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元ワケあり令嬢と騎士10
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お互いにお互いを大事にできる人と会うのだってユーリスであれば容易いことだ。ユーリスは人柄もいいし表裏なしに心優しいし容姿だっていいし、人を大切にすることができる。そんなユーリスを放っておく女性はいない。
ああ、そうわたしがいなければ。わたしなんかいなくても。
ユーリスは幸せになれる。わたしがいなければきっと。
階段を降りるために下を見ている姿は不自然ではないはずだ。馬車のあるところに案内してくれている彼はわたしより数段先に降りている。彼の名前はなんだったけ。それどころではなくて名前を聞いていなかった。
ノノアントと呼ばれた気がしてふいに視線を上げた。
何かを急いでいるような焦った顔。けれど瞳は希望に満ちているよう。同じように瞳を瞬いた。
「ユーリス……」
幻かもしれないと一瞬よぎった。それでも名前を口にした。久しぶりに呼んだ気がする、呼ばれた気がする。懐かしく感じてしまう。
会いたかった。その声を聞きたかった。
「迎えにきたよ」
「どうしてここだとわかったの?」
なぜここにいるのか理由を知っている? 理由を知られたくないと思っていた。ユーリスが、と。今では自身の気持ちが、知られたくないと言っている。
「アビンス家に行って婚姻のことを聞いてここまで来た」
やっぱりユーリスはしょげた顔して言う。そんな顔は見たくない。
「わたしはそんな気さらさらない」
「うん、知ってる」
「だったらそんな顔しないで」
心の中で言ったつもりが言葉にしていた。
気づいたのかユーリスは困ったように笑う。
「ごめん」
謝ってほしいわけじゃない。そんなことされたら悲しくなる。
わたしは婚姻なんてしない。でも下手したら強制的にそうなるかもしれない。ユーリスもそれを感づいている。だからユーリスは。ユーリスはどう思っている?
いやだ。
今すぐに駆けてユーリスのもとへ行きたい。
そう思ったときには足が動いて階段を降りていた。
ユーリスが近くにいる。こんなにも近く。
感極まって、驚くユーリスに気を遣わず飛びつくように抱きついた。両腕をしっかりと背中にまわした。こんなことしたの初めてかもしれない。
ユーリスがあまりにも冷静でこちらがおさめていた気持ちを破裂させてしまった。さっきまで離れるとか思っていたけど。
「会いたかった」
離れたくない。
馬鹿げた理由で離れたくない。
ユーリスの胸元で本音を呟いて一層強くなる思い。
「僕だって会いたかった。ずっと怖かった」
なにが。そう聞くのをためらった。
怖かった。会えなくて怖かった、他にもいろいろと意味がありそうで。受け止めきれないこともありそうで。言ったら実現してしまうこともありそうだ。
口数が少なくとも、お互いに触れ合う体温で感じ合うことがある。わたしの中でユーリスの存在は思っていた以上に大きく、かけがえのない人となっていた。
そうなってしまったら怖いことも知っている。それでももうそうなってしまっている。変えるには難しそうだ。
「騎士様登場か。さあどうする」
まるで独り言のよう。それでもわたしたちに向けているものだとわかった。ユーリスから離れて見上げれば、面白げに言ったのが彼とは思えないくらいメルヒルは冷めた顔で睨みをきかせている。
ここにいることがバレてしまってもユーリスが側にいることで気持ちが強くもてていた。こちらも見つめ返す。
ああ、そうわたしがいなければ。わたしなんかいなくても。
ユーリスは幸せになれる。わたしがいなければきっと。
階段を降りるために下を見ている姿は不自然ではないはずだ。馬車のあるところに案内してくれている彼はわたしより数段先に降りている。彼の名前はなんだったけ。それどころではなくて名前を聞いていなかった。
ノノアントと呼ばれた気がしてふいに視線を上げた。
何かを急いでいるような焦った顔。けれど瞳は希望に満ちているよう。同じように瞳を瞬いた。
「ユーリス……」
幻かもしれないと一瞬よぎった。それでも名前を口にした。久しぶりに呼んだ気がする、呼ばれた気がする。懐かしく感じてしまう。
会いたかった。その声を聞きたかった。
「迎えにきたよ」
「どうしてここだとわかったの?」
なぜここにいるのか理由を知っている? 理由を知られたくないと思っていた。ユーリスが、と。今では自身の気持ちが、知られたくないと言っている。
「アビンス家に行って婚姻のことを聞いてここまで来た」
やっぱりユーリスはしょげた顔して言う。そんな顔は見たくない。
「わたしはそんな気さらさらない」
「うん、知ってる」
「だったらそんな顔しないで」
心の中で言ったつもりが言葉にしていた。
気づいたのかユーリスは困ったように笑う。
「ごめん」
謝ってほしいわけじゃない。そんなことされたら悲しくなる。
わたしは婚姻なんてしない。でも下手したら強制的にそうなるかもしれない。ユーリスもそれを感づいている。だからユーリスは。ユーリスはどう思っている?
いやだ。
今すぐに駆けてユーリスのもとへ行きたい。
そう思ったときには足が動いて階段を降りていた。
ユーリスが近くにいる。こんなにも近く。
感極まって、驚くユーリスに気を遣わず飛びつくように抱きついた。両腕をしっかりと背中にまわした。こんなことしたの初めてかもしれない。
ユーリスがあまりにも冷静でこちらがおさめていた気持ちを破裂させてしまった。さっきまで離れるとか思っていたけど。
「会いたかった」
離れたくない。
馬鹿げた理由で離れたくない。
ユーリスの胸元で本音を呟いて一層強くなる思い。
「僕だって会いたかった。ずっと怖かった」
なにが。そう聞くのをためらった。
怖かった。会えなくて怖かった、他にもいろいろと意味がありそうで。受け止めきれないこともありそうで。言ったら実現してしまうこともありそうだ。
口数が少なくとも、お互いに触れ合う体温で感じ合うことがある。わたしの中でユーリスの存在は思っていた以上に大きく、かけがえのない人となっていた。
そうなってしまったら怖いことも知っている。それでももうそうなってしまっている。変えるには難しそうだ。
「騎士様登場か。さあどうする」
まるで独り言のよう。それでもわたしたちに向けているものだとわかった。ユーリスから離れて見上げれば、面白げに言ったのが彼とは思えないくらいメルヒルは冷めた顔で睨みをきかせている。
ここにいることがバレてしまってもユーリスが側にいることで気持ちが強くもてていた。こちらも見つめ返す。
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