叫ぶのは危険だ。相手の姿を見てばれなかった時は静かに戻ってこい」
サラビエル講師の指示にわかったぴょん、と頷く。その言葉を最後にラピは洞穴に向かった。
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