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五、それはなんて魅力的で
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最近、旦那さまは考え込むことが多くなった。
寝台の上で胡座をかき、微動だにせず、眉間に皺を寄せている。
目の前でレティシアナが手を振っても、反応はない。
だから、レティシアナも無心に旦那さまを見つめた。
さらさらと綺麗な長い黒髪に、日焼け知らずの白い透明感ある肌。
すっと通った鼻筋に、長いまつ毛が影を作る形の良いルビーのような目。
薄いのに、うっすらと色づいた唇。
今は真剣な表情をしているから、近寄りがたい雰囲気がある。
あ、さらりと髪が一房顔にかかった。
それすらも、色気に変わる。
わたくしの旦那さま、美し過ぎる。
レティシアナは真剣に思った。
昨日、庭で砂山を作って遊んでいたひとと同一人物だとは思えないぐらいだ。
白い服だったから、当分は黒い服で過ごしてくださいと、洗濯してくれる下女に泣かれて、途方に暮れていた姿を思い出し、レティシアナは口にきゅっと力を入れた。
こんなに真剣に考えているのに、砂の兎を作ったりしていたのだ。
「……あれ?」
肩を震わせてレティシアナが腹の底からくる衝動に耐えていると、龍王がハッと思考の海から帰ってきた。
深く考え過ぎていたせいか、頭がぼんやりとする。
そのまま横を見れば、愛しい妻が俯き肩を震わせているではないか。
龍王はみるみるうちに真っ青になり、慌てふためいた。
「ど、どうしたっ、レティシアナ! な、泣いてるの? 俺、何かしちゃった?」
おろおろとレティシアナの顔を覗こうとしたり、慰めるべく抱きしめようとして、しかし急に恥ずかしくなったのか思春期の少年のように顔を赤らめたりと忙しない。
一緒に寝起きして、湯殿も共に入った妻相手に恥じ入る様子に、レティシアナはもう我慢できなかった。
「だ、旦那さま、可愛すぎますっ」
「へあっ?」
お腹を抱えて笑うレティシアナに、龍王はぽかんと口を開けて、間の抜けた声を出した。
へあ、という空気みたいな声だったことに、龍王はまた顔を赤らめた。
「え、可愛い? い、いやいや、俺としてはかっこいいが」
「ふふふっ、お顔が真っ赤! 林檎みたいです!」
「り、林檎?」
「ええ、可愛い!」
また可愛いと言われた龍王は、むっと口を尖らせた。
二十九歳にしてはいささか幼すぎる仕草だが、龍王らしいとレティシアナは思う。
ようやく笑いが治まったレティシアナは、微笑みを浮かべて龍王の頬に両手で触れる。
「可愛いわたくしの旦那さま」
「レ、レティシアナ……?」
いつもは龍王がぐいぐいと距離を詰めるのだが、今夜は立場が逆転していた。
そっと頬から手を離し、するりと龍王の胸に寄りかかる。
龍王の心の音が、少しばかり速い。
レティシアナはそのままの体勢で、龍王を見上げた。上目遣いである。
「旦那さま。わたくし、放っておかれて寂しかったです」
「え、あ、いや」
年下の妻から感じる色香に、龍王は狼狽えた。
今夜のレティシアナは、何かが違う。
こんなにも積極的な妻は初めてで、龍王は体温が上がっていくのを感じた。
そっとレティシアナが胸もとに頬をすり寄せてきた。
ひゅっと息を呑む龍王。
「旦那さま、わたくし」
「な、なに?」
うっとりとした声音でレティシアナが、小さな桃色の唇で囁いた。
「旦那さまと、してみたいことがあるんです」
龍王の脳内は、沸騰寸前。
こくこくと頷くことしかできなかった。
「どうですか、旦那さま」
龍王は、茹で蛸のような顔色で混乱していた。
頭の下には、柔らかい感触。
しかも、髪を優しく梳かれている状況である。
これは、まずい。と、冷静な部分の龍王が断言した。
青少年な部分の龍王は、歓喜に湧いている。
膝枕。
妻の膝枕。
それだけが脳内を掛け巡る。
「絵本で見たんです。膝枕っていうんですよね」
それ、どんな絵本?
情操教育の観点では、大丈夫なの?
誰が幼いレティシアナに与えたの?
褒美を渡すから、ちょっと手を挙げなさい。
龍王の思考は錯綜状態だ。
「ふふ、旦那さま。良い子、良い子」
頭を優しく撫でられた。
愛しい妻に、撫でられた。
すると、すとんと心が落ち着いていく。
あんなにもうるさかった脳内も、心臓も、ゆっくりになっていく。
ああ、と、龍王は息を吐いた。
安心感が全身を包み、だんだんまぶたが重くなっていく。
「旦那さま。最近、あまり眠れてないのでしょう?」
「うん」
色んな情報が、龍王のもとに集まりつつある。
懸念していたことや、不透明だったことも。
考えることはたくさんあった。
それゆえ、精神は張り詰めていたのかもしれない。
「わたくしはここに居ますから、今はゆっくり休んでください」
「うん」
龍王は目を閉じた。
感じる妻の温もりに、穏やかな眠りがやってくる。
「レティ、シアナ……」
「はい、旦那さま」
名を呼べば、応えてくれる。
それが、幸せで。
「大、好き」
睡魔に身を任せた龍王は、子供のように眠りにつく。
聞こえてくる小さな寝息に、レティシアナはそっと身を屈め、龍王の額に口づけを落とす。
彼の眉間には、もう皺はない。
「わたくしも」
囁くレティシアナの表情は、優しく、そして、愛しげだった。
寝台の上で胡座をかき、微動だにせず、眉間に皺を寄せている。
目の前でレティシアナが手を振っても、反応はない。
だから、レティシアナも無心に旦那さまを見つめた。
さらさらと綺麗な長い黒髪に、日焼け知らずの白い透明感ある肌。
すっと通った鼻筋に、長いまつ毛が影を作る形の良いルビーのような目。
薄いのに、うっすらと色づいた唇。
今は真剣な表情をしているから、近寄りがたい雰囲気がある。
あ、さらりと髪が一房顔にかかった。
それすらも、色気に変わる。
わたくしの旦那さま、美し過ぎる。
レティシアナは真剣に思った。
昨日、庭で砂山を作って遊んでいたひとと同一人物だとは思えないぐらいだ。
白い服だったから、当分は黒い服で過ごしてくださいと、洗濯してくれる下女に泣かれて、途方に暮れていた姿を思い出し、レティシアナは口にきゅっと力を入れた。
こんなに真剣に考えているのに、砂の兎を作ったりしていたのだ。
「……あれ?」
肩を震わせてレティシアナが腹の底からくる衝動に耐えていると、龍王がハッと思考の海から帰ってきた。
深く考え過ぎていたせいか、頭がぼんやりとする。
そのまま横を見れば、愛しい妻が俯き肩を震わせているではないか。
龍王はみるみるうちに真っ青になり、慌てふためいた。
「ど、どうしたっ、レティシアナ! な、泣いてるの? 俺、何かしちゃった?」
おろおろとレティシアナの顔を覗こうとしたり、慰めるべく抱きしめようとして、しかし急に恥ずかしくなったのか思春期の少年のように顔を赤らめたりと忙しない。
一緒に寝起きして、湯殿も共に入った妻相手に恥じ入る様子に、レティシアナはもう我慢できなかった。
「だ、旦那さま、可愛すぎますっ」
「へあっ?」
お腹を抱えて笑うレティシアナに、龍王はぽかんと口を開けて、間の抜けた声を出した。
へあ、という空気みたいな声だったことに、龍王はまた顔を赤らめた。
「え、可愛い? い、いやいや、俺としてはかっこいいが」
「ふふふっ、お顔が真っ赤! 林檎みたいです!」
「り、林檎?」
「ええ、可愛い!」
また可愛いと言われた龍王は、むっと口を尖らせた。
二十九歳にしてはいささか幼すぎる仕草だが、龍王らしいとレティシアナは思う。
ようやく笑いが治まったレティシアナは、微笑みを浮かべて龍王の頬に両手で触れる。
「可愛いわたくしの旦那さま」
「レ、レティシアナ……?」
いつもは龍王がぐいぐいと距離を詰めるのだが、今夜は立場が逆転していた。
そっと頬から手を離し、するりと龍王の胸に寄りかかる。
龍王の心の音が、少しばかり速い。
レティシアナはそのままの体勢で、龍王を見上げた。上目遣いである。
「旦那さま。わたくし、放っておかれて寂しかったです」
「え、あ、いや」
年下の妻から感じる色香に、龍王は狼狽えた。
今夜のレティシアナは、何かが違う。
こんなにも積極的な妻は初めてで、龍王は体温が上がっていくのを感じた。
そっとレティシアナが胸もとに頬をすり寄せてきた。
ひゅっと息を呑む龍王。
「旦那さま、わたくし」
「な、なに?」
うっとりとした声音でレティシアナが、小さな桃色の唇で囁いた。
「旦那さまと、してみたいことがあるんです」
龍王の脳内は、沸騰寸前。
こくこくと頷くことしかできなかった。
「どうですか、旦那さま」
龍王は、茹で蛸のような顔色で混乱していた。
頭の下には、柔らかい感触。
しかも、髪を優しく梳かれている状況である。
これは、まずい。と、冷静な部分の龍王が断言した。
青少年な部分の龍王は、歓喜に湧いている。
膝枕。
妻の膝枕。
それだけが脳内を掛け巡る。
「絵本で見たんです。膝枕っていうんですよね」
それ、どんな絵本?
情操教育の観点では、大丈夫なの?
誰が幼いレティシアナに与えたの?
褒美を渡すから、ちょっと手を挙げなさい。
龍王の思考は錯綜状態だ。
「ふふ、旦那さま。良い子、良い子」
頭を優しく撫でられた。
愛しい妻に、撫でられた。
すると、すとんと心が落ち着いていく。
あんなにもうるさかった脳内も、心臓も、ゆっくりになっていく。
ああ、と、龍王は息を吐いた。
安心感が全身を包み、だんだんまぶたが重くなっていく。
「旦那さま。最近、あまり眠れてないのでしょう?」
「うん」
色んな情報が、龍王のもとに集まりつつある。
懸念していたことや、不透明だったことも。
考えることはたくさんあった。
それゆえ、精神は張り詰めていたのかもしれない。
「わたくしはここに居ますから、今はゆっくり休んでください」
「うん」
龍王は目を閉じた。
感じる妻の温もりに、穏やかな眠りがやってくる。
「レティ、シアナ……」
「はい、旦那さま」
名を呼べば、応えてくれる。
それが、幸せで。
「大、好き」
睡魔に身を任せた龍王は、子供のように眠りにつく。
聞こえてくる小さな寝息に、レティシアナはそっと身を屈め、龍王の額に口づけを落とす。
彼の眉間には、もう皺はない。
「わたくしも」
囁くレティシアナの表情は、優しく、そして、愛しげだった。
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