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魔法召いのブレェス
リキの災難5
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次の日。
近づく気配に気づいた彼が振り向く。
「どうしてそんなに俺と組みたがる」
「今日はその話をしにきたんじゃないです。あの時のお礼を言いたくて」
畏まるリキにファウンズは黙る。
「ーーあの時。町に来てくれた時、守ってくれてありがとうございました」
彼が町に来てくれた時、リキは魔物から守られた。突然のことだったから彼も対処しきれなかったのか、身を呈してまで魔物の攻撃を防いでくれてたのだ。
今までちゃんとしたお礼が出来ていなかったことについては反省している。心の中は感謝でいっぱいだったのだが、彼にこの話をするタイミングが掴めなかった。
頭を上げると真っ直ぐとした碧い瞳と出会う。思ったよりも見つめてくる。何なんだろうか。
リキが目を離せずに困っていると。
「そんなに怯えさせるなよ、ファウンズ」
何を勘違いしたのか銀髪の男子生徒がやってきた。昨日、ファウンズと廊下で何やら親しげに話していた人だ。
「別に。任務だからやったまでだ。それに……」
リキのことを庇ってファウンズが負った腕の傷は、リキが治した。だから対等。
重要なことを言わない彼に、素直じゃないねえと思いつつも、ふと思いついたかのようにリキに顔を向ける。
「そういえば試験って今日のいつ? もうやった感じ?」
「午後の授業中に、です」
「ってことはもうすぐか。相棒は決めた?」
「……まだです」
まだ数回顔を合わせた初対面だというのに、銀髪の男子生徒はファウンズと違ってそれを感じさせなかった。
演習場いくも、誰とも組む約束をしていない。目の前には相変わらず威圧的な女性。
「リキ・ユナテッド。相棒のほうはどうした」
「……組めませんでした」
「時間は十分与えたはずだがーー……まさかお前が?」
サラビエル先生が後ろに視線を向ける。振り向けばそこにはファウンズ。
「俺のせいでこの学園に入ることになった生徒だ。俺が責任を取る」
二度頼み込んでも断固として変わらなかった答えが、今になってどんな気の変わりようだろう。考えても理解ならなかった。
「珍しく積極的だな。ーーロキ・ウォンズ、お前たちが相手になれ」
「え。俺たちが」
「嫌か?」
「全然。全く」
先生のありなし言わせない態度に焦ったのか赤髪の男子生徒は、そう答えた。
前と同じ一室に入る。空間的何かのおかげで体に見えないシールドがはられるようだが、特に何も感じない。本当に痛みを感じないのか不安なところである。
相手はロキといわれる男子生徒と、その相棒の男子生徒。
「こんな機会にお前と戦えるなんてな」
整列するとロキは目の前にいるファウンズに挑発的な目を向ける。が、相手は無表情無言。目さえ合わせない。そのせいで憎たらしいものを見る目へと変わる。
「チッ。始めるぞ」
どうやら赤髪の男子生徒はファウンズと戦えることが楽しみだったようだ。だから先生に嫌かと問われた時、そうじゃないと早々に答えた。
そうか、と謎が解けた気分である。
「お前は回復だけしていればいい。標的(ターゲット)にされた場合は逃げろ」
確実に発動させることができるのは回復だけ。確実といっても未だ数回しか使っていないから一定の確率での話だが、少しでも自分の存在が彼の意識の中にあったようで、それだけで頑張ろうとやる気になった。
狙われるのではないかと少し心配していたが相手二人はファウンズのことを警戒している。
回復だけしていればいいと言われつつもやはりするタイミングというものがあるだろう。ファウンズが無傷の時に回復魔法を使うのは無駄だろうし。だからといって棒立ちしているのも試験の評価に関わるだろ。そもそも評価の基準はなんなのか。良い評価を取りたいとは思っていないが悪い評価はできればとりたくない。人間とはそういうものだ。
手持ち無沙汰なリキは本を開くことにした。
こんな時に本なんて読むかと先生にも相手チームにも思われるかと思うが、自分にはこれしかないとちゃんと考えての行動だ。誰にどう思われようとこれが最善の策。
聞いて学べないなら見て学ぶ。魔法のことは大体書かれているはずだ。なんていったってあの先生がくれたものなのだから。
回復が必要になったら回復。それ以外は本を読んで使えるようなものがあるなら使う。
まだ二回目の戦闘演習。何もできなくても仕方がない。
ファウンズが少しダメージを負うようならリキは祈り、回復をさせた。それからまた本の内容に目を通す。しかしこれといって使えるようなものはなかった。本に書かれた文字を小さく口にしてみたりもしたが発動はせず。
その間にまたファウンズがダメージを負うーー回復を繰り返した。
相棒の負ったダメージを回復させているとやはり警戒心は向けられてしまうようで。何回目かの回復で赤髪の男子生徒が痺れを切らした。
「おい! それ卑怯だぞ。女!」
本を抱きしめ、瞳を閉じていたリキは驚く。
卑怯と言われても……。どうしようもなかった。
「まずはあの女からどうにかしないとな」
赤い瞳に見定められた時、ぞっとした。
標的にされたら逃げろと言われたが、たぶんきっとそれが今。赤髪の男子生徒がかかってくる。逃げないと。わかっていても体は動かないもので。逃げるといっても隠れ場所もないここでは鬼ごっこ状態になるだけだろうとわかってしまったからにはもう遅い。恐怖がリキを襲う。
剣をまじあわせているファウンズが体的に無傷なのを見ると体にシールドがはられていて物理的に攻撃を受けないのは事実のようだが、それでも攻撃を受ける心の準備はできていない。魔物からならまだしも同じ人間に敵意を向けられるのは心理的に結構くるものだ。
これは戦闘。演習であっても戦闘に変わりない。杖でもなんでも受けてやると心構えをする。が、ガンッーーと前よりも鈍い音によってそれは必要ないものだと悟った。
前方にはロキの攻撃を剣で受け止めているファウンズの姿。前回の戦闘同様守ってくれたようだが、前よりも距離がある。前よりもすぐにやってこれたということだろうか。
「なんでバレるかな」
「あれだけ吠えてれば誰だって気づくだろ。威嚇するならバレないようにしたほうがいい」
「ご忠告どうもっ」
リキはほっと胸を撫で下ろす。安心した……のは間違いだった。
いきなり横からの攻撃をくらう。ファウンズが後方を窺った時にはもう遅い。力の向きに従って尻もちをつく。
(目、ある)
瞬きを繰り返し、瞼を触り目があるかの確認。
初めて受けた攻撃が目をめがけてのものなんて一体何人同じ体験をした人がいるだろうか。少数には違いない。
……剣の鋭利なところが目にふりかかってきた。それも横から一直線に。
体が震える。相手チームのもう一人の男がやったことなのだ。
「お前、目とか狙うとかありえねえんだけど」
えげつねえ、と笑いながらロキは言う。
「でもそのおかげで彼女、回復魔法使うの忘れているようだけど」
「何もかもすっ飛んだんじゃねえの。記憶まで飛んでたらお前の責任だからな」
動揺で魔法を発動できないリキを笑う二人。
重ね合っていた剣がファウンズの力によって切り離れる。
(おっ、やる気になったか)
力加減がそれまでと違ってロキは口に弧を描いた。
近づく気配に気づいた彼が振り向く。
「どうしてそんなに俺と組みたがる」
「今日はその話をしにきたんじゃないです。あの時のお礼を言いたくて」
畏まるリキにファウンズは黙る。
「ーーあの時。町に来てくれた時、守ってくれてありがとうございました」
彼が町に来てくれた時、リキは魔物から守られた。突然のことだったから彼も対処しきれなかったのか、身を呈してまで魔物の攻撃を防いでくれてたのだ。
今までちゃんとしたお礼が出来ていなかったことについては反省している。心の中は感謝でいっぱいだったのだが、彼にこの話をするタイミングが掴めなかった。
頭を上げると真っ直ぐとした碧い瞳と出会う。思ったよりも見つめてくる。何なんだろうか。
リキが目を離せずに困っていると。
「そんなに怯えさせるなよ、ファウンズ」
何を勘違いしたのか銀髪の男子生徒がやってきた。昨日、ファウンズと廊下で何やら親しげに話していた人だ。
「別に。任務だからやったまでだ。それに……」
リキのことを庇ってファウンズが負った腕の傷は、リキが治した。だから対等。
重要なことを言わない彼に、素直じゃないねえと思いつつも、ふと思いついたかのようにリキに顔を向ける。
「そういえば試験って今日のいつ? もうやった感じ?」
「午後の授業中に、です」
「ってことはもうすぐか。相棒は決めた?」
「……まだです」
まだ数回顔を合わせた初対面だというのに、銀髪の男子生徒はファウンズと違ってそれを感じさせなかった。
演習場いくも、誰とも組む約束をしていない。目の前には相変わらず威圧的な女性。
「リキ・ユナテッド。相棒のほうはどうした」
「……組めませんでした」
「時間は十分与えたはずだがーー……まさかお前が?」
サラビエル先生が後ろに視線を向ける。振り向けばそこにはファウンズ。
「俺のせいでこの学園に入ることになった生徒だ。俺が責任を取る」
二度頼み込んでも断固として変わらなかった答えが、今になってどんな気の変わりようだろう。考えても理解ならなかった。
「珍しく積極的だな。ーーロキ・ウォンズ、お前たちが相手になれ」
「え。俺たちが」
「嫌か?」
「全然。全く」
先生のありなし言わせない態度に焦ったのか赤髪の男子生徒は、そう答えた。
前と同じ一室に入る。空間的何かのおかげで体に見えないシールドがはられるようだが、特に何も感じない。本当に痛みを感じないのか不安なところである。
相手はロキといわれる男子生徒と、その相棒の男子生徒。
「こんな機会にお前と戦えるなんてな」
整列するとロキは目の前にいるファウンズに挑発的な目を向ける。が、相手は無表情無言。目さえ合わせない。そのせいで憎たらしいものを見る目へと変わる。
「チッ。始めるぞ」
どうやら赤髪の男子生徒はファウンズと戦えることが楽しみだったようだ。だから先生に嫌かと問われた時、そうじゃないと早々に答えた。
そうか、と謎が解けた気分である。
「お前は回復だけしていればいい。標的(ターゲット)にされた場合は逃げろ」
確実に発動させることができるのは回復だけ。確実といっても未だ数回しか使っていないから一定の確率での話だが、少しでも自分の存在が彼の意識の中にあったようで、それだけで頑張ろうとやる気になった。
狙われるのではないかと少し心配していたが相手二人はファウンズのことを警戒している。
回復だけしていればいいと言われつつもやはりするタイミングというものがあるだろう。ファウンズが無傷の時に回復魔法を使うのは無駄だろうし。だからといって棒立ちしているのも試験の評価に関わるだろ。そもそも評価の基準はなんなのか。良い評価を取りたいとは思っていないが悪い評価はできればとりたくない。人間とはそういうものだ。
手持ち無沙汰なリキは本を開くことにした。
こんな時に本なんて読むかと先生にも相手チームにも思われるかと思うが、自分にはこれしかないとちゃんと考えての行動だ。誰にどう思われようとこれが最善の策。
聞いて学べないなら見て学ぶ。魔法のことは大体書かれているはずだ。なんていったってあの先生がくれたものなのだから。
回復が必要になったら回復。それ以外は本を読んで使えるようなものがあるなら使う。
まだ二回目の戦闘演習。何もできなくても仕方がない。
ファウンズが少しダメージを負うようならリキは祈り、回復をさせた。それからまた本の内容に目を通す。しかしこれといって使えるようなものはなかった。本に書かれた文字を小さく口にしてみたりもしたが発動はせず。
その間にまたファウンズがダメージを負うーー回復を繰り返した。
相棒の負ったダメージを回復させているとやはり警戒心は向けられてしまうようで。何回目かの回復で赤髪の男子生徒が痺れを切らした。
「おい! それ卑怯だぞ。女!」
本を抱きしめ、瞳を閉じていたリキは驚く。
卑怯と言われても……。どうしようもなかった。
「まずはあの女からどうにかしないとな」
赤い瞳に見定められた時、ぞっとした。
標的にされたら逃げろと言われたが、たぶんきっとそれが今。赤髪の男子生徒がかかってくる。逃げないと。わかっていても体は動かないもので。逃げるといっても隠れ場所もないここでは鬼ごっこ状態になるだけだろうとわかってしまったからにはもう遅い。恐怖がリキを襲う。
剣をまじあわせているファウンズが体的に無傷なのを見ると体にシールドがはられていて物理的に攻撃を受けないのは事実のようだが、それでも攻撃を受ける心の準備はできていない。魔物からならまだしも同じ人間に敵意を向けられるのは心理的に結構くるものだ。
これは戦闘。演習であっても戦闘に変わりない。杖でもなんでも受けてやると心構えをする。が、ガンッーーと前よりも鈍い音によってそれは必要ないものだと悟った。
前方にはロキの攻撃を剣で受け止めているファウンズの姿。前回の戦闘同様守ってくれたようだが、前よりも距離がある。前よりもすぐにやってこれたということだろうか。
「なんでバレるかな」
「あれだけ吠えてれば誰だって気づくだろ。威嚇するならバレないようにしたほうがいい」
「ご忠告どうもっ」
リキはほっと胸を撫で下ろす。安心した……のは間違いだった。
いきなり横からの攻撃をくらう。ファウンズが後方を窺った時にはもう遅い。力の向きに従って尻もちをつく。
(目、ある)
瞬きを繰り返し、瞼を触り目があるかの確認。
初めて受けた攻撃が目をめがけてのものなんて一体何人同じ体験をした人がいるだろうか。少数には違いない。
……剣の鋭利なところが目にふりかかってきた。それも横から一直線に。
体が震える。相手チームのもう一人の男がやったことなのだ。
「お前、目とか狙うとかありえねえんだけど」
えげつねえ、と笑いながらロキは言う。
「でもそのおかげで彼女、回復魔法使うの忘れているようだけど」
「何もかもすっ飛んだんじゃねえの。記憶まで飛んでたらお前の責任だからな」
動揺で魔法を発動できないリキを笑う二人。
重ね合っていた剣がファウンズの力によって切り離れる。
(おっ、やる気になったか)
力加減がそれまでと違ってロキは口に弧を描いた。
応援ありがとうございます!
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