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エクルの出産1
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「エクル様の陣痛が始まったそうです」
「まあ、では今日中の物は早く終わらせてしまわないとね」
公務を行っていたソアリスの元へ、エクルの陣痛が始まったことが知らされた。書類に目を通し、サインをし終えた、ソアリスはふと洩らした。
「男の子のような気がするわ」
「アンテナですか?」
「もうメディナまで、おかしなことを言わないで!そんなものはないわよ」
「いえ、ソアリス様は規格外ですから」
終わらせなければならない書類は今日は多く、夕暮れに近付いて、ようやく終わった。母ではあるが、その前に王妃であることを不本意ながらも、ソアリスは自負しているので、放り出して行くわけにはいかない。
行く前に生まれるかもしれないと思っていたが、生まれたという報告もないままだったので、テイラー侯爵家に向かうことになった。ケイトも行きたがったが、遅くなってはならないので、カイルスと共に向かうことにした。
「遅くなっちゃったわね」
「おかげで私も来れました」
「久し振りに二人きりね」
「はい」
カイルスは幼い頃と同じように、ソアリスに嬉しそうに笑顔を見せ、まるで恋人たちのデートのようであった。本物の夫は誘われることもなく、後はよろしくと言われただけであった。
後というのは、概ねケイトのことである。
テイラー侯爵家に着くと、エクルの義父となるベリトリー・テイラー侯爵が、凄まじい速さでやって来た。
「お待ちしておりました。お食事も出来ますので、何なりと申し付けください」
「ありがとう、それでエクルは?」
「はい、陣痛が続いておりますが、まだ生まれそうにないようで」
「長いわね…」
連絡で明け方から陣痛が始まっていると聞いていたので、おそらく半日以上は経過している。
「初産なので、珍しいことではないそうですが、既に15時間は経過しています」
「まあ」
「早く顔を見に行きましょう」
「はい、そうしてください」
エクルのいる部屋に案内して貰うと、エクルのうめき声が聞こえた。
「エクル!ブルックスも」
「ようこそ、お越しくださいました」
ブルックスも疲れた顔で、エクルの側に付いていたが、立ち上がって頭を下げた。
「おかぁさま…遅いですよ!イタタタ」
「ごめんなさいね、クソみたいな書類が混ざっていて、時間が掛かったのよ!ヘイリーって誰だよ、ヘンリーじゃねえのかよって、貴族名鑑と睨めっこよ」
まだ助成金の申請に、ふざけた事業拡大が混じっており、しかも見覚えのない名前で、調べるのに時間が掛かったのである。しかも書類を代筆をさせて間違えたようで、執務室は暴言の嵐であった。
「またですか…カイルスもよく来てくれたわね、ありがとう」
「いえ、大丈夫ですか?」
カイルスは生気のないエクルを覗き込んで、心配そうに見つめた。
「ええ、なんかお母様の顔を見たら、力が戻って来たわ、痛いけどね」
「お母様は元気の源ですから」
「え?そうなの?」
「そうですよ、いつもハツラツとしています。今でも走ったり、素振りをしたり、とても元気です」
「好きでやってることだもの」
「普通はなかなかしないそうですよ?」
カイルスにとって母親の象徴は大好きなソアリスであるため、友人の母親の話を聞き、齟齬が生まれた。だが、母親と言っても王妃陛下であるために、友人たちは気を使って、なかなかしないと言っただけで、貴族夫人はソアリスのしているような運動を率先してすることはない。
ソアリスはそうなのかしら?と思っていると、急にエクルが叫び始めた。
「イタタタタ…タタタ!!」
「エクル!痛いでしょう?お母様、7回も耐えたの。凄いでしょう?」
痛いと言っている横で、心配する様子もなく、アリルの時と同じように、7回出産したことを自慢し始めるソアリスであった。
「まあ、では今日中の物は早く終わらせてしまわないとね」
公務を行っていたソアリスの元へ、エクルの陣痛が始まったことが知らされた。書類に目を通し、サインをし終えた、ソアリスはふと洩らした。
「男の子のような気がするわ」
「アンテナですか?」
「もうメディナまで、おかしなことを言わないで!そんなものはないわよ」
「いえ、ソアリス様は規格外ですから」
終わらせなければならない書類は今日は多く、夕暮れに近付いて、ようやく終わった。母ではあるが、その前に王妃であることを不本意ながらも、ソアリスは自負しているので、放り出して行くわけにはいかない。
行く前に生まれるかもしれないと思っていたが、生まれたという報告もないままだったので、テイラー侯爵家に向かうことになった。ケイトも行きたがったが、遅くなってはならないので、カイルスと共に向かうことにした。
「遅くなっちゃったわね」
「おかげで私も来れました」
「久し振りに二人きりね」
「はい」
カイルスは幼い頃と同じように、ソアリスに嬉しそうに笑顔を見せ、まるで恋人たちのデートのようであった。本物の夫は誘われることもなく、後はよろしくと言われただけであった。
後というのは、概ねケイトのことである。
テイラー侯爵家に着くと、エクルの義父となるベリトリー・テイラー侯爵が、凄まじい速さでやって来た。
「お待ちしておりました。お食事も出来ますので、何なりと申し付けください」
「ありがとう、それでエクルは?」
「はい、陣痛が続いておりますが、まだ生まれそうにないようで」
「長いわね…」
連絡で明け方から陣痛が始まっていると聞いていたので、おそらく半日以上は経過している。
「初産なので、珍しいことではないそうですが、既に15時間は経過しています」
「まあ」
「早く顔を見に行きましょう」
「はい、そうしてください」
エクルのいる部屋に案内して貰うと、エクルのうめき声が聞こえた。
「エクル!ブルックスも」
「ようこそ、お越しくださいました」
ブルックスも疲れた顔で、エクルの側に付いていたが、立ち上がって頭を下げた。
「おかぁさま…遅いですよ!イタタタ」
「ごめんなさいね、クソみたいな書類が混ざっていて、時間が掛かったのよ!ヘイリーって誰だよ、ヘンリーじゃねえのかよって、貴族名鑑と睨めっこよ」
まだ助成金の申請に、ふざけた事業拡大が混じっており、しかも見覚えのない名前で、調べるのに時間が掛かったのである。しかも書類を代筆をさせて間違えたようで、執務室は暴言の嵐であった。
「またですか…カイルスもよく来てくれたわね、ありがとう」
「いえ、大丈夫ですか?」
カイルスは生気のないエクルを覗き込んで、心配そうに見つめた。
「ええ、なんかお母様の顔を見たら、力が戻って来たわ、痛いけどね」
「お母様は元気の源ですから」
「え?そうなの?」
「そうですよ、いつもハツラツとしています。今でも走ったり、素振りをしたり、とても元気です」
「好きでやってることだもの」
「普通はなかなかしないそうですよ?」
カイルスにとって母親の象徴は大好きなソアリスであるため、友人の母親の話を聞き、齟齬が生まれた。だが、母親と言っても王妃陛下であるために、友人たちは気を使って、なかなかしないと言っただけで、貴族夫人はソアリスのしているような運動を率先してすることはない。
ソアリスはそうなのかしら?と思っていると、急にエクルが叫び始めた。
「イタタタタ…タタタ!!」
「エクル!痛いでしょう?お母様、7回も耐えたの。凄いでしょう?」
痛いと言っている横で、心配する様子もなく、アリルの時と同じように、7回出産したことを自慢し始めるソアリスであった。
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