私のバラ色ではない人生

仁義なき対決１８

「でもね、そんな言葉で許されるとは思っていないわよね？」
「はい…」
「王妃陛下、すまなかったと私も思っている」

　キリスもマルシャの横で、深く頭を下げた。二度とこんなに近い距離で、話せることはないかもしれないと思ったゆえの行動だった。

「何も出来なかったことも、父親ならば、罪ですものね？」
「あっ、ああ…本当に悪かったと思っている」

　ソアリスはにこっと微笑んだ後、キリスとマルシャの間に入り、そっと二人の耳元で小声で伝えた。

「私ね、殴られたり、叩かれたり、怒鳴られたりした記憶を、今でもふいに思い出して、とても辛くなることがあるの。その気持ち、貴方たちに分かる？それとも、この部屋で何度、母親に叩かれたか、この場で言った方がいい？」
「っ」「―っ」

　スッと離れたソアリスは慈悲深い笑顔で、キリスとマルシャをじっと見つめた。

「いっ、いえ、今日はお疲れ様でした」
「…はい」
「ええ、では、ごきげんよう」

　反省したことで、簡単に許せるほど、ソアリスは特にマルシャに優しさを持っていない。止めることもなかったキリスも、同罪である。

　颯爽と去って行った、王妃陛下一行。

　残されたサイラスとマーニーと、最後に突き刺されたキリスとマルシャは、すぐに部屋に戻ったが、ララシャは動けずにいたが、誰も重すぎて運べないこともあるが、そのまま放置された。

　ソアリスとケイトの頭はすっかり、昼食であった。今日は疲れを癒す、豪華な昼食となっている予定である。

「ケイト～お腹がすいたわね」
「ええ、とっちぇもすいたのよ」
「お菓子を食べたのに？」
「あれは、ごはんではなくて、おやちゅでしょ？」
「まあ！」

　ケイトのおやつは間食の意味であり、食事とは別という意味である。

　同乗していたメディナはさすが食べることへの執着が凄まじく、ソアリスも驚いているのだろうと思っていた。

「それ、お母様も言ったことがあるわ」
「え…」
「なぁに？メディナ？またそっくりだと思ったのでしょう？」
「はい…」
「さっきいた、しょぼくれたお父様にまだ食べるのかって言われて、子どもの頃に言った覚えがあるわ。はあ…中身もミラン様に、似てくれたら良かったのに…ね」

　ソアリスは他の子どもがあまりに自分に似ていなかったこともあり、既視感のあるケイトに、申し訳ない気持ちになっていた。

「わたち、おかしゃまににているのうれちいのよ」
「そ、そう？」

　７人もいて、カイルスには激重愛情を受けて来たが、似ていて嬉しいと初めて言われたソアリスは、珍しく動揺していた。

「そうよ、だからおかしゃまもうれちいでいいのよ？」
「そうね！ケイトの言う通りだわ。親子なんだから、似ていて嬉しいでいいのね」
「そうよ」

　ケイト本人がそう言うのだから、考えるのは止めてしまうおうと開き直ることにした。後は皆、私の扱いに長けているきょうだいが、きっとどうにかするだろう。何かあれば、私が責任を取ればいい。

　ソアリスも他力本願で、ララシャと姉妹なのだなと自嘲したが、責任を取る覚悟があるところは大きく違うと言えるだろう。

「ちょころで、きょうのゆうちょくとあちたのおやつはごちそうね？」
「豪華版ね」
「ごうきゃばん」
「そう！お約束ですからね」

　今回どうして、お供がケイトであったかは、いつもの通りに二歳が何を言っても、許されるという部分は大前提であり、さらに家族全員の推薦もあり、ソアリスのいない場で、満場一致でケイトに決まったのである。

　そして、ケイトを連れて行くようにアンセムに告げられたのである。

「オードエル公爵とミソラも行くのだから、私には侍女だけでいいわ」
「いや、ケイトを連れて行きなさい」
「でも教育に悪い言葉を発するわよ？」

　相手がララシャで効果がないと言っても、さすがに忌々しいロアンスラー公爵邸で、絶対に言ってしまうとソアリスも思っていた。

「ケイトなら大丈夫だ」
「何、その信頼…」