ワケあり令嬢と騎士

リオ

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元ワケあり令嬢と騎士

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「お姉ちゃん? どうしてそんな顔してるの? 好きって言われたんだよ」

 ユーリスが自分のことを好きだということはノノアントは知っていた。知っているけど答えない。応えられない。
 ーーだからだ、とルナの「好きって言われたんだよ」発言に、ノノアントの心が何かに締め付けられる。

 ユーリスは子供の頃、ノノアントにとって唯一心の許せた存在だった。今でもその存在に変わりない。
 だからそういうことでは好きなのだろう。
 けれど正直よくわからなかった。自分が彼にふさわしいとも思わない。

 自分の側に物好きでいる彼。
 そういう認識をしているせいか、それ以上の感情はうまれない。

「ルナ、ごめん。その話はもう……」

 ノノアントの苦しそうな表情にユーリスは辛くなり、ルナの発言を遮る。
 呼び捨てにするよう言われてから、ルナのことをユーリスは呼び捨てで呼んでいる。

「なんで謝るの? 好きっていう感情はいけないの?」

 好きという感情をノノアントに抱いているユーリスはどう答えればいいかわからなかった。何て言えばいいか考えても、肯定するべきか否定すべきか、根本的なところから決まらない。

 焦って何かを言おうと口を開けようとしていたが、諦めて押し黙るように静かになってしまったユーリスを見て、次は自分が助け舟を出す番かと冷静な判断をする。

「ルナ、彼の私へ抱いている感情は嬉しく思っている、と思う。……だけど応えられない」

 ノノアントの素直な気持ちだ。

「どうして? こうして一緒に暮らしてまでいるのに」
「私がいけないの。私に問題がある」

 自分を責めるようなノノアントの発言。
 二人とも苦しそうな辛そうな表情を浮かべている。
 まさかこんな空気になるなんて思っていなかった。ルナは、恋愛話として軽く二人から話を聞こうとしていた。
 恋愛話をすれば誰だって甘い空気になるものだ。恥じらいとか本音とか、さっきのように告白なんてものがされたらお互い意識して顔すらまともに見られなくてぎこちなくなる。

 ……違う意味でぎこちなくなった。重たい空気になった。
 想像していたぎこちなさとは違う。
 まるでいけないことを言ってしまったかのような。
 恋愛話をしようとしていただけなのに。

「ごめんなさい。質問ばかりして……」
「いいんだ。こっちこそごめんね」

 こんな空気にしてしまったのは自分で、自分が悪いということがわかって居たたまれない気持ちになったルナは謝った。
 それなのにユーリスは何事もなく、本当になんでもなかったかのようにルナの心配さえする。

 ルナの心配というより、複雑な二人の関係に巻き込んでしまったルナにユーリスは謝ったようだった。



「ごめんもう帰るね」
 昼食を一緒に取るはずだったルナは気まずそうに言った。
 初めてここへ来てから恒例になっていた昼食タイム。ルナはわざとお腹を減らしてノノアントたちの元へ来たが、その空腹さえ感じられないほどのよくわからない罪悪感と哀しさを感じていた。

 見送るためにルナと一緒に外へ出たユーリス。
 家の中に一人となったノノアントは俯いたまま考える。

 ーー中途半端だっていうことはわかっている。けれどこの環境に甘えて、拒むこともせず応じることもしないんだ。それが今一番良い選択だと思えるのだと言ったらルナは、意味わからないと言うだろう。



「ユーリス、本当にごめん。まさかあんな空気にしちゃうなんて」
「ルナは悪くないよ」
 悪いとしたら、ノノアントに気持ちを押しつけて、側から見たら中途半端な関係に満足してしまっている自分だーーと言ってしまいそうになるのをユーリスは抑える。
「またね」

 ルナが入った馬車が動き出して空間的に一人になって、思い出す先ほどのセリフ。

『ルナ、彼の私へ抱いている感情は嬉しく思っている、と思う。……だけど応えられない』

 ーーまさか嬉しく思っていたなんて。
 自分が抱いている感情をノノアントが嬉しく思っていたなんて全く思っていないくて、ユーリスはとても嬉しく感じていた。

 これだからいけないんだなーーとも思う。
 こんな些細なことで喜んで、中途半端な関係も中途半端と感じずこれが今の一番の幸せだと感じてしまっている。

 確かに恋人になりたいとか家族になりたいとかという願望はあるけど、ノノアントはそれを望んでいない。
 だから今のままで良いと思う
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