魔法召いのリキ・ユナテッド

リオ

文字の大きさ
上 下
8 / 71
魔法召いのブレェス

ロキと召喚獣②

しおりを挟む
「そうじゃないぴょん!」
「さっきからその『ぴょん』ってなんだよ。ぴょんぴょん兎の子ってか。うざいわ」

 勉強を放棄したロキ。今更うさぎの語尾に触れるのはどうかと思う。

 こうなった経緯ーーリキが自席でうさぎに勉強を教えてもらっているとロキが何をしているのかと聞いてきたので勉強をしていると答えた。するとまた、なんで勉強なんてしてんだよと言われたのでテストが近いみたいだからと答えた。彼はぽかんと顔をして、マジか……の一言。そういえばそうだったと気づいた彼は俺も一緒に教えろと上から目線での頼みをうさぎにしたのだ。

「もう怒ったぴょん」

 うさぎは怒りやすい性格だと知っている。勉強を教えてあげているというのに嫌味なんて言われたら誰もが嫌な気分になるだろう。

「待って、うさぴょん」

 うさぎ一匹に対して二人の生徒。どうやったら満遍なく勉強を教えてもらえるか。考えた結果、リキはロキの隣に移動した。そのためロキの態度もうさぎの表情も傍でよく観察できる。怒りに任せて手を出してしまいそうな勢いだ。
 口喧嘩だけでとどめておきたいと思っていたが願い叶わず。ぴょんっとうさぎは跳ね、くるっと体を空中で捻り、回し蹴りをロキの頬へくらわせた。意外と衝撃が強いようだ。

「いってーな……」
「ごめん。うちのうさぴょんが」
「しつけなってねぇぞ」

 まるで何かの動物の飼い主と、近所の住民との会話である。うさぎは召喚獣である。

「リキは悪くないぴょん」

 ーー『リキでいいよ』
 〝ご主人様〟なんて聞きなれなかったリキはうさぎにそう言った。

「元々お前が悪いんだろうが! ……つか、勉強教えてもらうのにこんな体力使わなきゃいけないのかよ」
 戦闘能力もだが頭脳も大事。その現実にロキは疲れているようだ。うさぎとの会話の疲れが大きいようだが。

「私が教えてあげられたらよかったんだけどね」
「ここに来たばかりのやつが何言ってる。自分のことだけで精一杯だろ」
「そうだね。でも少しずつだけど慣れてきたよ」

 最初はただ驚くことしかできなかったけど、今日まで流されてきたようなものだけど、ーーそれでも頑張っている。

 自分にはない素直さに見つめてしまう。そんなロキにうさぎは、いつまで変な目で見ているんだぴょん、と嫌味に一言。別に変な目で見てねえだろと否定すると、ご主人様は私のものだぴょん、と。気持ちわりぃ、溺愛かよと立て続けに言うと、悪いぴょん? 溺愛の何が悪いぴょんと冷めた口調で開き直ってしまい。勉強どころではない。

「つか、ただのうさぎ召喚獣如きに知識があるなんてな」

 うさぎ召喚獣とはなんだぴょんと今までされなかった呼び方に引っ掛かるうさぎを見てロキは思う。ーーこれで少しおとなしかったら。勉強もはかどるし、苛つくこともないし良い事尽くめ。

「私も最初びっくりした。うさぴょんやるね」
「うさぴょん、って。ちゃんとした名前とか付けねーの?」

 真面目な顔をして続ける。

「例えば……うさ太郎とか?」
 それこそちゃんとしていないような気がするが。確かにちゃんとした名前を付けようとしていなかった。うさぎが語尾にぴょんを使うから〝うさぴょん〟。深く考えてみれば適当すぎる。

「ぴょん吉とかどーよ?」

 ぴょん太郎とか、とロキの名前候補が続いたがーー。結局リキの考えた〝ラピ〟と名付けることにした。



 二週間なんてものはあっという間で。テストはやってきた。
 ロキの頭脳評価はB。テスト点数は53点。50以上がBなのでぎりぎりである。

「俺もやればできるじゃん」

 自分で自分を褒め称える横で、自分を誇っている者が一匹。

「私のおかげぴょん」
「恩着せがましい」
「にゃんだとっ!」
「猫かよ。お前はうさぎだろ。あ、猫をかぶったうさぎか? にしても可愛くねえよな」
「可愛くなくて悪かったぴょん」
「え。ラピは可愛いよ」
「ご主人様……」

 動物は人が心から言っている言葉なのかがわかる。だがラピはうさぎである前に召喚獣である。召喚獣である前にうさぎではない。

「リキがいれば他はどうでもいいぴょん」
「それはだめだよ」

 もっと視野を広くしないと、と言われているうさぎを見て世話ないなと思うロキ。

「お前は評価何だった」
「……A」
 ぎこちなく言う。自分でもこんな高評価が貰えると思っていなかった。
「なっ、なんで。85以上取ったのかよ?」
「うん。ちょうど85」
 証拠のテスト用紙を見せると唖然とする。

「は、おま、なんで?」
「……さあ?」

 同じようなトーンで首を傾げる。

「もしかしてそいつを使ってずるでもしたか」
「ご主人様はそんなことしないぴょん」

 容疑をかけられたうさぎは、たまにリキのことを名前で呼ぶのを忘れてしまう。

「ラピはテストの妨害となるからって、テスト時はサラビエル先生に連れて行かれた」
「……あの女の人苦手ぴょん」

 ああそうだったなとロキは思い出す。うさぎはテスト時、サラビエル先生に連行されたのだ。

 ーーじゃあ。
「お前実は頭良いのか?」

「ラピの教え方がうまくて、スイスイっと頭に入っていった、っていうのかな」
 真っ白なノートに重要な全てが書き込まれた感じである。

「……だったら俺にも勉強教えてくれよ」

 うさぎに教えられるよりも嫌味を言われることなく、嫌な気分にならずに勉強がはかどっただろう。

「教えられるほど頭良くないよ」
「良いだろ。85。俺よりプラス32」
「あまり変わりないとーー」
 あるだろ視線が痛い。
「頭脳Bなんだよね。私と一つしか変わらない、よね?」
 精一杯の返しである。納得のいかない目をされているのがわかって居心地が悪い。

「まあ戦闘評価では勝ったけどな」

 戦闘評価は前に試験をやって決められたもの。リキは力C協力性C。相手のうち一人はロキだった。だから評価は聞かれていたのか。
 何(なん)なの? と聞くと不服そうな顔をしたまま。
「ーーAB」
「凄いね」
 高評価である。つい思ったことがそのまま口に出た。

「凄くねーよ。Sにはほど遠い」
「でも力はあとワンランク上がればSでしょ?」
「だけどそのワンランク上げるには頭脳評価のように〝間(ま)〟が大きい」

 頭脳評価ではテストの点数85以上がA。Sは95から。
 確かに間が大きい。上にいけばいくほどワンランク上げるのが難しくなる。



「あの子、最近あの赤髪くんと仲良くしてるね」
 ライハルトの見つめる先はーーリキと、わざわざ後ろを向いて話をしているロキ。

「ああ、なんか一緒に勉強する仲になったんだって。もしかして気になる?」
「気になるっていうか、よくあんな恐そうなヤンキーのようなモンキーのような人と仲良くなれるなーっと思って」

 隣で満点のテスト用紙を見ながら間違いを直しているフウコ。
「嫌味ね。モンキーっていうより虎みたいでしょ」
 テスト用紙に書かれた名前は〝ライハルト〟。

「いつも威嚇してるような雰囲気はそうだね。実は意外と中身は猫とか?」
「ありえそう」
「っていうか、なんで動物に例えてるの?」
「あんたから先に始めたんでしょうが」
 摩訶不思議そうな顔をするライハルトが、悪気があって言っているわけではないとわかってしまうからたちが悪い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

波の音 傷ついた二人の間にあったもの

Rj
恋愛
妻のエレノアよりも愛人を選んだ夫が亡くなり海辺の町で静養していたエレノアは、再起不能の怪我をした十歳年下のピアニストのヘンリーと出会う。二人はゆっくりお互いの傷をいやしそれぞれがあるべき場所へともどっていく。 流産や子を亡くした表現が含まれています。 本編四話に番外編一話を加え全五話になりました。(1/11変更)

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

“金しか生めない”錬金術師は果たして凄いのだろうか

まにぃ
ファンタジー
錬金術師の名家の生まれにして、最も成功したであろう人。 しかし、彼は”金以外は生み出せない”と言う特異性を持っていた。 〔成功者〕なのか、〔失敗者〕なのか。 その周りで起こる出来事が、彼を変えて行く。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】王甥殿下の幼な妻

花鶏
ファンタジー
 領地経営の傾いた公爵家と、援助を申し出た王弟家。領地の権利移譲を円滑に進めるため、王弟の長男マティアスは公爵令嬢リリアと結婚させられた。しかしマティアスにはまだ独身でいたい理由があってーーー  生真面目不器用なマティアスと、ちょっと変わり者のリリアの歳の差結婚譚。  なんちゃって西洋風ファンタジー。  ※ 小説家になろうでも掲載してます。

悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました

結城芙由奈 
恋愛
【何故我慢しなければならないのかしら?】 20歳の子爵家令嬢オリビエは母親の死と引き換えに生まれてきた。そのため父からは疎まれ、実の兄から憎まれている。義母からは無視され、異母妹からは馬鹿にされる日々。頼みの綱である婚約者も冷たい態度を取り、異母妹と惹かれ合っている。オリビエは少しでも受け入れてもらえるように媚を売っていたそんなある日悪女として名高い侯爵令嬢とふとしたことで知りあう。交流を深めていくうちに侯爵令嬢から諭され、自分の置かれた環境に疑問を抱くようになる。そこでオリビエは媚びるのをやめることにした。するとに周囲の環境が変化しはじめ―― ※他サイトでも投稿中

処理中です...