私のバラ色ではない人生

野村にれ

文字の大きさ
上 下
254 / 360

仁義なき対決の始まり

しおりを挟む
 サイラスは意思も伝えるためにソアリスに、直接届けることにした。

「ララシャからの手紙です」
「まあ、受け取っていいの?」

 ソアリスはいずれララシャが何か起こすとは思っていたが、さすがに兄が直々に持ってくるとは思わなかった。

「はい。王妃陛下に渡して欲しいと本人が言い、両親にも私の家族にも話してあります。皆、もういいだろうということだそうです」
「短い生活だったわね」

 ソアリスに手紙を渡した時点で、ララシャはロアンスラー公爵邸には居ることは出来なくなる。

「どうして欲しいと思っているの?」
「王妃陛下の思うようにしたらいいと思っています」
「そう…修道院も迷惑でしょうからね…さて、どうするか。入れるにしても、心を完全に折ってしまわないといけませんね。お兄様は何が書いてあるか知っているの?」
「いいえ、感謝するなどとは言っておりましたが」

 その言葉に、ソアリスは眉間にしわを寄せた。

「感謝したことは、一度もないのだけど」
「私もない、ただ碌なことが書いていないことだけは分かる」
「違いないわね」

 お世辞にも仲がいいとは言えない兄と妹ではあったが、自己肯定感や自尊心が高いララシャへの評価だけは同じであった。

 ソアリスは、ララシャの手紙を開いて読み始めた。侍女や護衛は言葉を発することはなかったが、一体何が書いてあるのだろうかと緊張感が走った。

 すぐに答えは出た、ソアリスの表情が怒りであったからである。

 ということは、ソアリス自身のことではない。ソアリス自身のことであれば、おそらく呆れとなるはずである。

「不愉快なことを書いてやがるな…あと、字が汚ぇな!」

 ララシャは幼い少女が可愛さを重視したような、丸みを帯びた字で、読みにくい上に、四十代の女性が書いたとは思えないものだった。

「メディナ、陛下に時間が出来たら、話をしたいと伝えて来てくれる?」
「承知しました」
「ポーリア、ユリウスとルルエにも同じように伝えて、ミソラがいたら、一緒に来るように伝えて来てくれる?」
「承知しました」

 メディナとポーリアは、そそくさと出て行った。

「何が書いてあったのでしょうか」

 持って来たのはサイラスで、正直知りたくもないことではあるが、今後も対応のためにも何が書いてあったのかは、聞いておかなければならない。

「オードエル公爵の娘、ミーチュアをユリウスの側妃にしなさいだと」
「はあ!?あっ、すまない」

 サイラスは思わず大きな声を出してしまい、すぐさま我に返った。

「結婚されたはずなのよね」
「この前、会った際だろうな…」

 勿論、サイラスはララシャの行動は、ソアリスに念のために報告してあるので、ソアリスもララシャがファーリンに会ったことは知っている。

「オードエル公爵に、ミクシワ伯爵も呼ばなくてはならないわね。ララシャの周りの夫人を私が屍にしているみたいじゃない…」

 ララシャの友人ということで良い印象は持っていなかったことはあるが、別に潰していっているわけではない。

「自業自得ではないか」
「そうだけど、皆に話を付けたら、ロアンスラー公爵邸に行くわ。いいかしら?」
「い、いらっしゃるのですか?」

 ソアリスは嫁いでから、一度もロアンスラー公爵邸には帰っていない。

「ええ、何十年振りかしらね」
「承知しました」

 決まり次第、連絡をすると伝えて、サイラスは帰り、ララシャにも手紙はきちんと渡したと伝えた。

「喜んでいたでしょう?いい姉を持ったことを感謝していた?」
「…」
「私も王家に貢献が出来て嬉しいわ」
「いずれ、連絡があるだろう」
「ご褒美を貰っていいわね、どうしようかしら?ドレスも良いわね、王家の御用達のところで作って貰おうかしら…ふふっ、楽しみね」

 絶望に足を踏み入れていることに気付きもしない、妹に溜息しか出なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

私がもらっても構わないのだろう?

Ruhuna
恋愛
捨てたのなら、私がもらっても構わないのだろう? 6話完結予定

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

学生のうちは自由恋愛を楽しもうと彼は言った

mios
恋愛
学園を卒業したらすぐに、私は婚約者と結婚することになる。 学生の間にすることはたくさんありますのに、あろうことか、自由恋愛を楽しみたい? 良いですわ。学生のうち、と仰らなくても、今後ずっと自由にして下さって良いのですわよ。 9話で完結

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!

しずもり
恋愛
 ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。 お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?  突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。 そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。 よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。 *なんちゃって異世界モノの緩い設定です。 *登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。 *ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。

【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ

リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。 先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。 エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹? 「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」 はて、そこでヤスミーンは思案する。 何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。 また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。 最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。 するとある変化が……。 ゆるふわ設定ざまああり?です。

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

処理中です...