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元ワケあり令嬢と騎士
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なんとも早すぎる。三日目には婚約したことを知らせるパーティが開かれた。
納得しているように見えなかった父上はどうしたのか。力強くで言いくるめられたのか。
早すぎて逃げる機会すらなかった。
メロヒルの横を歩き言葉を発さないどころか表情すら動かさない。ご令嬢がひそひそ話をしていてわかった。ああ氷結な女だったか、と。
どうでもいい。けれどこの先ユーリスに会えないことだけは許さない。
メルヒルが立ち話をしている間に誰もいないような廊下へ出た。
さあ逃げてしまおうか。何も計画もあてもない。それでもメルヒルの婚約者に仕立て上げられるくらいなら闇雲に走り逃げてしまったほうがましだ。
とりあえず外へ出られそうな扉へ向かった。
客人だろうか、こちらへ歩いてくる男の人がいる。関係ないと思うのでむやみに目を合わせず横を通り過ぎようとしたとき男の人が……あ、と声を漏らした。
関係ない関係ない。言い聞かせながら横を通り過ぎるも待ってと呼び止められた。
メルヒルと関係ない人だよね。今から会場に向かっていたしわたしとのことは知らないはず。
内心冷や冷やしながら振り返る。もし連れ戻されそうになったら逃げよう。そう決心しながら。
「やっぱりあのときの会場の人。アビンス家の」
その名を口にしたのを聞いて彼をまじまじと見て思い出した。
アビンス家で彼が迷子になっているところに出くわしたことがある。
「あのときのお礼、なにがいい?」
お礼って何が。挨拶もなにもなくて突拍子もないことにわけわからなくなる。お礼なんかされることやっただろうか。したとするなら会場への道を指差した、ただそれだけのこと。そんなことでお礼なんてされるなんて……。
断ろうとしたけれどやめた。今は猫の手でも借りたい。ここから出ることが、この願いを聞いてもらうことが無謀でも賭けたい。
「私をアビンス家に連れて行ってください」
馬車は外にあるからと案内された。意外にもすんなりと聞き入れてもらえたのだ。
アビンス家に行ったら婚姻のことは破棄すると伝えよう。そしてすぐにユーリスのもとへ帰ろう。あの家で待ってくれているはずだ。どう思っているだろうか、三日も家を開けていたことを。どう伝えようか。どう伝えたら納得してくれるか。婚姻のことは言わないつもりだ。
言ったらユーリスは少し落ち込むかもしれないから。ユーリスの悲しんでいる顔は一番見たくない
。
自惚れかもしれないがユーリスはわたしのことを好いてくれていると思っていた。今ではどうだろう。距離を置いて頭を冷やして、自分にとって本当に必要なものか頭をかしげている頃かもしれない。
わたしはそこまで大事に思われるような存在じゃない。
ユーリスを大事に思ってくれる人は知らずともいるかもしれないし、これからも現れるはずだ。わたしなんかが側にいなければ。
わたしなんかが側にいなければ……?
なら今のこの状態はユーリスにとっていい機会なんじゃないだろうか。わたしから離れるのに。わたしへの謎の執着をなくすのに絶好の時間。
でもそう考えると少し、いやすごく寂しい気持ちになる。
ユーリスはわたしのものじゃない。ユーリスはもっと自由にするべきだ。ユーリスはわたしとは違って無限の可能性がある。
納得しているように見えなかった父上はどうしたのか。力強くで言いくるめられたのか。
早すぎて逃げる機会すらなかった。
メロヒルの横を歩き言葉を発さないどころか表情すら動かさない。ご令嬢がひそひそ話をしていてわかった。ああ氷結な女だったか、と。
どうでもいい。けれどこの先ユーリスに会えないことだけは許さない。
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断ろうとしたけれどやめた。今は猫の手でも借りたい。ここから出ることが、この願いを聞いてもらうことが無謀でも賭けたい。
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