53 / 68
4巻
4-2
しおりを挟む
ヴィル様の手を取って、三度目の問い。彼の目をひたと見つめて訴える私と、無表情のヴィル様との睨めっこが始まった。たぶん、視線を逸らしたら負ける。
しばらく無言で見つめ合っていると、ディーネのため息が聞こえた。
「マスター。勇者を落としたいなら、色仕掛けよりロリ仕掛けの方が効果ありだと思うわ」
「は?」
私は思わず間の抜けた声を上げて、ソファーの後ろに立つディーネを見上げた。
「失礼な。色仕掛けをした覚えはないよ。っていうか、ロリ仕掛けって、何?」
「勇者は体内の魔石のせいで、子供好きなドラゴンの習性に影響を受けているでしょ。子供姿でお願いした方が効くと思うの」
なるほど。子供姿イコール、ロリ姿。ロリ姿でのおねだりがすなわち、ロリ仕掛け。
……その呼び方に思うところがあるものの、手段としては一考の余地ありだろうか。
「でもそれだと、庇護欲の方が強くなって、よけい反対するんじゃないか?」
「そうだね。前回マスターの精神が首輪に囚われた時、子供姿だったし」
「同じ状況は、抵抗感が強いですよね」
検討する私の耳に、サラ、グノー、ルフィーの考察が届く。
じゃあ、ダメだ。反対される要素を増やす気はない。
「そういえば、助言をくれるって事は、みんなは元精霊達のところに行くのを許してくれるの?」
私の問いに、精霊達は肩を竦めてみせる。そしてグノーが代表して答えた。
「僕らのマスターは、やれると言ったらやれる人だからね。ちゃんと帰ってくると信じるよ」
「帰ってくるよ。約束する」
一つ頷いてヴィル様に向き直ると、彼は変わらない無表情で私を見つめていた。
う。……睨めっこから先に視線を逸らしてしまったけど、まだ負けじゃないよね?
勝負の再開とばかりに見つめ返せば、彼はいきなり私を抱き寄せた。
「なっ、ななな、何ですか!?」
(逆色仕掛けですか!? でも私は丸め込まれたりなんかしないですよ!?)
キッと睨み上げようとしたら、頭を押さえ込まれた。彼の襟元から覗く肌の白さが眩しい。
決意したにもかかわらず、危うく屈しそうになったその時、「五分だ」と囁かれた。
「え?」
「五分だけ、元精霊と接触を試みる事を許す。会えても会えずとも、それ以上は駄目だ」
「わかりました。五分以内に元精霊達と接触して、必ず帰ってきます」
ヴィル様からの譲歩に、私はすぐさま承諾した。
約束を交わした事で、拘束が緩む。彼の腕から脱した私は、さっそく首輪に右手を伸ばした。その手をヴィル様が捕らえる。
「ヴィル様?」
訝しんで呼んだ私に答えず、彼は私の手の甲に口づけた。しかも――
「な、なめ、なめ……」
私がパニックを起こしていると、ヴィル様の唇が離れる。そしてその感触が消えぬうちに、手の甲にポウッと花のような形の魔法陣が光って消えた。
「印をつけた。これで大半の者は、お前に手を出せまい」
どこか満足そうなヴィル様に、サラとグノーが呆れた声でコメントする。
「そりゃそうだろ」
「ドラゴンの半身候補に手を出すなんて、よっぽど魔力に鈍いか馬鹿か、命知らずだよ」
「ドラゴンの半身候補?」
奇妙な胸のざわめきを感じながら、初めて聞く単語を呟く。するとグノーは、気の毒そうに私を見た。
「さっきの魔法陣は、ドラゴンの半身候補――つまり、婚約者の印だよ」
こん、やく、しゃ?
「左手にも同じ印をつけたら、妻になる。彼らは伴侶への執着が凄いんだ。その印を持つ者に危害を加える事は、ドラゴンに『自分を殺してくれ』と言うようなものだよ」
呆然としつつも、私はなんとかグノーの説明を理解した。
「……つまり、虎の威を借る狐的なお守り?」
ディーネとルフィーがコクリと頷いて同意する。
「初めて聞く言い回しだけど、なんとなく意味はわかるわ。だいたいそんな感じよ」
「かなりキョーレツなお守りです」
ヴィル様の口ぶりからして、元精霊から私の身を護るために施してくれた印なんだろう。でもその実態は、ドラゴンの婚約者や妻を示すマーキング。
わぁ、魔王勇者様と婚約しちゃった。でもプロポーズの言葉はなし。目的を考えればプロポーズは必要ないんだけど、複雑な気分だ。嬉しいような、悔しいような。なんだこれ?
「心配せずとも、ミラが他の者と婚約する際には消す」
「はあ」
微妙な気分が更に増した。よくわかんないものの、癪である。
そんな私に、ヴィル様は時計を指し示した。
「それよりもいいのか? あと三分だが」
「もうカウントしてたんですか!? ずるいですよ!」
「教えてやったろう?」
ヴィル様は悪びれる様子もない。きっと延長を求めても無駄だ。今は文句を言う時間も惜しい。
私は両手でヴィル様の首輪に触れ、目を閉じ、大きく深呼吸した。
思い浮かべるのは闇。悲しみと恨みに沈む闇の世界。そこに囚われた精霊達の魂。
私は彼らに捕まらないように張っていた気を緩めて、彼らの事だけを考えた。
周囲からすっと音が消える。
ゆっくりと目を開ければ、暗闇の世界が広がっていた。元精霊達がいる、首輪の中の世界だ。前回と違う点をあげるなら、元精霊である闇色の塊が、既にそこにいるくらいだろうか。
……襲うために、私を待ち構えていたわけじゃないよね? いやいや、時間がないからポジティブに考えよう。呼び出す手間が省けて助かったよ、うん。
それでもちょっと不安になって、私はヴィル様が印をつけた右手を胸に抱え込んだ。
「あれ、手が小さい。子供になってる」
私はいつの間にか、六歳の姿に戻っていた。服もなぜか学園の制服である。
前回ここに来た時は、現実世界でも子供姿だったけど、今回はさっきまで、大人姿だったのに……。あれはヴィル様の魔法によって与えられた仮の姿だから、精神体のみになるこの世界では、本来の姿になったのかな?
『キタ』
『ホントニ、キタ』
首を傾げていた私の脳裏に、元精霊達の言葉のようなものが浮かんだ。
「ひょっとしてこれ、概念通信?」
実体を持つ高位精霊となったグノー達は、普段、声を発して会話をしている。そこまで成長する前は、こんなふうに私の頭の中に文字が浮かび、読むまでもなく意味合い――概念が伝わってきた。
概念通信とは、本来は資質がある魔術師が、契約した精霊のものしか受け取れない。でも私は、グノー達と契約を交わす前に、片言の概念通信を受け取れていた。
下位精霊のなれの果てである元精霊達が、概念通信を使えるのは不思議じゃないし、私が彼らと契約していないにもかかわらず、それを受け取れるのも、ありえる事なのかもしれない。
「片言の概念通信は久しぶり」
私は少し懐かしい気持ちになって、目を細めて元精霊達を見た。
「約束通り、また来たよ。あなた達を首輪から解放するために、さっき清浄なる水を使ってみたんだけど、怖がらせちゃったかな?」
小首を傾げて問いかけてみる。しかし答えはなかった。
「これから聖なる雫を使うつもり。とはいえ、あなた達を傷つけるつもりじゃないの。怖いかもしれない。でも、私を信じて浄化を受け入れてもらえないかな?」
これにも反応がない――かと思いきや、元精霊達がざわめいた。
『……イッショ』
「一緒?」
何が? と問い返そうとした瞬間、元精霊が飛びかかってきた。
私はギョッとしてそれを躱す。
『ヤサシイ。ズット、イッショ』
前後を挟まれた私は、ジリジリと横に移動した。
ちょっと待て。印があれば、手を出されないんじゃなかったの?
そう思ったと同時に、右手の甲に消えたはずの魔法陣がポウッと光って浮かび上がる。
えっ、今、光った? どういう仕組みなの!?
私が戸惑っている間も、元精霊達はにじり寄ってきていた。私は元精霊達との距離を測りつつ、グノーの言葉を思い出す。
――『ドラゴンの半身候補に手を出すなんて、よっぽど魔力に鈍いか馬鹿か、命知らずだよ』
彼らは下位とはいえ精霊だったのだ。魔力に鈍いとは思えない。知能レベルはわからないけど、命は既にないから気にしてないんだろうか? 魂すら消されるとは思わないの?
再び突進してきた元精霊を避けて、私は暗闇の中を走り出した。
『カケッコ?』
元精霊達はそう言うと、追いかけてくる。
「遊びだと思ってる!?」
私に危害を加えるつもりはないから、ドラゴンの怒りを買うとは思っていないのかもしれない。
「でもこれじゃあ、浄化魔法を受け入れてほしい、って説得するどころじゃないよ」
人への恨みはどこに行ったんだと問いただしたいくらい、元精霊達はなぜか私に懐いてくれているらしい。私は、彼らを振り切るように走った。走っているうちに、多少攻撃的な浄化魔法を行使しても大丈夫かも? と思えてくる。
承諾はもらってないけど、また浄化魔法を使う事は伝えられたよね? 最後に念のため……
私は後ろを振り返った。その瞬間に飛びかかってきた元精霊を躱し、もう一度告げる。
「聖なる雫は薄めの濃度から始めるよ!」
そして本体である体を意識して、現実世界へと帰還した。
暗闇の世界から戻って真っ先に目に入ったのは、ヴィル様の綺麗な顔。暗闇の世界に飛んで意識を失った私を、彼の膝を枕にして寝かせてくれていたらしい。
視線を巡らせれば、おちび姿の精霊達が、長ソファーの背もたれの上にいた。
「ただいま」
ニコリと笑って言うと、「お帰りなさい」と返される。私はゆっくり起き上がった。
「元精霊には会えたか?」
私はソファーに深く座り直してから、ヴィル様の質問に答える。
「はい。前回とは違って、いきなり襲われたりはしませんでした。聖なる雫を使う事も伝えたんですけど……拒絶、はされなかったと思います」
「言葉が通じなかったのか?」
「うーん、そういうのとはちょっと違うような?」
どう言えばいいのかと、私は腕を組んで首を傾げる。
「向こうに行ったら、元精霊達が待ち構えていたんです。片言の概念通信を受けたので、清浄なる水が怖くなかったか聞いたんですが、返事はありませんでした。次に聖なる雫を受け入れて欲しいとお願いして……」
「まさか攻撃を受けたのか?」
「攻撃というか、『ヤサシイ。ズットイッショ』とか言って、飛びかかられました。私が逃げると、彼らは『カケッコ?』と言って追いかけてきまして」
ヴィル様は無言で眉を寄せる。
「襲ってるわね」
「襲ってますね」
ディーネとルフィーは半目になって、そう言った。
「元、でも精霊なんだから、半身候補の印を感じ取れないはずないんだけど……」
「長年勇者の魔力にあてられて、感覚が麻痺したのか!? それとも馬鹿になったのか!?」
グノーが困惑の声を漏らし、サラが頭を抱える。するとヴィル様が高圧縮した魔力で短剣を作り出し、切っ先を自身に向けた。
「わー!! 何してるんですか!?」
私は慌ててヴィル様の腕にしがみつく。
ヴィル様、ご乱心!?
「危ないから離れていろ」
「離れたら、もっと危ない事をする気でしょう!?」
大人姿の私は魔力を暴走させる危険があるから、一人では身体強化すら使えない。素の力でヴィル様を止められるわけがないのだけど――いや、仮に身体強化ができても不可能かもしれないが、ヴィル様の短剣を持つ手は止まっていた。私に怪我をさせないためだろう。
悔しい事に、私ではヴィル様に勝てない。その代わり、体を盾にして止める事はできる。
「……首輪を切ってみるだけだ」
「ダメです! ヴィル様の事だから、魔力剣で首輪を切るのは試し済みなんでしょう? 効果がなかった方法を、もう一度試すとは思えません。魔力を高圧縮した剣を試すのは初めてですよね?」
「ああ。魔力を圧縮するなど、先日ミラが魔力制御訓練でやるまで思いつかなかった」
過去の私の馬鹿者め!
内心で罵ってみても、お手本を見せてしまったものは仕方ない。
「通常の剣ではヴィル様を傷つけられないけど、その魔力剣まで平気とは限らないでしょう!?」
生半可な刃物じゃ、ヴィル様の体は傷一つつかない。しかし魔力剣は、魔力喰らい――鱗に覆われているワニに似た魔獣を一刀両断するほどの威力を持つ。そして今彼が手にしている短剣には、その時の魔力剣よりずっと多くの魔力が使われているのだ。
「浄化魔法で首輪が外せるのであれば、ミラに任せようと思っていた。だが元精霊は、半身候補の印を持つお前を襲うほどに愚かなのだ。二度と接触させるわけにはいかない。もしも魔力剣で怪我をしたなら、傷は治癒魔法で治す」
「出血多量になったら危ないですって! きっと元精霊達は襲ったつもりはないですから! かけっこですよ、かけっこ。じゃれつこうとしただけです。仮に捕まっても、もう取り込まれたりしません。余裕で弾き飛ばせます。まったくもって平気です!」
例えるなら、超大型犬が、遊んでくれと全力で飛びかかってきたようなものだ。それを躱して、いなして、屈服させればいいのである。
必死で言いつのる私を、ヴィル様がジッと見つめた。
「……また会いに行くつもりか?」
じゃれつかれるだけでも許せないらしい。これは私に半身候補の印を与えたから、情に厚いドラゴン的に良しと思えないのだろうか?
元精霊達にとって半身候補の印が意味のないものなら、印を持たなくてもいい。むしろ魔法が使えなければひ弱な人間である私が、ドラゴンの逆鱗となる印を持っているなんて、危なっかしくないか? でも印を消すという提案は、しづらい雰囲気である。
「……わかりました。もう行きません」
私が頷くと、ヴィル様の手から短剣が消えた。私はホッとして彼の腕を解放する。固唾を呑んで私達を見守っていたグノー達も、安堵の息を漏らした。
「聖なる雫を薄める用意をしてきますから、待っててください」
私はそう言って、寝室へ向かう。棚から手巾を五枚取り出し、クローゼットの奥から小さな木箱を引っ張り出して、リビングに持ち帰った。そして木箱をテーブルの上に置き、中身を取り出す。
中に入っているのは、外径六センチ、高さ十センチほどの三角フラスコもどきだ。この世界の時計は、時計花という植物で、水に浮かべた状態で使う。なので、それを携帯できないかと思って作ってみたのである。
私は五つの三角フラスコもどきをテーブルに並べ、その内の一つを手に取った。
「ディーネ。まずはこれに聖なる雫を入れるから、もう一度合一をお願い」
「はーい」
合一した私は両手を合わせて目を閉じる。ゆっくり息を整えながら、滝を思い浮かべた。
大抵の人はここで、一滴の雫と、穢れを浄化した後を想像するらしい。
けれど私は違う。ついこの間まで忘れていたけど、私は前世で死んだ時、魔族を人に戻せる存在を探して死後の世界――冥府で働いていたフラルカ様に出会い、神様が実在すると知った。無意識はそれを覚えていたんだろう。だから水を司る神、龍神様の住まう滝を思い浮かべていた。
「穢れを祓い清めたまえ」
(元精霊達が首輪から解放されますよう、力をお貸しください)
龍神様に祈って、神水を分けていただく――私の浄化魔法のイメージは、神様頼みだ。
「聖なる雫」
発動の呪文を唱えれば、白銀に輝く雫が空中に現れる。雫は三角フラスコの中にポトリと落ちて、そこを満たした。それなりの魔力と引き替えに得たのは、およそ百ミリリットル。雫の大きさはどうあれ、一滴である事に変わりはない。
輝きの収まった聖なる雫を、残る四つの三角フラスコに分ける。右から順に量を増やしていき、五段階に分けた。そこに湧水で水を注ぎ、四つの三角フラスコの中身を薄める。最後の一つは原液のままにしておいた。
「ありがとう、ディーネ」
ディーネにお礼を言って、合一を解いた私は、右端の三角フラスコを手に取る。
「じゃあ、ヴィル様、いきますよ?」
「ああ」
一番濃度の薄い聖なる雫を新しい手巾に含ませて、首輪に当てた。しっかり拭おうと首輪を覆えば、首にも手巾が当たってしまう。私はすぐさま手巾を離して、肌に異常がないか確かめた。少なくとも、見た目は問題ない。
「大丈夫だ。痛みや違和感はない」
ヴィル様の言葉を信じて、手巾を一周させる。そして期待と不安を抱きながら、首輪と肌の境に触れた。
「……ダメですね」
私は手巾をかえて、次の三角フラスコを手に取る。さっきよりも聖なる雫の割合が多い水だ。けれどこれも効果がなく、次も、その次も、首輪に変化はなかった。
残るは、聖なる雫百パーセントのみ。
私は手巾を濡らし、慎重に首輪に当てた。すぐに離して、異常の有無を確認する。肌はうっすら赤くなっていたが、一瞬で元に戻った。
「ヴィル様。今一瞬だけ、肌が赤くなってましたけど……」
彼を見上げれば、頷きが返ってくる。
「チリチリとした痛みを少し感じたが、すぐに消えた」
「それなら、薄めますね。ディーネ、もう一度合一を」
三度目の合一をしようとした私の手を、ヴィル様が掴んだ。
「治癒魔法を使うまでもない炎症だ。気にしなくていい」
「でも……」
「心配するな。魔石への影響は感じられない。これで首輪が外れなければ早々に見切りをつけ、次の手段を考えられるだろう?」
確かにそうだ。薄めた聖なる雫で異常は起こらなかったものの、首輪も外れなかった。致命的な問題じゃないなら、多少のリスクは許容すべきなのかもしれない。
ヴィル様の白い肌をジッと見つめ、私は覚悟を決めて頷いた。
再び首輪に手巾を当て、ゆっくりと一周させていく。聖なる雫が触れた肌はまた一瞬炎症を起こして、すぐに元の白さを取り戻した。
さっさと一周させてしまいたいけれど、丁寧に首輪を拭いていく。雑に拭ったせいで効果がなかったのかもしれない――なんて可能性は潰しておきたかった。
私はやっとの思いで手巾を一周させ、大きく息をつく。そして改めて首輪を見て、目を見張った。
「……首輪の色、少し薄くなっている気がします」
漆黒だった犯罪奴隷の首輪。その色が、ほんの少し灰色がかって見えた。
元精霊達を浄化できたのかな?
ドキドキしつつ、首輪と肌の境に触れると、首輪が歪んで、指先が隙間に入り込んだ。
サラが、「おお!」と声を上げて身を乗り出す。けれど……
「……でも、これ以上は入らないみたい」
「あー。そっか」
私の言葉にサラは肩を落としたが、すぐに気を取り直すように笑った。
「でも、引っかかるようになったのは進歩だ。浄化を繰り返せば、そのうち外れるんじゃないか?」
「そうだよね」
ヴィル様の肌が炎症を起こしちゃうのも、元精霊達の様子も気になるものの、成果はあった。
窺うようにヴィル様を見れば、しっかりと釘を刺される。
「元精霊のもとには行かぬと約束したな?」
「はい」
仕方がないので、私は大人しく浄化魔法を繰り返した。
第二話
その後、何度も聖なる雫を試してみたけれど、指先が入る以上の変化はなかった。やがて練兵場へ向かう時間となったので、諦めて移動する。
練兵場へ行くのは、魔力の制御訓練を続けるためだ。夏至祭までに、完全に制御できるようになるとは思ってない。でも、最低限の努力はしておきたい。
〝私はそう簡単に魔力を暴走させませんよ〟とアピールできれば、夏至祭警備責任者の心労を軽くできるかもしれないしね。
ちなみに先日までは見届け役として、魔術師長のグリンガム様とメルディ様が訓練に立ち会ってくれていたのだが、もうその必要はないとのこと。
アイン様から聞いた話では、グリンガム様は私が使う珍しい魔法を、間近でもっと見ていたかったと酷く残念がっていたらしい。でも、ご自分の研究や弟子の育成、国の魔術的防衛等々忙しい方だから、魔力制御の試験で夏至祭参加の許可が下りて良かったと思う。他の人に迷惑がかかっちゃうもんね。
一方、私の夏至祭参加阻止を狙う貴族家への牽制を兼ねて見届け役をしていたメルディ様は、残念がってはいなかった。
「見届け役でなくてはミラさんに会ってはならないというわけではありませんし、わたくしはグリンガム様と違って、魔法を見に行くヒマがありますもの。それに……ダンス講師として通わせていただく間は、アイン様がわたくしのパートナーですのよ?」
言葉の後半では、メルディ様は頬を赤く染めていた。かわいい反応、ごちそうさまです。
その場にいたアイン様は、苦笑していた。押しの強い女の子は苦手なんだろうか? 一途でかわいいと思うんだけどねぇ。
そんなわけで、メルディ様は時々訓練を見学しに来るとおっしゃっていた。
私の試験が終わるまでは、私の訓練中は練兵場の見学が禁止されていたが、試験が終わった今は、誰でも自由に見学できるようになるはずだ。だから見届け役でなくなったメルディ様でも、見学できる。ただ――心配なのは、ヴィル様狙いのお嬢様が、練兵場に殺到する事だ。高魔力保持者のヴィル様を娘婿にと望む貴族が、少なからずいるのである。
そんな彼女達にとって、私は完全に邪魔者だ。私を排除しようと、魔力暴走を誘発してきたりしたら嫌だなぁ。
メルディ様には申し訳ないけど、やっぱり私が練兵場を利用する時は、何か理由をつけて見学者をお断りした方がいいかもしれない。一般人――特に自分で自分の身を守れない人はダメとか。ああ、でも、それじゃあ私が試験で得た安全保証の信憑性が崩れかねないから無理か。困ったなぁ……
そんな憂鬱を抱えながら、ヴィル様同伴で練兵場に向かったのだけど、今日のところは杞憂に終わり、その代わりに面食らった。大人姿の私を見た一部の騎士様達が、大喜びで迎えてくれたのである。
一部とは、私とガイを王都まで連れてきてくれた魔法騎士様の一人、グゼさん率いる美人好きの一派だ。「ひゃっほい!」と叫ぶわ、「グッジョブ、勇者殿!」なんて言ってヴィル様の肩を叩くわ……
ヴィル様は理解できない者を見る目で、彼らを見ていた。たぶん反応に困ったんだろう。
私もかなり恥ずかしかった。しかも彼らは私が魔法を使う時に、最前列に陣取ったし。
クールドライミストの魔法の練習で、うっかり冷たすぎる霧を出してしまったのは、仕方ないと思う。
クールダウン、クールダウン。おまえら落ち着けってね。
……とはいえ、うん、私も落ち着くべきだった。今更だけど、巻き込んだ他の皆様ごめんなさい。
でもまあ、風邪はひいてないよね? 騎士様達が凍える前に私が眩暈を感じ始めて、早々に魔法の発動を止めたもの。
今の私は、魔力が一人で制御可能な量になる前に、眩暈が起きる。そしてその眩暈が治まるまで魔力が減ると、一時的に本来の子供姿に戻れるのだ。
今日も私は眩暈を起こしてから別の魔法を使い、訓練の途中で子どもの姿に戻ったのだった。
強い風が窓を揺らし、ガタガタと音を立てる。雨が降る気配はないが、昼すぎから強くなった風は、夜の深まった今も吹き荒れていた。間接照明として置かれている魔道具が、室内をぼんやりと照らしている。
「……元精霊達の浄化、てこずりそうだな」
ベッドの上で寝返りを打った私は、横たわったままポツリと呟いた。そして、視界に入った手を見つめる。するとみるみるうちに、ドラゴンの半身候補の印が浮かび上がった。その小さな手は、六歳の私本来の手だ。
「そういえば、手をガン見してくる騎士様が何人かいたよね。印の意味を知ってたのかな?」
ドラゴンの半身候補の印は、婚約者の証。普段は見えないが、時々花のような魔法陣が浮かび上がる。大抵は、私がそこに印があると意識した時だ。でも、ふと気がつけば、見えている時もある。これは原因不明。おかげで不特定多数に見られてしまう。
しばらく無言で見つめ合っていると、ディーネのため息が聞こえた。
「マスター。勇者を落としたいなら、色仕掛けよりロリ仕掛けの方が効果ありだと思うわ」
「は?」
私は思わず間の抜けた声を上げて、ソファーの後ろに立つディーネを見上げた。
「失礼な。色仕掛けをした覚えはないよ。っていうか、ロリ仕掛けって、何?」
「勇者は体内の魔石のせいで、子供好きなドラゴンの習性に影響を受けているでしょ。子供姿でお願いした方が効くと思うの」
なるほど。子供姿イコール、ロリ姿。ロリ姿でのおねだりがすなわち、ロリ仕掛け。
……その呼び方に思うところがあるものの、手段としては一考の余地ありだろうか。
「でもそれだと、庇護欲の方が強くなって、よけい反対するんじゃないか?」
「そうだね。前回マスターの精神が首輪に囚われた時、子供姿だったし」
「同じ状況は、抵抗感が強いですよね」
検討する私の耳に、サラ、グノー、ルフィーの考察が届く。
じゃあ、ダメだ。反対される要素を増やす気はない。
「そういえば、助言をくれるって事は、みんなは元精霊達のところに行くのを許してくれるの?」
私の問いに、精霊達は肩を竦めてみせる。そしてグノーが代表して答えた。
「僕らのマスターは、やれると言ったらやれる人だからね。ちゃんと帰ってくると信じるよ」
「帰ってくるよ。約束する」
一つ頷いてヴィル様に向き直ると、彼は変わらない無表情で私を見つめていた。
う。……睨めっこから先に視線を逸らしてしまったけど、まだ負けじゃないよね?
勝負の再開とばかりに見つめ返せば、彼はいきなり私を抱き寄せた。
「なっ、ななな、何ですか!?」
(逆色仕掛けですか!? でも私は丸め込まれたりなんかしないですよ!?)
キッと睨み上げようとしたら、頭を押さえ込まれた。彼の襟元から覗く肌の白さが眩しい。
決意したにもかかわらず、危うく屈しそうになったその時、「五分だ」と囁かれた。
「え?」
「五分だけ、元精霊と接触を試みる事を許す。会えても会えずとも、それ以上は駄目だ」
「わかりました。五分以内に元精霊達と接触して、必ず帰ってきます」
ヴィル様からの譲歩に、私はすぐさま承諾した。
約束を交わした事で、拘束が緩む。彼の腕から脱した私は、さっそく首輪に右手を伸ばした。その手をヴィル様が捕らえる。
「ヴィル様?」
訝しんで呼んだ私に答えず、彼は私の手の甲に口づけた。しかも――
「な、なめ、なめ……」
私がパニックを起こしていると、ヴィル様の唇が離れる。そしてその感触が消えぬうちに、手の甲にポウッと花のような形の魔法陣が光って消えた。
「印をつけた。これで大半の者は、お前に手を出せまい」
どこか満足そうなヴィル様に、サラとグノーが呆れた声でコメントする。
「そりゃそうだろ」
「ドラゴンの半身候補に手を出すなんて、よっぽど魔力に鈍いか馬鹿か、命知らずだよ」
「ドラゴンの半身候補?」
奇妙な胸のざわめきを感じながら、初めて聞く単語を呟く。するとグノーは、気の毒そうに私を見た。
「さっきの魔法陣は、ドラゴンの半身候補――つまり、婚約者の印だよ」
こん、やく、しゃ?
「左手にも同じ印をつけたら、妻になる。彼らは伴侶への執着が凄いんだ。その印を持つ者に危害を加える事は、ドラゴンに『自分を殺してくれ』と言うようなものだよ」
呆然としつつも、私はなんとかグノーの説明を理解した。
「……つまり、虎の威を借る狐的なお守り?」
ディーネとルフィーがコクリと頷いて同意する。
「初めて聞く言い回しだけど、なんとなく意味はわかるわ。だいたいそんな感じよ」
「かなりキョーレツなお守りです」
ヴィル様の口ぶりからして、元精霊から私の身を護るために施してくれた印なんだろう。でもその実態は、ドラゴンの婚約者や妻を示すマーキング。
わぁ、魔王勇者様と婚約しちゃった。でもプロポーズの言葉はなし。目的を考えればプロポーズは必要ないんだけど、複雑な気分だ。嬉しいような、悔しいような。なんだこれ?
「心配せずとも、ミラが他の者と婚約する際には消す」
「はあ」
微妙な気分が更に増した。よくわかんないものの、癪である。
そんな私に、ヴィル様は時計を指し示した。
「それよりもいいのか? あと三分だが」
「もうカウントしてたんですか!? ずるいですよ!」
「教えてやったろう?」
ヴィル様は悪びれる様子もない。きっと延長を求めても無駄だ。今は文句を言う時間も惜しい。
私は両手でヴィル様の首輪に触れ、目を閉じ、大きく深呼吸した。
思い浮かべるのは闇。悲しみと恨みに沈む闇の世界。そこに囚われた精霊達の魂。
私は彼らに捕まらないように張っていた気を緩めて、彼らの事だけを考えた。
周囲からすっと音が消える。
ゆっくりと目を開ければ、暗闇の世界が広がっていた。元精霊達がいる、首輪の中の世界だ。前回と違う点をあげるなら、元精霊である闇色の塊が、既にそこにいるくらいだろうか。
……襲うために、私を待ち構えていたわけじゃないよね? いやいや、時間がないからポジティブに考えよう。呼び出す手間が省けて助かったよ、うん。
それでもちょっと不安になって、私はヴィル様が印をつけた右手を胸に抱え込んだ。
「あれ、手が小さい。子供になってる」
私はいつの間にか、六歳の姿に戻っていた。服もなぜか学園の制服である。
前回ここに来た時は、現実世界でも子供姿だったけど、今回はさっきまで、大人姿だったのに……。あれはヴィル様の魔法によって与えられた仮の姿だから、精神体のみになるこの世界では、本来の姿になったのかな?
『キタ』
『ホントニ、キタ』
首を傾げていた私の脳裏に、元精霊達の言葉のようなものが浮かんだ。
「ひょっとしてこれ、概念通信?」
実体を持つ高位精霊となったグノー達は、普段、声を発して会話をしている。そこまで成長する前は、こんなふうに私の頭の中に文字が浮かび、読むまでもなく意味合い――概念が伝わってきた。
概念通信とは、本来は資質がある魔術師が、契約した精霊のものしか受け取れない。でも私は、グノー達と契約を交わす前に、片言の概念通信を受け取れていた。
下位精霊のなれの果てである元精霊達が、概念通信を使えるのは不思議じゃないし、私が彼らと契約していないにもかかわらず、それを受け取れるのも、ありえる事なのかもしれない。
「片言の概念通信は久しぶり」
私は少し懐かしい気持ちになって、目を細めて元精霊達を見た。
「約束通り、また来たよ。あなた達を首輪から解放するために、さっき清浄なる水を使ってみたんだけど、怖がらせちゃったかな?」
小首を傾げて問いかけてみる。しかし答えはなかった。
「これから聖なる雫を使うつもり。とはいえ、あなた達を傷つけるつもりじゃないの。怖いかもしれない。でも、私を信じて浄化を受け入れてもらえないかな?」
これにも反応がない――かと思いきや、元精霊達がざわめいた。
『……イッショ』
「一緒?」
何が? と問い返そうとした瞬間、元精霊が飛びかかってきた。
私はギョッとしてそれを躱す。
『ヤサシイ。ズット、イッショ』
前後を挟まれた私は、ジリジリと横に移動した。
ちょっと待て。印があれば、手を出されないんじゃなかったの?
そう思ったと同時に、右手の甲に消えたはずの魔法陣がポウッと光って浮かび上がる。
えっ、今、光った? どういう仕組みなの!?
私が戸惑っている間も、元精霊達はにじり寄ってきていた。私は元精霊達との距離を測りつつ、グノーの言葉を思い出す。
――『ドラゴンの半身候補に手を出すなんて、よっぽど魔力に鈍いか馬鹿か、命知らずだよ』
彼らは下位とはいえ精霊だったのだ。魔力に鈍いとは思えない。知能レベルはわからないけど、命は既にないから気にしてないんだろうか? 魂すら消されるとは思わないの?
再び突進してきた元精霊を避けて、私は暗闇の中を走り出した。
『カケッコ?』
元精霊達はそう言うと、追いかけてくる。
「遊びだと思ってる!?」
私に危害を加えるつもりはないから、ドラゴンの怒りを買うとは思っていないのかもしれない。
「でもこれじゃあ、浄化魔法を受け入れてほしい、って説得するどころじゃないよ」
人への恨みはどこに行ったんだと問いただしたいくらい、元精霊達はなぜか私に懐いてくれているらしい。私は、彼らを振り切るように走った。走っているうちに、多少攻撃的な浄化魔法を行使しても大丈夫かも? と思えてくる。
承諾はもらってないけど、また浄化魔法を使う事は伝えられたよね? 最後に念のため……
私は後ろを振り返った。その瞬間に飛びかかってきた元精霊を躱し、もう一度告げる。
「聖なる雫は薄めの濃度から始めるよ!」
そして本体である体を意識して、現実世界へと帰還した。
暗闇の世界から戻って真っ先に目に入ったのは、ヴィル様の綺麗な顔。暗闇の世界に飛んで意識を失った私を、彼の膝を枕にして寝かせてくれていたらしい。
視線を巡らせれば、おちび姿の精霊達が、長ソファーの背もたれの上にいた。
「ただいま」
ニコリと笑って言うと、「お帰りなさい」と返される。私はゆっくり起き上がった。
「元精霊には会えたか?」
私はソファーに深く座り直してから、ヴィル様の質問に答える。
「はい。前回とは違って、いきなり襲われたりはしませんでした。聖なる雫を使う事も伝えたんですけど……拒絶、はされなかったと思います」
「言葉が通じなかったのか?」
「うーん、そういうのとはちょっと違うような?」
どう言えばいいのかと、私は腕を組んで首を傾げる。
「向こうに行ったら、元精霊達が待ち構えていたんです。片言の概念通信を受けたので、清浄なる水が怖くなかったか聞いたんですが、返事はありませんでした。次に聖なる雫を受け入れて欲しいとお願いして……」
「まさか攻撃を受けたのか?」
「攻撃というか、『ヤサシイ。ズットイッショ』とか言って、飛びかかられました。私が逃げると、彼らは『カケッコ?』と言って追いかけてきまして」
ヴィル様は無言で眉を寄せる。
「襲ってるわね」
「襲ってますね」
ディーネとルフィーは半目になって、そう言った。
「元、でも精霊なんだから、半身候補の印を感じ取れないはずないんだけど……」
「長年勇者の魔力にあてられて、感覚が麻痺したのか!? それとも馬鹿になったのか!?」
グノーが困惑の声を漏らし、サラが頭を抱える。するとヴィル様が高圧縮した魔力で短剣を作り出し、切っ先を自身に向けた。
「わー!! 何してるんですか!?」
私は慌ててヴィル様の腕にしがみつく。
ヴィル様、ご乱心!?
「危ないから離れていろ」
「離れたら、もっと危ない事をする気でしょう!?」
大人姿の私は魔力を暴走させる危険があるから、一人では身体強化すら使えない。素の力でヴィル様を止められるわけがないのだけど――いや、仮に身体強化ができても不可能かもしれないが、ヴィル様の短剣を持つ手は止まっていた。私に怪我をさせないためだろう。
悔しい事に、私ではヴィル様に勝てない。その代わり、体を盾にして止める事はできる。
「……首輪を切ってみるだけだ」
「ダメです! ヴィル様の事だから、魔力剣で首輪を切るのは試し済みなんでしょう? 効果がなかった方法を、もう一度試すとは思えません。魔力を高圧縮した剣を試すのは初めてですよね?」
「ああ。魔力を圧縮するなど、先日ミラが魔力制御訓練でやるまで思いつかなかった」
過去の私の馬鹿者め!
内心で罵ってみても、お手本を見せてしまったものは仕方ない。
「通常の剣ではヴィル様を傷つけられないけど、その魔力剣まで平気とは限らないでしょう!?」
生半可な刃物じゃ、ヴィル様の体は傷一つつかない。しかし魔力剣は、魔力喰らい――鱗に覆われているワニに似た魔獣を一刀両断するほどの威力を持つ。そして今彼が手にしている短剣には、その時の魔力剣よりずっと多くの魔力が使われているのだ。
「浄化魔法で首輪が外せるのであれば、ミラに任せようと思っていた。だが元精霊は、半身候補の印を持つお前を襲うほどに愚かなのだ。二度と接触させるわけにはいかない。もしも魔力剣で怪我をしたなら、傷は治癒魔法で治す」
「出血多量になったら危ないですって! きっと元精霊達は襲ったつもりはないですから! かけっこですよ、かけっこ。じゃれつこうとしただけです。仮に捕まっても、もう取り込まれたりしません。余裕で弾き飛ばせます。まったくもって平気です!」
例えるなら、超大型犬が、遊んでくれと全力で飛びかかってきたようなものだ。それを躱して、いなして、屈服させればいいのである。
必死で言いつのる私を、ヴィル様がジッと見つめた。
「……また会いに行くつもりか?」
じゃれつかれるだけでも許せないらしい。これは私に半身候補の印を与えたから、情に厚いドラゴン的に良しと思えないのだろうか?
元精霊達にとって半身候補の印が意味のないものなら、印を持たなくてもいい。むしろ魔法が使えなければひ弱な人間である私が、ドラゴンの逆鱗となる印を持っているなんて、危なっかしくないか? でも印を消すという提案は、しづらい雰囲気である。
「……わかりました。もう行きません」
私が頷くと、ヴィル様の手から短剣が消えた。私はホッとして彼の腕を解放する。固唾を呑んで私達を見守っていたグノー達も、安堵の息を漏らした。
「聖なる雫を薄める用意をしてきますから、待っててください」
私はそう言って、寝室へ向かう。棚から手巾を五枚取り出し、クローゼットの奥から小さな木箱を引っ張り出して、リビングに持ち帰った。そして木箱をテーブルの上に置き、中身を取り出す。
中に入っているのは、外径六センチ、高さ十センチほどの三角フラスコもどきだ。この世界の時計は、時計花という植物で、水に浮かべた状態で使う。なので、それを携帯できないかと思って作ってみたのである。
私は五つの三角フラスコもどきをテーブルに並べ、その内の一つを手に取った。
「ディーネ。まずはこれに聖なる雫を入れるから、もう一度合一をお願い」
「はーい」
合一した私は両手を合わせて目を閉じる。ゆっくり息を整えながら、滝を思い浮かべた。
大抵の人はここで、一滴の雫と、穢れを浄化した後を想像するらしい。
けれど私は違う。ついこの間まで忘れていたけど、私は前世で死んだ時、魔族を人に戻せる存在を探して死後の世界――冥府で働いていたフラルカ様に出会い、神様が実在すると知った。無意識はそれを覚えていたんだろう。だから水を司る神、龍神様の住まう滝を思い浮かべていた。
「穢れを祓い清めたまえ」
(元精霊達が首輪から解放されますよう、力をお貸しください)
龍神様に祈って、神水を分けていただく――私の浄化魔法のイメージは、神様頼みだ。
「聖なる雫」
発動の呪文を唱えれば、白銀に輝く雫が空中に現れる。雫は三角フラスコの中にポトリと落ちて、そこを満たした。それなりの魔力と引き替えに得たのは、およそ百ミリリットル。雫の大きさはどうあれ、一滴である事に変わりはない。
輝きの収まった聖なる雫を、残る四つの三角フラスコに分ける。右から順に量を増やしていき、五段階に分けた。そこに湧水で水を注ぎ、四つの三角フラスコの中身を薄める。最後の一つは原液のままにしておいた。
「ありがとう、ディーネ」
ディーネにお礼を言って、合一を解いた私は、右端の三角フラスコを手に取る。
「じゃあ、ヴィル様、いきますよ?」
「ああ」
一番濃度の薄い聖なる雫を新しい手巾に含ませて、首輪に当てた。しっかり拭おうと首輪を覆えば、首にも手巾が当たってしまう。私はすぐさま手巾を離して、肌に異常がないか確かめた。少なくとも、見た目は問題ない。
「大丈夫だ。痛みや違和感はない」
ヴィル様の言葉を信じて、手巾を一周させる。そして期待と不安を抱きながら、首輪と肌の境に触れた。
「……ダメですね」
私は手巾をかえて、次の三角フラスコを手に取る。さっきよりも聖なる雫の割合が多い水だ。けれどこれも効果がなく、次も、その次も、首輪に変化はなかった。
残るは、聖なる雫百パーセントのみ。
私は手巾を濡らし、慎重に首輪に当てた。すぐに離して、異常の有無を確認する。肌はうっすら赤くなっていたが、一瞬で元に戻った。
「ヴィル様。今一瞬だけ、肌が赤くなってましたけど……」
彼を見上げれば、頷きが返ってくる。
「チリチリとした痛みを少し感じたが、すぐに消えた」
「それなら、薄めますね。ディーネ、もう一度合一を」
三度目の合一をしようとした私の手を、ヴィル様が掴んだ。
「治癒魔法を使うまでもない炎症だ。気にしなくていい」
「でも……」
「心配するな。魔石への影響は感じられない。これで首輪が外れなければ早々に見切りをつけ、次の手段を考えられるだろう?」
確かにそうだ。薄めた聖なる雫で異常は起こらなかったものの、首輪も外れなかった。致命的な問題じゃないなら、多少のリスクは許容すべきなのかもしれない。
ヴィル様の白い肌をジッと見つめ、私は覚悟を決めて頷いた。
再び首輪に手巾を当て、ゆっくりと一周させていく。聖なる雫が触れた肌はまた一瞬炎症を起こして、すぐに元の白さを取り戻した。
さっさと一周させてしまいたいけれど、丁寧に首輪を拭いていく。雑に拭ったせいで効果がなかったのかもしれない――なんて可能性は潰しておきたかった。
私はやっとの思いで手巾を一周させ、大きく息をつく。そして改めて首輪を見て、目を見張った。
「……首輪の色、少し薄くなっている気がします」
漆黒だった犯罪奴隷の首輪。その色が、ほんの少し灰色がかって見えた。
元精霊達を浄化できたのかな?
ドキドキしつつ、首輪と肌の境に触れると、首輪が歪んで、指先が隙間に入り込んだ。
サラが、「おお!」と声を上げて身を乗り出す。けれど……
「……でも、これ以上は入らないみたい」
「あー。そっか」
私の言葉にサラは肩を落としたが、すぐに気を取り直すように笑った。
「でも、引っかかるようになったのは進歩だ。浄化を繰り返せば、そのうち外れるんじゃないか?」
「そうだよね」
ヴィル様の肌が炎症を起こしちゃうのも、元精霊達の様子も気になるものの、成果はあった。
窺うようにヴィル様を見れば、しっかりと釘を刺される。
「元精霊のもとには行かぬと約束したな?」
「はい」
仕方がないので、私は大人しく浄化魔法を繰り返した。
第二話
その後、何度も聖なる雫を試してみたけれど、指先が入る以上の変化はなかった。やがて練兵場へ向かう時間となったので、諦めて移動する。
練兵場へ行くのは、魔力の制御訓練を続けるためだ。夏至祭までに、完全に制御できるようになるとは思ってない。でも、最低限の努力はしておきたい。
〝私はそう簡単に魔力を暴走させませんよ〟とアピールできれば、夏至祭警備責任者の心労を軽くできるかもしれないしね。
ちなみに先日までは見届け役として、魔術師長のグリンガム様とメルディ様が訓練に立ち会ってくれていたのだが、もうその必要はないとのこと。
アイン様から聞いた話では、グリンガム様は私が使う珍しい魔法を、間近でもっと見ていたかったと酷く残念がっていたらしい。でも、ご自分の研究や弟子の育成、国の魔術的防衛等々忙しい方だから、魔力制御の試験で夏至祭参加の許可が下りて良かったと思う。他の人に迷惑がかかっちゃうもんね。
一方、私の夏至祭参加阻止を狙う貴族家への牽制を兼ねて見届け役をしていたメルディ様は、残念がってはいなかった。
「見届け役でなくてはミラさんに会ってはならないというわけではありませんし、わたくしはグリンガム様と違って、魔法を見に行くヒマがありますもの。それに……ダンス講師として通わせていただく間は、アイン様がわたくしのパートナーですのよ?」
言葉の後半では、メルディ様は頬を赤く染めていた。かわいい反応、ごちそうさまです。
その場にいたアイン様は、苦笑していた。押しの強い女の子は苦手なんだろうか? 一途でかわいいと思うんだけどねぇ。
そんなわけで、メルディ様は時々訓練を見学しに来るとおっしゃっていた。
私の試験が終わるまでは、私の訓練中は練兵場の見学が禁止されていたが、試験が終わった今は、誰でも自由に見学できるようになるはずだ。だから見届け役でなくなったメルディ様でも、見学できる。ただ――心配なのは、ヴィル様狙いのお嬢様が、練兵場に殺到する事だ。高魔力保持者のヴィル様を娘婿にと望む貴族が、少なからずいるのである。
そんな彼女達にとって、私は完全に邪魔者だ。私を排除しようと、魔力暴走を誘発してきたりしたら嫌だなぁ。
メルディ様には申し訳ないけど、やっぱり私が練兵場を利用する時は、何か理由をつけて見学者をお断りした方がいいかもしれない。一般人――特に自分で自分の身を守れない人はダメとか。ああ、でも、それじゃあ私が試験で得た安全保証の信憑性が崩れかねないから無理か。困ったなぁ……
そんな憂鬱を抱えながら、ヴィル様同伴で練兵場に向かったのだけど、今日のところは杞憂に終わり、その代わりに面食らった。大人姿の私を見た一部の騎士様達が、大喜びで迎えてくれたのである。
一部とは、私とガイを王都まで連れてきてくれた魔法騎士様の一人、グゼさん率いる美人好きの一派だ。「ひゃっほい!」と叫ぶわ、「グッジョブ、勇者殿!」なんて言ってヴィル様の肩を叩くわ……
ヴィル様は理解できない者を見る目で、彼らを見ていた。たぶん反応に困ったんだろう。
私もかなり恥ずかしかった。しかも彼らは私が魔法を使う時に、最前列に陣取ったし。
クールドライミストの魔法の練習で、うっかり冷たすぎる霧を出してしまったのは、仕方ないと思う。
クールダウン、クールダウン。おまえら落ち着けってね。
……とはいえ、うん、私も落ち着くべきだった。今更だけど、巻き込んだ他の皆様ごめんなさい。
でもまあ、風邪はひいてないよね? 騎士様達が凍える前に私が眩暈を感じ始めて、早々に魔法の発動を止めたもの。
今の私は、魔力が一人で制御可能な量になる前に、眩暈が起きる。そしてその眩暈が治まるまで魔力が減ると、一時的に本来の子供姿に戻れるのだ。
今日も私は眩暈を起こしてから別の魔法を使い、訓練の途中で子どもの姿に戻ったのだった。
強い風が窓を揺らし、ガタガタと音を立てる。雨が降る気配はないが、昼すぎから強くなった風は、夜の深まった今も吹き荒れていた。間接照明として置かれている魔道具が、室内をぼんやりと照らしている。
「……元精霊達の浄化、てこずりそうだな」
ベッドの上で寝返りを打った私は、横たわったままポツリと呟いた。そして、視界に入った手を見つめる。するとみるみるうちに、ドラゴンの半身候補の印が浮かび上がった。その小さな手は、六歳の私本来の手だ。
「そういえば、手をガン見してくる騎士様が何人かいたよね。印の意味を知ってたのかな?」
ドラゴンの半身候補の印は、婚約者の証。普段は見えないが、時々花のような魔法陣が浮かび上がる。大抵は、私がそこに印があると意識した時だ。でも、ふと気がつけば、見えている時もある。これは原因不明。おかげで不特定多数に見られてしまう。
0
お気に入りに追加
1,251
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。