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魔法召いのブレェス
ロキと召喚獣④
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「いなく、なっちまったのか、あいつ……」
ラピが本戦の場でなくなってしまったということをロキに伝えると、暗い顔をして俯いてしまった。喧嘩ばかりしていた二人だけど、やはりいなくなることが寂しいことに変わりない。
ーー魔物と戦った時に私をかばって
喉元まで来て止めた。かばおうとしてくれたんじゃない、守ろうとしてくれたんだ。
(私がもっとちゃんとしていれば)
魔法の使えない自分を悔やむ日がくるとは思っていなかった。使える素質はある。回復魔法が使えるのだ。それにラピの言う通りに<ファイア>を使おうとしたら使えた。攻撃魔法を鍛練していたら初の本戦の結果は変わっていたんだろうか。されどもう<ファイア>は使えないのだろう。ラピが炎系の魔法を発動できるようしてくれたから使えただけであって、自分だけの力では何も起こらない。
「もう一度召喚とかできないのか」
そんなことができるのだろうか。
以前は適当に召喚した。初の適当な召喚の仕方でラピが出てくれたのだ。
できるのならやってみたい。
「できるかどうかはわからないけど、やってみる」
期待はしていないが、やるだけ無駄じゃない。
数々ある思い出を思い出しながら、イメージする。そして召喚魔法、と口にした。
(ラピ、お願い、でてきて)
机の上にポンっと現れたのは小さな体をした兎ーーラピだった。
「ーーラピ」
「ご主人様……」
驚いたような瞳をしているラピに両手を広げると、ラピは素直に飛んできた。顔のところまで持っていき、ぎゅっとする。
「おかえり」
「ただいまぴょん」
感動の再会。をした二人を見て安心したような顔をした者が一人。
自席に座ったまま机上にいるラピに言う。
「なんだてめえ、戻れるんじゃねえかよ」
「戻ってきちゃ悪いぴょん?」
「うるさいのがいなくなって清々してたんだけどな」
「もう怒ったぴょん」
怒るの早い。
「ラピ。ロキは心配してーー」
仲介に入ろうとしたところ、ロキがははっと笑う。何がおかしいぴょん、とラピが言うと。
「お前キレんの早すぎ」
笑顔で答える。これまでラピに見せてこなかった心の中からの笑み。
どうやら仲介に入る必要はなかったようだ。元々喧嘩が始まるような空気でもなかった。
「ロキはラピのことが好きなんだね」
「はっ?」
とぼけた顔をするロキ。
「ラピもロキのこと好きなんでしょ?」
口喧嘩しつつも二人は仲が良いように見える。
「それはありえないぴょん」
「本当ありえねえよ。こいつ動物だぜ、マジないわ」
小さな兎を指差して冷笑。反抗的な目をラピは向ける。
「動物じゃなくて召喚獣ぴょん」
「どうみてもウサギじゃねえか。ウサギ以外の何物でもねえ」
お互い好きじゃないということらしい。
「そんなこと言うならもう力与えてやらないぴょん」
「……力?」
それまで睨み合っていた二人。ロキが首を傾げる。
「ご主人様とロキとの相性度が一定まで達したので、ロキに力を与えてやれるようになったぴょん。だけど与えてやらないことにしたぴょん」
「いやちょっと待て、力ってなんだ。何かすごいことなのか」
何だか難しい話にロキは戸惑う。だがラピは知らんフリ。仕方ないのでリキに頼む。
「おい何とか言ってくれよ」
「ラピ。その〝力〟って、何?」
「魔法みたいなものぴょん。攻撃に属性がつくぴょん」
リキの質問には素直に答える。これぞ主人を慕う召喚獣。
「……魔法?」
「……属性?」
二人して疑問符を浮かべる。
「私は炎の属性の召喚獣(持ち主)。誰かに付けばその誰かに炎の属性がつくんだぴょん」
「ーー……それって、すごいことなのか?」
「すごいことぴょん! これ以上すごいことはないぴょん!」
自信満々に言うラピを疑った目で見るロキ。必死で訴えるが相手は信用する気ゼロ。だったらと、完全にひねくれる。
「信じないなら別にいいぴょん」
ひねくれられると逆に興味を持つのは何故か。
「何すりゃいいんだよ」
「私に敬意を示すぴょん」
「はあ?」
めったに見ない召喚獣が言うことなのだから、まあすごいことなのかと思い直したのだが。
「今までの侮辱、全て無に返すぴょん」
相手は容易いものではない。
……手をぐうにする。握った手をぱっと開く。
「はい無に返しましたー」
「まだ何もしていないぴょん!」
ロキの自然なボケに、キレの良い指摘(ツッコミ)をする小さな兎。
だったら何すりゃ良いんだよという顔をするロキに。
「謝るぴょん。〝今まで大変失礼極まりない発言をして大変すみませんでした〟と」
威圧的な態度をとっているが全く威圧感がない。それゆえ、相手に苛立ちを覚えさせてしまう。
「〝今まで大変失礼極まりない発言をして大変すみませんでした〟。ーー……このクソコウサギあとで殺してやる」
「心漏れ酷いぴょん! 故(ゆえ)に今までで一番最低な発言をしたぴょん! そして棒読みぴょん!」
心漏れも酷いが、心漏れした時の顔も酷い。
ツッコミどころ満載というか、二人の会話の間にもツッコミどころがあるというか。ラピが一度消えてもう二度と会えないと思っていたのが嘘のようである。
リキはそんな二人の〝見ていて危なっかしいけど楽しい会話〟を見物中。
「〝今までのこと〟は無に返しただろ」
得意気に笑む。ロキの方が一つうわてであった。
自由に使えるルームでの実践。 何でもない剣に炎がまとわりつく。
「おお。すげー」
何度か剣を振ると炎も共に動く。まるで剣が燃えているようである。
ロキの肩には小さな兎ともラピとも呼べる召喚獣。言っていた通り力を与えているのだ。誰かに付くことにより誰かに己の属性を与えることができる。
簡単に言えば、自分に付いた召喚獣の持っている属性がつく。しかしそれは召喚獣が自分に付いている時のみ。それとあともう一つ条件がある。その召喚獣の主、(召喚師)が傍にいなければ発動しない特殊な力となっている。
「てかよく考えてみれば属性付加の魔法ってあったよな。だとすると、召喚獣が与えてくれる力ってそんな大したものじゃないーー?」
実践室を出て、黙っていたロキがふいに疑問を漏らす。何か考えごとをしている様子。
「そんなことないぴょん。何回か同じことをするうちに必殺技が使えるようになるぴょん」
「必殺技? へー」
「気になるぴょん?」
「すごそうに聞こえるけどなんかダサそうだな」
またもや心漏れ。
「いや嘘。続けて続けて」
ラピの対応にも慣れてきたようだ。おかげで目の前で喧嘩を見ずにすむ。
「私の炎を纏った必殺技はとても最強ぴょん」
「ふーん。今すぐ使えねえの?」
「だから何回か私の炎を纏う内に使えるようになるぴょん。ちゃんと人の話聞くぴょん」
「人じゃねえだろ」
そこは誰もが思うことだが、それを口にするのはロキのような少し天然な人だろう。あとは突っ込みを入れたい人など、特殊な人。
「リキの魔力が私を通ってロキに渡る。だから無駄遣いは許さないぴょん」
「アレ、全部お前の力なんじゃねえの」
剣に炎をまとわせる。それはラピだけで行っているものではないのか。
「全部じゃないぴょん。私には魔力がないぴょん。そのかわりにご主人様の魔力を頂いて自由に扱うことができるぴょん」
リキの魔力を使用して炎属性を誰かに付加することができる。
「まとめて言えば、俺に力を与えてくれるのはユナテッドってことか」
「私にも特殊なことを行う力があるぴょん」
炎属性を誰かに付加することができる他に、リキが炎の攻撃魔法を使えるようにすることができる。それでもやはり結局使うのはリキの魔力。
「ユナテッドの魔力がなけりゃただのウサギなんだろ。それに俺が見解するに、お前はただの<器>。ユナテッドがお前に魔力をおくっている、だからお前がその魔力を自由に使うことができて、憑いた奴に炎属性を付加することができる」
「……他にもできることはあるぴょん」
「それもユナテッドの魔力なしじゃできないんだろ」
間違ってるか? といつもと変わらない眼差しだが、会話的に少し冷たさを感じる。
「まあ、正しい解説ではあるぴょん……」
わかりやすい落ち込み方。珍しく喧嘩腰でない。顔を俯かせて何かを考えている様子。
そのあと実践を続けようと言ったロキだったが、ラピはそんな調子じゃないぴょんと断りを入れた。元々ラピが持ちかけた話だったのだが、何か気に障ったようだ。察したリキがおいでとラピに手を差し出すと、ロキの肩から離れ手のひらに収まる。
状況が掴めないでいるロキに「今日はもうお終い」と、終わりを告げた。
フウコのいない静かな部屋。まだ私室に戻る時間帯ではない。
机上に乗せたラピと自然と面と向かった状態になる。
「ラピの良いところは、何?」
優しく訊く。
「良いところ……」
寂しげな目。俯いたままに答える。
「誰かに炎属性を付加することができるぴょん。でもリキの魔力がないとできないぴょん」
「他には?」
「他……。少しの魔力で炎の攻撃魔法が使えるぴょん。でもやっぱりリキの魔力がないと使えないぴょん」
きっとロキに言われたことを気にしているのだろう。できることがあるのに無力感を感じている。こんなにも小さいのに。
「すごいねラピは」
ふっと零れたような一言に、小さな兎は顔を上げ瞳を丸くする。その先には暖かい表情。
「私もラピと同じだよ。魔力はあるみたいだけどラピがいないと誰かに炎属性を付加することはできない。魔力があって回復魔法は使えるけど、ラピがいないと炎の攻撃魔法が使えない。それにラピがいないと寂しい」
「ご主人様……」
尊敬の眼差し。というよりも、主人に自分の存在を認められた小動物のよう。
名前で呼んでと言ったことがあるのだが、時々、こういう呼ばれ方をする。
「私たちはきっと繋がってるんだよ。補い合っていくためにそうなっている」
召喚獣は己の中から生まれたもので、自分の一部なのかもしれない。
ラピがいるおかげで炎の攻撃魔法が使えたり誰かの役にたてたり。
逆にラピの持っていない魔力を持っているおかげでラピが存在できている。
どちらも持ちつ持たれつの関係。
「やっぱりリキはわかってるぴょん。私はリキの補佐ぴょん。私にしかできない役割ぴょん」
立ち直るのが早いのがラピの長所となった。
ーー翌日。
「すまなかった。ただの器なんて言って」
昨日のことについてロキは謝る。いつも言い合っている二人だがお互い今日はとても静かだった。それはラピがロキのことを無視していたからである。視線に気づいた時にはそっぽを向いて完全に友好を遮断していた。
「私はリキの立派な補佐ぴょん。これからは<器>なんて言ったら許さないぴょん」
ぽかんとする。そんなことで器と言われたのがショックだったのか。ラピが素っ気ない態度ばかり取るので理由(ワケ)をリキに小声で聞いてみたところ、<器>と言われたことに傷ついたみたいと言った。だから謝ったのだが。まさか補佐としていたかったなんて。
「ユナテッドの立派な補佐、早く実践やろーぜ」
「やってあげなくもないぴょん」
意図なく笑ってしまう。
「お前の機嫌もとんなきゃいけねーなんて、面倒な力」
必殺技とやらを早く使ってみたいロキには実践が欠かせなかった。ラピの機嫌が悪ければ力は与えてはくれない。そう思っているロキだが、ラピが機嫌悪くも実践室の前まで来ても黙っていたのは何故か。最初から力は与えようと思っていたのである。
子供の好奇心にはどんなにひねくれている時であろうが勝てない。人に……獣にもよるが。
「一定以上のダメージを負うと姿が保てなくなるみたいぴょん。でももう一度喚んでもらえれば何もかも戻通りぴょん」
ラピが消えた理由、もう一度召喚できた理由は簡単なものであった。
ラピが本戦の場でなくなってしまったということをロキに伝えると、暗い顔をして俯いてしまった。喧嘩ばかりしていた二人だけど、やはりいなくなることが寂しいことに変わりない。
ーー魔物と戦った時に私をかばって
喉元まで来て止めた。かばおうとしてくれたんじゃない、守ろうとしてくれたんだ。
(私がもっとちゃんとしていれば)
魔法の使えない自分を悔やむ日がくるとは思っていなかった。使える素質はある。回復魔法が使えるのだ。それにラピの言う通りに<ファイア>を使おうとしたら使えた。攻撃魔法を鍛練していたら初の本戦の結果は変わっていたんだろうか。されどもう<ファイア>は使えないのだろう。ラピが炎系の魔法を発動できるようしてくれたから使えただけであって、自分だけの力では何も起こらない。
「もう一度召喚とかできないのか」
そんなことができるのだろうか。
以前は適当に召喚した。初の適当な召喚の仕方でラピが出てくれたのだ。
できるのならやってみたい。
「できるかどうかはわからないけど、やってみる」
期待はしていないが、やるだけ無駄じゃない。
数々ある思い出を思い出しながら、イメージする。そして召喚魔法、と口にした。
(ラピ、お願い、でてきて)
机の上にポンっと現れたのは小さな体をした兎ーーラピだった。
「ーーラピ」
「ご主人様……」
驚いたような瞳をしているラピに両手を広げると、ラピは素直に飛んできた。顔のところまで持っていき、ぎゅっとする。
「おかえり」
「ただいまぴょん」
感動の再会。をした二人を見て安心したような顔をした者が一人。
自席に座ったまま机上にいるラピに言う。
「なんだてめえ、戻れるんじゃねえかよ」
「戻ってきちゃ悪いぴょん?」
「うるさいのがいなくなって清々してたんだけどな」
「もう怒ったぴょん」
怒るの早い。
「ラピ。ロキは心配してーー」
仲介に入ろうとしたところ、ロキがははっと笑う。何がおかしいぴょん、とラピが言うと。
「お前キレんの早すぎ」
笑顔で答える。これまでラピに見せてこなかった心の中からの笑み。
どうやら仲介に入る必要はなかったようだ。元々喧嘩が始まるような空気でもなかった。
「ロキはラピのことが好きなんだね」
「はっ?」
とぼけた顔をするロキ。
「ラピもロキのこと好きなんでしょ?」
口喧嘩しつつも二人は仲が良いように見える。
「それはありえないぴょん」
「本当ありえねえよ。こいつ動物だぜ、マジないわ」
小さな兎を指差して冷笑。反抗的な目をラピは向ける。
「動物じゃなくて召喚獣ぴょん」
「どうみてもウサギじゃねえか。ウサギ以外の何物でもねえ」
お互い好きじゃないということらしい。
「そんなこと言うならもう力与えてやらないぴょん」
「……力?」
それまで睨み合っていた二人。ロキが首を傾げる。
「ご主人様とロキとの相性度が一定まで達したので、ロキに力を与えてやれるようになったぴょん。だけど与えてやらないことにしたぴょん」
「いやちょっと待て、力ってなんだ。何かすごいことなのか」
何だか難しい話にロキは戸惑う。だがラピは知らんフリ。仕方ないのでリキに頼む。
「おい何とか言ってくれよ」
「ラピ。その〝力〟って、何?」
「魔法みたいなものぴょん。攻撃に属性がつくぴょん」
リキの質問には素直に答える。これぞ主人を慕う召喚獣。
「……魔法?」
「……属性?」
二人して疑問符を浮かべる。
「私は炎の属性の召喚獣(持ち主)。誰かに付けばその誰かに炎の属性がつくんだぴょん」
「ーー……それって、すごいことなのか?」
「すごいことぴょん! これ以上すごいことはないぴょん!」
自信満々に言うラピを疑った目で見るロキ。必死で訴えるが相手は信用する気ゼロ。だったらと、完全にひねくれる。
「信じないなら別にいいぴょん」
ひねくれられると逆に興味を持つのは何故か。
「何すりゃいいんだよ」
「私に敬意を示すぴょん」
「はあ?」
めったに見ない召喚獣が言うことなのだから、まあすごいことなのかと思い直したのだが。
「今までの侮辱、全て無に返すぴょん」
相手は容易いものではない。
……手をぐうにする。握った手をぱっと開く。
「はい無に返しましたー」
「まだ何もしていないぴょん!」
ロキの自然なボケに、キレの良い指摘(ツッコミ)をする小さな兎。
だったら何すりゃ良いんだよという顔をするロキに。
「謝るぴょん。〝今まで大変失礼極まりない発言をして大変すみませんでした〟と」
威圧的な態度をとっているが全く威圧感がない。それゆえ、相手に苛立ちを覚えさせてしまう。
「〝今まで大変失礼極まりない発言をして大変すみませんでした〟。ーー……このクソコウサギあとで殺してやる」
「心漏れ酷いぴょん! 故(ゆえ)に今までで一番最低な発言をしたぴょん! そして棒読みぴょん!」
心漏れも酷いが、心漏れした時の顔も酷い。
ツッコミどころ満載というか、二人の会話の間にもツッコミどころがあるというか。ラピが一度消えてもう二度と会えないと思っていたのが嘘のようである。
リキはそんな二人の〝見ていて危なっかしいけど楽しい会話〟を見物中。
「〝今までのこと〟は無に返しただろ」
得意気に笑む。ロキの方が一つうわてであった。
自由に使えるルームでの実践。 何でもない剣に炎がまとわりつく。
「おお。すげー」
何度か剣を振ると炎も共に動く。まるで剣が燃えているようである。
ロキの肩には小さな兎ともラピとも呼べる召喚獣。言っていた通り力を与えているのだ。誰かに付くことにより誰かに己の属性を与えることができる。
簡単に言えば、自分に付いた召喚獣の持っている属性がつく。しかしそれは召喚獣が自分に付いている時のみ。それとあともう一つ条件がある。その召喚獣の主、(召喚師)が傍にいなければ発動しない特殊な力となっている。
「てかよく考えてみれば属性付加の魔法ってあったよな。だとすると、召喚獣が与えてくれる力ってそんな大したものじゃないーー?」
実践室を出て、黙っていたロキがふいに疑問を漏らす。何か考えごとをしている様子。
「そんなことないぴょん。何回か同じことをするうちに必殺技が使えるようになるぴょん」
「必殺技? へー」
「気になるぴょん?」
「すごそうに聞こえるけどなんかダサそうだな」
またもや心漏れ。
「いや嘘。続けて続けて」
ラピの対応にも慣れてきたようだ。おかげで目の前で喧嘩を見ずにすむ。
「私の炎を纏った必殺技はとても最強ぴょん」
「ふーん。今すぐ使えねえの?」
「だから何回か私の炎を纏う内に使えるようになるぴょん。ちゃんと人の話聞くぴょん」
「人じゃねえだろ」
そこは誰もが思うことだが、それを口にするのはロキのような少し天然な人だろう。あとは突っ込みを入れたい人など、特殊な人。
「リキの魔力が私を通ってロキに渡る。だから無駄遣いは許さないぴょん」
「アレ、全部お前の力なんじゃねえの」
剣に炎をまとわせる。それはラピだけで行っているものではないのか。
「全部じゃないぴょん。私には魔力がないぴょん。そのかわりにご主人様の魔力を頂いて自由に扱うことができるぴょん」
リキの魔力を使用して炎属性を誰かに付加することができる。
「まとめて言えば、俺に力を与えてくれるのはユナテッドってことか」
「私にも特殊なことを行う力があるぴょん」
炎属性を誰かに付加することができる他に、リキが炎の攻撃魔法を使えるようにすることができる。それでもやはり結局使うのはリキの魔力。
「ユナテッドの魔力がなけりゃただのウサギなんだろ。それに俺が見解するに、お前はただの<器>。ユナテッドがお前に魔力をおくっている、だからお前がその魔力を自由に使うことができて、憑いた奴に炎属性を付加することができる」
「……他にもできることはあるぴょん」
「それもユナテッドの魔力なしじゃできないんだろ」
間違ってるか? といつもと変わらない眼差しだが、会話的に少し冷たさを感じる。
「まあ、正しい解説ではあるぴょん……」
わかりやすい落ち込み方。珍しく喧嘩腰でない。顔を俯かせて何かを考えている様子。
そのあと実践を続けようと言ったロキだったが、ラピはそんな調子じゃないぴょんと断りを入れた。元々ラピが持ちかけた話だったのだが、何か気に障ったようだ。察したリキがおいでとラピに手を差し出すと、ロキの肩から離れ手のひらに収まる。
状況が掴めないでいるロキに「今日はもうお終い」と、終わりを告げた。
フウコのいない静かな部屋。まだ私室に戻る時間帯ではない。
机上に乗せたラピと自然と面と向かった状態になる。
「ラピの良いところは、何?」
優しく訊く。
「良いところ……」
寂しげな目。俯いたままに答える。
「誰かに炎属性を付加することができるぴょん。でもリキの魔力がないとできないぴょん」
「他には?」
「他……。少しの魔力で炎の攻撃魔法が使えるぴょん。でもやっぱりリキの魔力がないと使えないぴょん」
きっとロキに言われたことを気にしているのだろう。できることがあるのに無力感を感じている。こんなにも小さいのに。
「すごいねラピは」
ふっと零れたような一言に、小さな兎は顔を上げ瞳を丸くする。その先には暖かい表情。
「私もラピと同じだよ。魔力はあるみたいだけどラピがいないと誰かに炎属性を付加することはできない。魔力があって回復魔法は使えるけど、ラピがいないと炎の攻撃魔法が使えない。それにラピがいないと寂しい」
「ご主人様……」
尊敬の眼差し。というよりも、主人に自分の存在を認められた小動物のよう。
名前で呼んでと言ったことがあるのだが、時々、こういう呼ばれ方をする。
「私たちはきっと繋がってるんだよ。補い合っていくためにそうなっている」
召喚獣は己の中から生まれたもので、自分の一部なのかもしれない。
ラピがいるおかげで炎の攻撃魔法が使えたり誰かの役にたてたり。
逆にラピの持っていない魔力を持っているおかげでラピが存在できている。
どちらも持ちつ持たれつの関係。
「やっぱりリキはわかってるぴょん。私はリキの補佐ぴょん。私にしかできない役割ぴょん」
立ち直るのが早いのがラピの長所となった。
ーー翌日。
「すまなかった。ただの器なんて言って」
昨日のことについてロキは謝る。いつも言い合っている二人だがお互い今日はとても静かだった。それはラピがロキのことを無視していたからである。視線に気づいた時にはそっぽを向いて完全に友好を遮断していた。
「私はリキの立派な補佐ぴょん。これからは<器>なんて言ったら許さないぴょん」
ぽかんとする。そんなことで器と言われたのがショックだったのか。ラピが素っ気ない態度ばかり取るので理由(ワケ)をリキに小声で聞いてみたところ、<器>と言われたことに傷ついたみたいと言った。だから謝ったのだが。まさか補佐としていたかったなんて。
「ユナテッドの立派な補佐、早く実践やろーぜ」
「やってあげなくもないぴょん」
意図なく笑ってしまう。
「お前の機嫌もとんなきゃいけねーなんて、面倒な力」
必殺技とやらを早く使ってみたいロキには実践が欠かせなかった。ラピの機嫌が悪ければ力は与えてはくれない。そう思っているロキだが、ラピが機嫌悪くも実践室の前まで来ても黙っていたのは何故か。最初から力は与えようと思っていたのである。
子供の好奇心にはどんなにひねくれている時であろうが勝てない。人に……獣にもよるが。
「一定以上のダメージを負うと姿が保てなくなるみたいぴょん。でももう一度喚んでもらえれば何もかも戻通りぴょん」
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