私のバラ色ではない人生

野村にれ

文字の大きさ
上 下
285 / 348

畜生2

しおりを挟む
 ソアリスは色気のあると言われていたキリスに似ているので、顔立ちは派手な方である。だが、華美な装飾は必要な時以外は、素早く動けないと、煩わしいと嫌がるので、最低限しかしない。

 それでも美しく見せているのは、日々の運動と食事と睡眠。だが本人に自覚はなく、メイドたちのおかげで美しくして貰っていると思っている。

「ソアリスは見た目に全く気を遣う気がない…運動も好きなことはあるが、樽になりたくない気持ちが強いからな」

 ソアリスは絶対に樽になりたくないと思っており、子どもたちにも節制というほどではないが、そこだけは厳しく言っている。

 ゆえに大食いのケイトにも、厳しいのである。

「王妃陛下はならないとは思っておりましたが、ララシャ嬢を見た後だと、絶対とは言えませんからね」
「ああ…」

 皆、ガリガリだったララシャが樽になって、唖然としたのである。そして、ソアリスの絶対になりたくない気持ちも、さらに理解することが出来たとも言える。

「ソファが沈んでおったそうだ」
「え?」
「ロアンスラー公爵邸に行っただろう?その時に、ララシャ嬢のところだけが沈んでいたそうだ、ソアリスもメディナ夫人も、ケイトまでも言っておった」
「ケイト殿下も?」

 オーランもケイトには、グリグリも何度もされており、カイルス殿下ですら言葉が達者だと思っていたのに、規格外であることは分かっている。

「ぎちぎち、みちみちという音がしていたと言われたよ」
「ぎちぎち、みちみち…臨場感のある表現ですね」
「ああ、ララシャ嬢に馬鹿にされたとも分かったようで、言い返したそうだ」
「殿下なら言い返せるでしょうね」

 普通の二歳は言い返せないが、ケイト殿下なら言い返せることは分かる。

「しかも、ララシャ嬢のことも顔は小さいから、可愛くないぬいぐるみみたい言っていた…」
「王妃陛下の血ですね…可愛くないという表現の仕方が…」
「ああ、毎日思っている。視点が同じなんだろうな。ユリウスがケイトが国王になった方がいいのかもしれないとすら言っていたよ」
「似合いそうではありますがね」
「ああ…」

 アンセムも、あのあまり動じない、肝の座った様子は上のユリウス、マイノスではなく、カイルス、そしてケイトに見られると思っている。

「だが、ソアリス本人は向いていないと思っているからな。それも変わらない」
「妹は、今でも王妃陛下には絶対に逆らわないと誓っております」

 続いて黙って話を聞いていたクイオが話を始め、妹といえば側妃になろうとした、愚かな妖精リパールである。

「あれは…まあ、妹が悪かったからな」

 ソアリスの本気を生で見たというべき瞬間で、忘れることは出来ない。

「はい、王妃陛下にやられて、両親、祖父母に怒られたにも関わらず、友人に王妃陛下が怖かったと言って回ったそうですが、王妃陛下に『あら~男勝りのテクニシャンじゃないの?今日も励んでる?』と言われて、心が折れたようです」
「そうだったのか?」

 ソアリスに敵認定されれば、言われていてもおかしくはない。ソアリスにとっては、挨拶くらいの感覚であろう。

「ええ、バーセム公爵夫人と、レイドラ・ミッドラー前侯爵夫人が参戦して、地獄を見たと言っておりました…」
「それは、恐ろしいな」

 ボソリと言ったのはオーランである。バーセム公爵夫人ことリズは迫力のある美人で、ソアリスのように直接的な言葉を使うことはないがとても鋭く、その母・レイドラ前侯爵夫人は言わずもがなである。

「はい、体が震えたそうです。ですが、いい罰になったと家族全員で感謝したくらいです。本人も、今も怖いというのもありますが、合わせる顔がないと、きちんと反省しております」
「ソアリスはララシャ嬢という化け物を、ずっと相手にしていたからな…」

 ソアリスにとって話の通じる相手、言葉で効果のある相手は、楽である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「だから結婚は君としただろう?」

イチイ アキラ
恋愛
ホンス伯爵家にはプリシラとリリアラという二人の娘がいた。 黒髪に茶色の瞳の地味なプリシラと、金髪で明るい色彩なリリアラ。両親は妹のリリアラを贔屓していた。 救いは、祖父母伯爵は孫をどちらも愛していたこと。大事にしていた…のに。 プリシラは幼い頃より互いに慕い合うアンドリューと結婚し、ホンス伯爵家を継ぐことになっていた。 それを。 あと一ヶ月後には結婚式を行うことになっていたある夜。 アンドリューの寝台に一糸まとわぬリリアラの姿があった。リリアラは、彼女も慕っていたアンドリューとプリシラが結婚するのが気に入らなかったのだ。自分は格下の子爵家に嫁がねばならないのに、姉は美しいアンドリューと結婚して伯爵家も手に入れるだなんて。 …そうして。リリアラは見事に伯爵家もアンドリューも手に入れた。 けれどアンドリューは改めての初夜の夜に告げる。 「君を愛することはない」 と。 わがまま妹に寝取られた物語ですが、寝取られた男性がそのまま流されないお話。そんなことしたら幸せになれるはずがないお話。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

婚約者の断罪

玉響
恋愛
ミリアリア・ビバーナム伯爵令嬢には、最愛の人がいる。婚約者である、バイロン・ゼフィランサス侯爵令息だ。 見目麗しく、令嬢たちからの人気も高いバイロンはとても優しく、ミリアリアは幸せな日々を送っていた。 しかし、バイロンが別の令嬢と密会しているとの噂を耳にする。 親友のセシリア・モナルダ伯爵夫人に相談すると、気の強いセシリアは浮気現場を抑えて、懲らしめようと画策を始めるが………。

もう尽くして耐えるのは辞めます!!

月居 結深
恋愛
 国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。  婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。  こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?  小説家になろうの方でも公開しています。 2024/08/27  なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。

悲劇の令嬢を救いたい、ですか。忠告はしましたので、あとはお好きにどうぞ。

ふまさ
恋愛
「──馬鹿馬鹿しい。何だ、この調査報告書は」  ぱさっ。  伯爵令息であるパーシーは、テーブルに三枚に束ねられた紙をほうった。向かい側に座る伯爵令嬢のカーラは、静かに口を開いた。 「きちんと目は通してもらえましたか?」 「むろんだ。そのうえで、もう一度言わせてもらうよ。馬鹿馬鹿しい、とね。そもそもどうして、きみは探偵なんか雇ってまで、こんなことをしたんだ?」  ざわざわ。ざわざわ。  王都内でも評判のカフェ。昼時のいまは、客で溢れかえっている。 「──女のカン、というやつでしょうか」 「何だ、それは。素直に言ったら少しは可愛げがあるのに」 「素直、とは」 「婚約者のぼくに、きみだけを見てほしいから、こんなことをしました、とかね」  カーラは一つため息をつき、確認するようにもう一度訊ねた。 「きちんとその調査報告書に目を通されたうえで、あなたはわたしの言っていることを馬鹿馬鹿しいと、信じないというのですね?」 「き、きみを馬鹿馬鹿しいとは言ってないし、きみを信じていないわけじゃない。でも、これは……」  カーラは「わかりました」と、調査報告書を手に取り、カバンにしまった。 「それではどうぞ、お好きになさいませ」

【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。

川嶋マサヒロ
恋愛
「僕たちの婚約を破棄しよう」 愛しき婚約者は無情にも、予測していた言葉を口にした。 伯爵令嬢のバシュラール・ディアーヌは婚約破棄を宣告されてしまう。 「あの女のせいです」 兄は怒り――。 「それほどの話であったのか……」 ――父は呆れた。 そして始まる貴族同士の駆け引き。 「ディアーヌの執務室だけど、引き払うように通達を出してくれ。彼女も今は、身の置き所がないだろうしね」 「我が家との取引を中止する? いつでも再開できるように、受け入れ体勢は維持するように」 「決闘か……、子供のころ以来だよ。ワクワクするなあ」 令嬢ディアーヌは、残酷な現実を覆せるのか?

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

処理中です...