ワケあり令嬢と騎士

リオ

文字の大きさ
上 下
21 / 28

元ワケあり令嬢と騎士

しおりを挟む
なんとも早すぎる。三日目には婚約したことを知らせるパーティが開かれた。
納得しているように見えなかった父上はどうしたのか。力強くで言いくるめられたのか。
早すぎて逃げる機会すらなかった。

メロヒルの横を歩き言葉を発さないどころか表情すら動かさない。ご令嬢がひそひそ話をしていてわかった。ああ氷結な女だったか、と。

どうでもいい。けれどこの先ユーリスに会えないことだけは許さない。

メルヒルが立ち話をしている間に誰もいないような廊下へ出た。
さあ逃げてしまおうか。何も計画もあてもない。それでもメルヒルの婚約者に仕立て上げられるくらいなら闇雲に走り逃げてしまったほうがましだ。

とりあえず外へ出られそうな扉へ向かった。
客人だろうか、こちらへ歩いてくる男の人がいる。関係ないと思うのでむやみに目を合わせず横を通り過ぎようとしたとき男の人が……あ、と声を漏らした。
関係ない関係ない。言い聞かせながら横を通り過ぎるも待ってと呼び止められた。

メルヒルと関係ない人だよね。今から会場に向かっていたしわたしとのことは知らないはず。
内心冷や冷やしながら振り返る。もし連れ戻されそうになったら逃げよう。そう決心しながら。

「やっぱりあのときの会場の人。アビンス家の」

その名を口にしたのを聞いて彼をまじまじと見て思い出した。
アビンス家で彼が迷子になっているところに出くわしたことがある。

「あのときのお礼、なにがいい?」

お礼って何が。挨拶もなにもなくて突拍子もないことにわけわからなくなる。お礼なんかされることやっただろうか。したとするなら会場への道を指差した、ただそれだけのこと。そんなことでお礼なんてされるなんて……。
断ろうとしたけれどやめた。今は猫の手でも借りたい。ここから出ることが、この願いを聞いてもらうことが無謀でも賭けたい。

「私をアビンス家に連れて行ってください」



馬車は外にあるからと案内された。意外にもすんなりと聞き入れてもらえたのだ。
アビンス家に行ったら婚姻のことは破棄すると伝えよう。そしてすぐにユーリスのもとへ帰ろう。あの家で待ってくれているはずだ。どう思っているだろうか、三日も家を開けていたことを。どう伝えようか。どう伝えたら納得してくれるか。婚姻のことは言わないつもりだ。
言ったらユーリスは少し落ち込むかもしれないから。ユーリスの悲しんでいる顔は一番見たくない

自惚れかもしれないがユーリスはわたしのことを好いてくれていると思っていた。今ではどうだろう。距離を置いて頭を冷やして、自分にとって本当に必要なものか頭をかしげている頃かもしれない。
わたしはそこまで大事に思われるような存在じゃない。
ユーリスを大事に思ってくれる人は知らずともいるかもしれないし、これからも現れるはずだ。わたしなんかが側にいなければ。
わたしなんかが側にいなければ……?

なら今のこの状態はユーリスにとっていい機会なんじゃないだろうか。わたしから離れるのに。わたしへの謎の執着をなくすのに絶好の時間。
でもそう考えると少し、いやすごく寂しい気持ちになる。
ユーリスはわたしのものじゃない。ユーリスはもっと自由にするべきだ。ユーリスはわたしとは違って無限の可能性がある。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

【完結】強制力なんて怖くない!

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のエラリアは、十歳の時に唐突に前世の記憶を取り戻した。 どうやら自分は以前読んだ小説の、第三王子と結婚するも浮気され、妻の座を奪われた挙句、幽閉される「エラリア」に転生してしまったらしい。 そんな人生は真っ平だと、なんとか未来を変えようとするエラリアだが、物語の強制力が邪魔をして思うように行かず……? 強制力がエグい……と思っていたら、実は強制力では無かったお話。 短編です。 完結しました。 なんだか最後が長くなりましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

悪役令嬢になりそこねた令嬢

ぽよよん
恋愛
レスカの大好きな婚約者は2歳年上の宰相の息子だ。婚約者のマクロンを恋い慕うレスカは、マクロンとずっと一緒にいたかった。 マクロンが幼馴染の第一王子とその婚約者とともに王宮で過ごしていれば側にいたいと思う。 それは我儘でしょうか? ************** 2021.2.25 ショート→短編に変更しました。

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

処理中です...