私のバラ色ではない人生

野村にれ

文字の大きさ
上 下
271 / 348

仁義なき対決17

しおりを挟む
「嘘じゃないわ」
「お前は、生まれただけで婚約者になれて、ラッキーだったんだよ。そうでなかったら、婚約者もいなかっただろう」
「そんなこと絶対にありえないわっ!」

 何処までも自己評価の高いララシャに、そろそろ皆、疲れを感じていた。

「私の周りの令息は、上の妹はガリガリで気持ちが悪いと、よく言われていたよ。だから、痩せていると言われたいから、食べないんだと答えていた。今となっては面影もないがな」
「っな!食べていたわ」

 見る影がなくなっても、あの頃のララシャにとって痩せていることが、周りから素敵だと思われていると信じて疑うことはなかった。

 だが、食べても太らないのであって、食べていないというのは屈辱であった。

「私の周りでも、同じように言われておりましたよ」
「やはり、そうですか」

 オードエル公爵までもが、答え始めた。

「貴族令嬢は重いドレスや、危険な目に遭うこともあるから、健康的である方がいいのに、勘違いしているとよく話していました。そして、王太子殿下ははずれの婚約者を引かされて、どうにかならないのかと気を揉んでおりました」

 こういった時、同じ女性の意見よりも、ララシャにとっては男性の内緒話のような意見は聞くことがないので、生々しく突き刺さった。しかも、勝手にあわよくばと思っていた相手ならば、尚刺さる。

「そうですよね、私も申し訳ない気持ちでおりました」

 ララシャは、あまりにショックで固まってしまった。そこでようやく、黙ってお茶を飲んでいたソアリスが、口を開いた。

「領地で得意の王子様が、来るのを待てばいいじゃない。そうでなかったら、お兄様、修道院に行くことになるでしょう?」
「ああ、バート伯爵の元妻と同じところがいいか?」
「嫌よ、修道院なんて…」
「私はどうしてか、愛されてしまうの、でしょう?」

 結婚前にララシャが、誇らしげにソアリスに言っていた言葉であった。

「それとも、愛されることはないと認める?」
「そんなこと、認めないわ」

 ソアリスはララシャが絶対に認めないことで、仕留めることにした。

「どんな場所でも、どんな姿でも、あなたなら愛されるのでしょう?それとも、ララシャには無理かしら?」
「そんなことはないわ」
「ララシャを求めて、男性が訪ねて来たら、領地にいると言ってくれますわよ?ねえ、お兄様?」
「ああ、居場所を教えるさ」
「ほら、何も問題ないじゃない?大人しく去るのも、美しいのではなくて?」
「…」

 黙ったララシャを確認して、ソアリスは終わりにしようと立ち上がった。

「さあ、これでお別れね。お元気で。皆様、お疲れさまでした。お兄様、後はよろしくお願いしますわね」
「はい、承知しました」
「さあ、皆様、帰りましょう」
「「「はい」」」

 オードエル公爵、メディナ、ミソラが返事をし、ケイトもきっちり食べ終えて、ソファから降りて、ソアリスの手を握った。

「おひりゅごはん」
「ええ、帰って昼食を食べましょう」
「あい!」

 ケイトは満面の笑みで答えて、皆の疲れが和らいだ。

「王妃陛下…」

 声を掛けたのは、マルシャであった。

「何かしら?子どもがお腹を空かせているのですが」

 菓子をたらふくとは言わないが、食べていたので、完全に嫌味である。

「分かっております。今日はありがとうございました。ララシャのことは責任を持って、対処いたします」
「ええ、そうしてください」
「本当に、申し訳ございませんでした…私は間違っておりました。あなたが王妃になっていた良かったと、私たちも心から思っております」
「そう?」
「はい…また来ていただけたら、嬉しく思います」

 オードエル公爵とミソラは、あまり関係は良くないと聞いていたが、何とも言えない会話に冷たさを感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「だから結婚は君としただろう?」

イチイ アキラ
恋愛
ホンス伯爵家にはプリシラとリリアラという二人の娘がいた。 黒髪に茶色の瞳の地味なプリシラと、金髪で明るい色彩なリリアラ。両親は妹のリリアラを贔屓していた。 救いは、祖父母伯爵は孫をどちらも愛していたこと。大事にしていた…のに。 プリシラは幼い頃より互いに慕い合うアンドリューと結婚し、ホンス伯爵家を継ぐことになっていた。 それを。 あと一ヶ月後には結婚式を行うことになっていたある夜。 アンドリューの寝台に一糸まとわぬリリアラの姿があった。リリアラは、彼女も慕っていたアンドリューとプリシラが結婚するのが気に入らなかったのだ。自分は格下の子爵家に嫁がねばならないのに、姉は美しいアンドリューと結婚して伯爵家も手に入れるだなんて。 …そうして。リリアラは見事に伯爵家もアンドリューも手に入れた。 けれどアンドリューは改めての初夜の夜に告げる。 「君を愛することはない」 と。 わがまま妹に寝取られた物語ですが、寝取られた男性がそのまま流されないお話。そんなことしたら幸せになれるはずがないお話。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

婚約者の断罪

玉響
恋愛
ミリアリア・ビバーナム伯爵令嬢には、最愛の人がいる。婚約者である、バイロン・ゼフィランサス侯爵令息だ。 見目麗しく、令嬢たちからの人気も高いバイロンはとても優しく、ミリアリアは幸せな日々を送っていた。 しかし、バイロンが別の令嬢と密会しているとの噂を耳にする。 親友のセシリア・モナルダ伯爵夫人に相談すると、気の強いセシリアは浮気現場を抑えて、懲らしめようと画策を始めるが………。

悲劇の令嬢を救いたい、ですか。忠告はしましたので、あとはお好きにどうぞ。

ふまさ
恋愛
「──馬鹿馬鹿しい。何だ、この調査報告書は」  ぱさっ。  伯爵令息であるパーシーは、テーブルに三枚に束ねられた紙をほうった。向かい側に座る伯爵令嬢のカーラは、静かに口を開いた。 「きちんと目は通してもらえましたか?」 「むろんだ。そのうえで、もう一度言わせてもらうよ。馬鹿馬鹿しい、とね。そもそもどうして、きみは探偵なんか雇ってまで、こんなことをしたんだ?」  ざわざわ。ざわざわ。  王都内でも評判のカフェ。昼時のいまは、客で溢れかえっている。 「──女のカン、というやつでしょうか」 「何だ、それは。素直に言ったら少しは可愛げがあるのに」 「素直、とは」 「婚約者のぼくに、きみだけを見てほしいから、こんなことをしました、とかね」  カーラは一つため息をつき、確認するようにもう一度訊ねた。 「きちんとその調査報告書に目を通されたうえで、あなたはわたしの言っていることを馬鹿馬鹿しいと、信じないというのですね?」 「き、きみを馬鹿馬鹿しいとは言ってないし、きみを信じていないわけじゃない。でも、これは……」  カーラは「わかりました」と、調査報告書を手に取り、カバンにしまった。 「それではどうぞ、お好きになさいませ」

(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏
恋愛
 私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。  女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?  美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。

川嶋マサヒロ
恋愛
「僕たちの婚約を破棄しよう」 愛しき婚約者は無情にも、予測していた言葉を口にした。 伯爵令嬢のバシュラール・ディアーヌは婚約破棄を宣告されてしまう。 「あの女のせいです」 兄は怒り――。 「それほどの話であったのか……」 ――父は呆れた。 そして始まる貴族同士の駆け引き。 「ディアーヌの執務室だけど、引き払うように通達を出してくれ。彼女も今は、身の置き所がないだろうしね」 「我が家との取引を中止する? いつでも再開できるように、受け入れ体勢は維持するように」 「決闘か……、子供のころ以来だよ。ワクワクするなあ」 令嬢ディアーヌは、残酷な現実を覆せるのか?

なにひとつ、まちがっていない。

いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。 それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。 ――なにもかもを間違えた。 そう後悔する自分の将来の姿が。 Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの? A 作者もそこまで考えていません。  どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。

【完結】愛すればこそ奪う

つくも茄子
恋愛
侯爵家の次男アーサーが結婚寸前で駆け落ちした。 相手は、侯爵家の上級メイドであり、男爵令嬢であるアンヌだった。二人は幼馴染の初恋同士であり、秘密の恋人でもあった。家のために、成り上がりの平凡な令嬢との結婚を余儀なくされたアーサーであったが、愛する気持ちに嘘はつかない!と全てを捨てての愛の逃避行。 たどり着いた先は辺境の田舎町。 そこで平民として穏やかに愛する人と夫婦として暮らしていた。 数年前に娘のエミリーも生まれ、幸せに満ちていた。 そんなある日、王都の大学から連絡がくる。 アーサーの論文が認められ、講師として大学に招かれることになった。 数年ぶりに王都に戻るアーサー達一行。 王都の暮らしに落ち着いてきた頃に、アーサーに襲いかかった暴行事件! 通り魔の無差別事件として処理された。 だが、アーサーには何かかが引っかかる。 後日、犯人の名前を聞いたアーサーは、驚愕した! 自分を襲ったのが妻の妹! そこから明らかになる、駆け落ち後の悲劇の数々。 愛し合う夫婦に、捨てたはずの過去が襲いかかってきた。 彼らは一体どのような決断をするのか!!! 一方、『傷物令嬢』となった子爵令嬢のヴィクトリアは美しく優しい夫の間に二人の子供にも恵まれ、幸せの絶頂にいた。 「小説家になろう」「カクヨム」にも公開中。

処理中です...