神界の花嫁

リオ

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巨獣と魔女の過去

✿✿✿✿

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 就寝時間に四人で雑談をするのはいつものことだ。二十数名ほどの子供が同じ場所で寝ているが、端ということもあり近い距離で小さな声で話せば周りから非難されない。
「やっぱりソフィアは素敵ね」
 隣でソフィアと同じように布団の上で、うつ伏せで肘を立てているミュラが愛らしく笑う。
「ソフィアのおかげでケーキ食べ放題」
 ミュラを挟んだところにいるアスナが横向きに寝ていてピースサインを掛け布団から出してきたことにソフィアは笑った。
「ソフィアは心優しい、私たちのソフィアだよ」
 ティアラは横向きで寝たままソフィアを見上げた。その表情は儚げで切実に言っていることだとわかる。
 ソフィアたちには母も父も兄弟もいない。その共通点が繋がりを強くしているのかもしれない。お互い友達や親友、家族や姉妹であり、これ以上大切な相手はできるのかとすら考える。
「わたしたちはずっと一緒にいようね」
 ソフィアの問いに皆が目尻を下げて頷いた。

 それから数日後のこと、ラキの家兼ケーキ屋に四人で行くと母親にもてなされ、ラキとリアと一緒にケーキを食べた。アスナがあとで吐くのではないかというくらい暴食していて皆が心配をしていた。なおアスナは心配無用とのこと。
 ラキとリアの父親は仕事で夕方まで不在らしく、トランプでババ抜きジジ抜き、神経衰弱、七並べ、スピードなど他のゲームでも遊びつくした。
 その時間を共にしたのは子供六人以外にもう一人いる。ラキの家に初めてきたときに一緒にいた女性である。教会の一人である彼女は休みを捧げてくれた。代わりにと頼まれたことは、教会に来る体調の悪い人たちに、リアにしたことと同じことを試してほしいとのこと。あくまでも試すだ。ソフィアの力を信じて言っているわけではないのだろう。ソフィア自身も怪我と熱以外の不調を治せるかはわかっていなかった。
 そして別の日、教会にて体調不良の人の手を握り健康を願うと、どんな人も体調が良くなった。腰痛、胃のきりきり、動悸や息切れ、骨折。偶然では済まされないほどの効果が出たのである。このことを試してほしいと言ってきた教会の女性以外の人たちにも噂で広まって、体調不良の人を治すうちに噂がまた広まり、広まりすぎた。
 この国の王が現れたのである。王が教会の孤児院に現れたのである。
 平然を装おうとするも震える教会の人たち。王に間近で会うことは人生に一度あるかないか、貴族でなければあるほうがおかしいほどである。
 事前に王室から連絡は入っていたらしいが、王が直々に来るとは皆が思わなかった故の教会の人たちの震えなのだろう。
「そなたが噂のソフィアか」
「そうだと思います」
 否定はするべきではないと思いそう答える。男性はソフィアからすると二十代後半か三十代の見た目だ。威厳はあるけれどこわくはない。朗らかな表情をしてくれているおかげだろうか。
「王様もどこか体が悪いところがあるのですか?」
 王に対する挨拶の仕方など習っていない。きっと貴族の目からすると無礼な一般人に見えることだろう。
「少し右足に違和感はあるな」
「手を貸してもらえますか」
 両手を差し出すと素直に出してくれた王様の片手を握りしめ願う。右足が良くなるように、健康でいられますように、と。皆がするような驚きの顔を見て手を離した。
「右足どころか身体が軽くなった気がする」
「良かったです」
 これまでに会った人たちと変わりない反応に親近さを覚え笑みが溢れた。
「ソフィア、単刀直入に聞く。私の宮殿へ来ないか?」
 思わず首を傾げる。確実にこれは相手に対する無礼な態度である。そうとは分かっても今口を開いても意味不明という内容の言葉しかでない。
「養女として君を迎えたい。私の娘になってくれないか」
 説明されどさらに理解ができなくなっていく。頭がぐるぐるして目まで回ってきているように感じるのは気のせいか。
 視界が揺らついていたのは気のせいではなかったらしい。王様が慌てて支えようとしてくれている。
 座れるところはないかと教会の人に聞いた王様に支えられながら、孤児院の面会室のソファに座らされた。そして王様の指示でソフィアに紅茶が出される。
「まずは飲んで落ち着いてくれ」
「はい」
 返事だけはちゃんとして紅茶を口にする。ほんのりとした甘さが広がり冷静さを取り戻していく感じがする。声には出さずに小さく息を吐く。
「何から何までありがとうございます」
 対面のソファに座った王様に頭を下げる。
「いや、詫びたいくらいだ。私の息子がどうも大人びているせいか君くらいの年齢の子に対する接し方をだいぶ間違えたようだ」
 なんて寛大な王様なのだろうか。八歳のソフィアでもわかる、こんな真っ当な人はそうそういないと。
「君の父親に……というのもあれか」
 言葉に詰まる王様は別の言い方を考えているらしい。が、他の言い方などないということにソフィアは気づいた。王様が提案することそれは、家族になろうということなのだ。嬉しい話だ、普通なら。
「わたしには、ずっと一緒にいようと約束した友達がここにいます」
 約束とは言っていないけれどあれはソフィアにとってもティアラたちにとっても約束であったはずだ。それを裏切る真似はできない。
「それならその子と宮殿へ来るのはどうだ」
 顔を上げてみると、王様はいい案を思いついたように先程とは打って変わって晴れ晴れとした顔をしていた。
「三人いますよ?」
「いいじゃないか。侍女としてなら基本ずっと側にいられる。うん、いいな」
 最終的に一人で納得をしている。
「四人で一緒に行ってもいいのですか?」
「そなたが良ければぜひ来てほしい」
 四人全員を受け入れてくれる人が現れるなんて思いもしなかった。それでもずっと四人で一緒にいたいと思っていた。それが叶うなんて。叶わないと理性的に思うことでも願ってみるものだ。
 感極まって泣いてしまったソフィアの涙を王様は慰めるように拭ってくれた。そのことにソフィアは父がいたらこういうものなのかなと感じながらありがとうございますとお礼を述べた。
 それまでソフィアを手放そうとしなかった教会が簡単にソフィアを手放した。それどころか行きたくないと言えば放り投げるつもりでいたらしい、ティアラたちが隠れて聞いたことによると。
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