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十三、信じてくれる仲間の為に
しおりを挟む夜の帳が落ちるのを、彼女は辛抱強く待った。
天空神が起きている時間帯に、ここで活動するのはまずい。
天の力が強くては、何もできない。
「まったく、神域だけで我慢してろよな」
たった数年で、ここまで神殿が力をつけるとは予想外だった。
おかげで、この二年は慎重にならざる得なかったのだ。
大地から感じる龍脈の力は乱れ、弱い。
先代龍王の治世では考えられない事態だ。
「いや、代替わりを狙ったのか」
現在の龍王は、長く市井で過ごした。
本来は龍脈の中心地である王宮で幼少から過ごし、龍脈に慣れ親しむ必要があったのに、彼にはできなかった。
それを責める気はない。
悪いのは、種を王宮外で蒔いた先代龍王だ。
龍脈の力に慣れるのには、時間が必要なのに。
彼女にしてみれば、突然龍王になった割には良くやっていると思える。
何もわからない状態で、龍脈の流れはきちんと把握しているのだ。上出来である。
「それに、隙をつかれたのを龍王ひとりのせいにしたら、あんまりだ」
皆が皆、龍王を信じるあまり、神殿を下に見過ぎたのだ。
窮鼠猫を噛む。聖女から教えられた言葉だ。
してやられたのは、龍治大陸に住む全員なのだから。
神の血。神性を有する龍王。
だが、神性はあくまで性質。龍王は神そのものではないし、彼は大地の理に生きる。
天の理には、どうしても弱くなるのだ。
『アニー、信じてるから』
彼女を見送る聖女の言葉。
アニーを動かす、魔法の言葉だ。
「大丈夫だ、聖女。あたしは、やり遂げる」
それに、きっと彼は途方に暮れて泣いているだろう。
彼は、素直に泣くし、すぐに拗ねる。
でも、突然に譲られた地位に対しての責任感はあるのだ。
泣いて、駄々をこねて、落ち込んで、そして前を向いて笑う。
今までの龍王のなかでは、とびっきり人間らしい。
だから、アニーは頑張ろうと思える。
神殿を放置すれば、とんでもない事になるし、何より彼がようやく手に入れた至宝が危険に晒される。
「……兄さん。あたし、頑張るから」
アニーが呟くと、地面を手で触れる。
感じる龍脈の力。
そして、気づく。
乱れた力が少し強くなっている。
「そうか、頑張ってるね」
微笑み、アニーは顔を上げた。
視線の先には、二年前から建設を続け、最近完成した神殿が見えた。
この神殿は、神国を除く四国に建てられたものよりも随分堅牢だ。
四方に、神殿の術式が彫り込まれた塔がある。
見つけるのに苦労したのは、この塔たちが原因だ。
隠蔽の術式と、封印の術式、そして異なる世界へと通じる術式もある。複雑に入り組んでいる。
よほど大事な場所なのだろう。
「見てろよ。神さまを所有物にした報いを受けてもらう」
大地に触れた手から、温かな力が伝わる。
アニーの体に浸透していく。
天の理に、大地の理は交わることがない。
しかし、二つが敵対した事実はない。
神官たちが大地の神々を敵視するのは、あくまでも人間の勝手だ。
天は大地を照らし、大地は天を受け入れる。
共存してきた事実だけでいい。
神々の事情は、人間ではどうこうできない。
術式は、所詮は人間が作ったもの。
どんなに侵入を拒んでも、人間の作った理では神々の理には敵わない。
今回の作戦は、アニーにしかできない。
だから、仲間たちはアニーを信じて送り出したのだ。
「力を借りるね」
人間を拒むならば、神々の理に身を浸せばいい。
神々は天も大地も受け入れる。
龍脈の力を借り受け、神殿のなかへと入る。
仲間たちに吉報を届けるのだ。
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