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魔法召いのブレェス
噂と召喚獣①
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授業の一つであるクラス内での戦闘演習。
数十人集まる演習室。決まってやることなので組む相手は皆だいたい決まっている。フウコはライハルトと、ロキだって前戦闘したときの男子生徒と組んでいる。
リキはこういう時は組んでいなさそうな人に声をかけるか、誰かが一回戦終えるのを待って声をかける。途中から入学した生徒の通るべき道……難点なところである。
人が退いたことで目に映る彼。
ーー男子生徒と組むロキはふいに周りを見渡す。目に入ったのは誰かと喋るリキの姿。その相手がファウンズ・キルだったことにほんの少し目を見張った。
一回戦終わったあと演習室を出ると、誰かを待っているようなロキと目が合う。
「戦闘室(バトルルーム)行こうぜ」
どうやらリキのことを待っていたようだ。
戦闘室という場所には行ったことがない。名前の通り戦闘をする場だと思うが。
行ったことないだろ、とスムーズに言われ、戦闘室へ行くことに。実践でのラピの力を使って戦闘したいとのこと。
戦闘室というのは演習室より広く大きい所。演習室よりも人が多く、同じクラス以外の人ばかり。
ロキはここで戦闘をするという。二人組を組んで相手と手合わせ。
「お前と組むのは初めだよな」
ただ見に来るつもりだったのだが彼がそれを許さない。もうすでにリキが〈相棒(パートナー)〉と定められているようで、良い相手がいないか目で探している。
そんな時、目の前に来た男性に目がいく。
「ーーやっぱり君だった。こんな所で会うなんてね」
銀色の綺麗な髪。雅な笑みを浮かべる。
「誰だ?」
どことなく大人びた口調をする男性を気にしたロキが、無表情のまま口にする。
彼とは前に何度か、ファウンズと一緒にいるところに出くわし話をしたことがある。リキの記憶の中では二回ほど。
「ファウンズとは仲良くやってる?」
ロキの独り言は彼には聞こえなかったようで、伝える暇なく彼の質問に答える。
「今日の演習の授業で組んでもらいました」
感情の読み取れない顔して、彼はふうんと一つ、感慨深く。少し間が空いたところですかさずロキが会話に割り入る。
「そんな話どうでもいいから早く戦闘しようぜ」
まるで、ゲームしようぜ的なノリである。リキは乗り気ではない。もともと戦闘をする前提でここに来たわけではない。この現況をどうまとめようか。
「悪いけど、どうでもいい話じゃないんだよね。俺にとっては重要」
初めて二人の目があった瞬間。なぜか嫌味に聞こえないのでロキもそんなに嫌な顔をしていない。
「ということで、この子借りるね」
「はあ?」
今、嫌そうな顔をした。
「話があるんだけど、ちょっといいかな」
知らずふりしてリキへと視線を移す。
「……」
自身だけだったら二つ返事で良かった。今はロキの相棒(パートナー)としていなければいけない気がした。
「こいつは俺とこれから戦闘(バトル)すんだよ」
無意識に守るように間に入る。
「他の者と組む気は?」
「ない」
断固と言い切るロキに、彼は思慮深い目を向けた。
ロキはラピの力を使いたくてその主人であるリキと組もうとしているのである。他に理由はない。
「じゃあ今度、俺が組んであげるから今日はこの子を諦めてもらうということで」
「あ、おい」
じゃあ行こうと男性はリキの手を引く。戸惑いながらもリキは釣られて歩んだ。どんな自意識過剰野郎だ、と心底で思ったところでロキは不意を突かれたのである。
ロキとの間に距離ができる。戦闘をやりたがっていたようだが必死に止めないところを見る限り今日でなくてもよさそう。そう思ったリキは彼に目をやる。
「どこへ行くんですか」
「さあ、どこへ行こうか」
曖昧な返事。どこか自由奔放さを感じる。それとともに放された手。
来たのは庭園。ファラウンズ学園に入学してから外へ出るのは初めてだった。
白いガゼボ近くで銀髪の彼は止まる。
話とは何だろうか。振り返った彼を見つめる。
「ファウンズのことについてのことなんだけど、あまりあいつと仲良くしないほうがいいよ」
「どうしてですか」
率直すぎる発言に戸惑う。
「あいつの噂、知ってる?」
「噂?」
「ファウンズの親は人殺しだって」
人殺し。頭に残る単語。
どんなことがあったのかは知らないがそんな噂が学園に広まっていたらしい。今になっては過去の話となっているが、全生徒が完全に忘れたわけではない。
ーーキル。家名に相応しいことをする、と。
だからファウンズまでその噂の<餌食>となった。
「嫌な話聞かせちゃったかな」
相手の反応を伺う。リキは考えるように視線を落とす。
「私は、あの人には関係ないと思う」
自信なさげに小さく喋り出したが、その瞳はちゃんとしたものである。
「親が何か悪いことをやったからといってその子供まで同じことをするわけではないし。何もやっていない人が注目の的になって、罪が覆われてるようでなんか、おかしい……」
血の繋がった人が人を殺してしまったという事実があったら自分のことのようにショックを受けるだろう。それを覆って罪まで背負うような形になったらきっと、心を閉ざしてしまう。
心の助けを求めても周りの人には変な目で見られ、ましてや変なことを思われたりしたら誰でも嫌な気持ちになる。そんな状況下に陥ったら泣きたくなるんではないだろうか。
「君は噂だけで流されない良い子ちゃんだったわけか」
そう言ってやわらげな表情を浮かべる。
「もう行っていいよ。連れ出したりしてごめん。赤髪くんの子によろしく言っておいて」
その言葉を最後に、二人の対話は幕を閉じた。
誰もいなくなった庭園。元々誰もいない庭園。そこに銀髪の男だけが佇んでいたはずなのだが、静かになった途端一つの声がした。
「そんな話して、何がしたい」
ガゼボから姿を現したのはファウンズ・キル。先ほど、「噂」に登場した人物。どうやら椅子に寝そべっていて姿が見えなかったようだ。
「随分な良いようだったな」
ファウンズ・キルは碧く輝く瞳を向ける。
それに対して銀髪の男は、びっくりすることもなく平然と答えた。
「別に何かしたかったわけじゃないよ。俺はファウンズを憎んでいるわけでも、敬遠してるわけでもない。だから彼女とお前との仲を切ろうとしたわけでもない。ただ、どんな子なんだろうって」
試すようなことをしたのか。
翠玉色の瞳を見つめる。
あいつとはそんなに仲の良いことはしていないが。そんな思いは口にせず、どういう経緯でこの男はそんなことを思ったのか黙考する。
「きっとあの子、この学園に来たばかりでお前の噂知らないだろ。少し仲が縮まってから誰かからその噂聞いて知って、態度変えるようなら近づく前に今離れさせた方がいいだろうなって」
それは彼のすべきことではない。
「余計な世話だ」
彼に背中を向けたまま、俯き加減で発する。
「自分でも思う。けど、兄ちゃんなめんな」
「誰が兄ちゃんだ。兄がいた覚えはない」
銀髪の彼の名はユーク・リフ。決してファウンズの兄ではない。流れに任せたギャグである。しかしファウンズは乗ってくれた。というより正確に訂正を入れただけである。
「それにしても言いすぎたかな」
何がだ、と注視。
「あまりお前と仲良くしないほうがいいよ、とか、お前のこと悪く言いすぎた」
ごめんと素直に謝る。
ファウンズはまたもや視線を外す。
「別にいいんじゃないか。あの生徒を俺から離そうとしたんだろ」
彼の言う通り。
「でも、気が変わったよ」
何も知らない初めから仲を引き離そうとしていたわけではない。話を聞いた時の相手の反応を見てから、これから先一緒にいても大丈夫なのか目利きしそれからどうするか考えようとした。どうせ少しは動揺しファウンズのことを敬遠しようとすると思っていたが、ユークの予想は外れた。彼女は根からそういうことをしない者らしい。〝親が人殺し〟という噂を変な風に深く考えたり追求したりしてこなかった。楽観視していたわけではないというのはわかる。よく「ファウンズ」のことを考えていた。
軽蔑することを知らないのか。それとも偏見を持つことを知らず、差別しないのか。
色々考えても表面上だけで繕った言葉にも見えなかった。
「あの子の名前なんていうの」
「ーーリキ・ユナテッド」
聞いてはみたが彼が知っていたことに少々驚く。
その横顔は無表情のまま。相変わらず何考えているのかさっぱり。
そんなファウンズにも心はある。彼の瞳は深く。何枚かのバリケードが張られているようで心の底こそ探れないがどこか、自分を責めているようであった。
数十人集まる演習室。決まってやることなので組む相手は皆だいたい決まっている。フウコはライハルトと、ロキだって前戦闘したときの男子生徒と組んでいる。
リキはこういう時は組んでいなさそうな人に声をかけるか、誰かが一回戦終えるのを待って声をかける。途中から入学した生徒の通るべき道……難点なところである。
人が退いたことで目に映る彼。
ーー男子生徒と組むロキはふいに周りを見渡す。目に入ったのは誰かと喋るリキの姿。その相手がファウンズ・キルだったことにほんの少し目を見張った。
一回戦終わったあと演習室を出ると、誰かを待っているようなロキと目が合う。
「戦闘室(バトルルーム)行こうぜ」
どうやらリキのことを待っていたようだ。
戦闘室という場所には行ったことがない。名前の通り戦闘をする場だと思うが。
行ったことないだろ、とスムーズに言われ、戦闘室へ行くことに。実践でのラピの力を使って戦闘したいとのこと。
戦闘室というのは演習室より広く大きい所。演習室よりも人が多く、同じクラス以外の人ばかり。
ロキはここで戦闘をするという。二人組を組んで相手と手合わせ。
「お前と組むのは初めだよな」
ただ見に来るつもりだったのだが彼がそれを許さない。もうすでにリキが〈相棒(パートナー)〉と定められているようで、良い相手がいないか目で探している。
そんな時、目の前に来た男性に目がいく。
「ーーやっぱり君だった。こんな所で会うなんてね」
銀色の綺麗な髪。雅な笑みを浮かべる。
「誰だ?」
どことなく大人びた口調をする男性を気にしたロキが、無表情のまま口にする。
彼とは前に何度か、ファウンズと一緒にいるところに出くわし話をしたことがある。リキの記憶の中では二回ほど。
「ファウンズとは仲良くやってる?」
ロキの独り言は彼には聞こえなかったようで、伝える暇なく彼の質問に答える。
「今日の演習の授業で組んでもらいました」
感情の読み取れない顔して、彼はふうんと一つ、感慨深く。少し間が空いたところですかさずロキが会話に割り入る。
「そんな話どうでもいいから早く戦闘しようぜ」
まるで、ゲームしようぜ的なノリである。リキは乗り気ではない。もともと戦闘をする前提でここに来たわけではない。この現況をどうまとめようか。
「悪いけど、どうでもいい話じゃないんだよね。俺にとっては重要」
初めて二人の目があった瞬間。なぜか嫌味に聞こえないのでロキもそんなに嫌な顔をしていない。
「ということで、この子借りるね」
「はあ?」
今、嫌そうな顔をした。
「話があるんだけど、ちょっといいかな」
知らずふりしてリキへと視線を移す。
「……」
自身だけだったら二つ返事で良かった。今はロキの相棒(パートナー)としていなければいけない気がした。
「こいつは俺とこれから戦闘(バトル)すんだよ」
無意識に守るように間に入る。
「他の者と組む気は?」
「ない」
断固と言い切るロキに、彼は思慮深い目を向けた。
ロキはラピの力を使いたくてその主人であるリキと組もうとしているのである。他に理由はない。
「じゃあ今度、俺が組んであげるから今日はこの子を諦めてもらうということで」
「あ、おい」
じゃあ行こうと男性はリキの手を引く。戸惑いながらもリキは釣られて歩んだ。どんな自意識過剰野郎だ、と心底で思ったところでロキは不意を突かれたのである。
ロキとの間に距離ができる。戦闘をやりたがっていたようだが必死に止めないところを見る限り今日でなくてもよさそう。そう思ったリキは彼に目をやる。
「どこへ行くんですか」
「さあ、どこへ行こうか」
曖昧な返事。どこか自由奔放さを感じる。それとともに放された手。
来たのは庭園。ファラウンズ学園に入学してから外へ出るのは初めてだった。
白いガゼボ近くで銀髪の彼は止まる。
話とは何だろうか。振り返った彼を見つめる。
「ファウンズのことについてのことなんだけど、あまりあいつと仲良くしないほうがいいよ」
「どうしてですか」
率直すぎる発言に戸惑う。
「あいつの噂、知ってる?」
「噂?」
「ファウンズの親は人殺しだって」
人殺し。頭に残る単語。
どんなことがあったのかは知らないがそんな噂が学園に広まっていたらしい。今になっては過去の話となっているが、全生徒が完全に忘れたわけではない。
ーーキル。家名に相応しいことをする、と。
だからファウンズまでその噂の<餌食>となった。
「嫌な話聞かせちゃったかな」
相手の反応を伺う。リキは考えるように視線を落とす。
「私は、あの人には関係ないと思う」
自信なさげに小さく喋り出したが、その瞳はちゃんとしたものである。
「親が何か悪いことをやったからといってその子供まで同じことをするわけではないし。何もやっていない人が注目の的になって、罪が覆われてるようでなんか、おかしい……」
血の繋がった人が人を殺してしまったという事実があったら自分のことのようにショックを受けるだろう。それを覆って罪まで背負うような形になったらきっと、心を閉ざしてしまう。
心の助けを求めても周りの人には変な目で見られ、ましてや変なことを思われたりしたら誰でも嫌な気持ちになる。そんな状況下に陥ったら泣きたくなるんではないだろうか。
「君は噂だけで流されない良い子ちゃんだったわけか」
そう言ってやわらげな表情を浮かべる。
「もう行っていいよ。連れ出したりしてごめん。赤髪くんの子によろしく言っておいて」
その言葉を最後に、二人の対話は幕を閉じた。
誰もいなくなった庭園。元々誰もいない庭園。そこに銀髪の男だけが佇んでいたはずなのだが、静かになった途端一つの声がした。
「そんな話して、何がしたい」
ガゼボから姿を現したのはファウンズ・キル。先ほど、「噂」に登場した人物。どうやら椅子に寝そべっていて姿が見えなかったようだ。
「随分な良いようだったな」
ファウンズ・キルは碧く輝く瞳を向ける。
それに対して銀髪の男は、びっくりすることもなく平然と答えた。
「別に何かしたかったわけじゃないよ。俺はファウンズを憎んでいるわけでも、敬遠してるわけでもない。だから彼女とお前との仲を切ろうとしたわけでもない。ただ、どんな子なんだろうって」
試すようなことをしたのか。
翠玉色の瞳を見つめる。
あいつとはそんなに仲の良いことはしていないが。そんな思いは口にせず、どういう経緯でこの男はそんなことを思ったのか黙考する。
「きっとあの子、この学園に来たばかりでお前の噂知らないだろ。少し仲が縮まってから誰かからその噂聞いて知って、態度変えるようなら近づく前に今離れさせた方がいいだろうなって」
それは彼のすべきことではない。
「余計な世話だ」
彼に背中を向けたまま、俯き加減で発する。
「自分でも思う。けど、兄ちゃんなめんな」
「誰が兄ちゃんだ。兄がいた覚えはない」
銀髪の彼の名はユーク・リフ。決してファウンズの兄ではない。流れに任せたギャグである。しかしファウンズは乗ってくれた。というより正確に訂正を入れただけである。
「それにしても言いすぎたかな」
何がだ、と注視。
「あまりお前と仲良くしないほうがいいよ、とか、お前のこと悪く言いすぎた」
ごめんと素直に謝る。
ファウンズはまたもや視線を外す。
「別にいいんじゃないか。あの生徒を俺から離そうとしたんだろ」
彼の言う通り。
「でも、気が変わったよ」
何も知らない初めから仲を引き離そうとしていたわけではない。話を聞いた時の相手の反応を見てから、これから先一緒にいても大丈夫なのか目利きしそれからどうするか考えようとした。どうせ少しは動揺しファウンズのことを敬遠しようとすると思っていたが、ユークの予想は外れた。彼女は根からそういうことをしない者らしい。〝親が人殺し〟という噂を変な風に深く考えたり追求したりしてこなかった。楽観視していたわけではないというのはわかる。よく「ファウンズ」のことを考えていた。
軽蔑することを知らないのか。それとも偏見を持つことを知らず、差別しないのか。
色々考えても表面上だけで繕った言葉にも見えなかった。
「あの子の名前なんていうの」
「ーーリキ・ユナテッド」
聞いてはみたが彼が知っていたことに少々驚く。
その横顔は無表情のまま。相変わらず何考えているのかさっぱり。
そんなファウンズにも心はある。彼の瞳は深く。何枚かのバリケードが張られているようで心の底こそ探れないがどこか、自分を責めているようであった。
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