私のバラ色ではない人生

野村にれ

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お祝い1

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 王宮ではソアリスが、ポーリアからファシリアの処遇を聞いていた。

「アッファファは大人しく修道院にいるのね」
「はい、そのようです」

 ファシリアは、バート伯爵が没落していたら、一生恨み、復讐も考えたかもしれないという言葉に、ようやく自分の行ったことの愚かさに戦慄した。

 先祖代々、受け継いできた家門を失うことになるなんて、考えたこともなかった。なぜそんな風に思えたのかと、考えるほどだった。

 好きな人に嫌われることはあっても、狂いの血のおかげか、へこたれることはなかったが、人に恨まれることのなかったファシリアには、怖いことであった。

 根底に蔑んだり、妬ましさを持つことはあっても、人の人生を変えてしまうことは想定しておらず、眠れなくなるほどであった。

「娘は母親が追い出されたことに、危機感を感じたようですよ。とはいえ、良い縁談は望めないと思いますが」
「スチュアートに不愉快な思いをさせたツケよ!そもそも、結婚したいなら、気付くのが遅すぎるわよね」

 既に二十歳で、結婚する気のある周りの令嬢は結婚している。スチュアートと結婚することが出来ていたら、実を結んだと言えるだろうが、不可能になった今、結婚が出来ないか、どこか貰ってくれるものがいればという状況である。

 伯爵令嬢であることから、相手が限られるミリンティーの侯爵令嬢よりかは、まだ希望はあるというところだろうか。

「はい、ようやく婚約が出来ます」
「リファラは、父親に似た人を選ぶのね」
「え?」
「見た目はちょっと足りないけど、性格は似ていると思うわ」

 足りないというのは身長・体重、骨格の話である。

「そう言われると、言葉は少ないですが、照れ屋だったり、動じないところは似ていますね」
「でしょう?見る目があるわぁ」

 ソアリスはリファラに、うんうんと満足そうである。無事に婚約が結ばれ、ルーファが王女であるアリルと結婚したために、バーセム公爵家は慎重に相手を吟味していたので、リファラの婚約は遅いくらいであった。

 お忍びでバーセム公爵邸に、お祝いに向かおうとしているところを運悪く、ケイトに見付かってしまった。

 ケイトはしっかり歩けるようになったので、ソアリスの執務室で過ごすこともあるが、自身の部屋や散歩に行ったりと、世話をするメイドと護衛が付くようになった。もうしばらくすれば、家庭教師も付くようになる。

「おかあしゃま、どこにいくの?」
「お祝いに行くだけよ」
「けいともいく」

 ケイトは乳母と護衛とお散歩中であった。二人は疲れた顔をしており、休ませてあげるべきだろうとは思った。

「おやつはありませんよ」
「きっとあるのよ」
「ありません。おねだりしないのなら連れて行ってもいいわ」
「わかった」

 ケイトのわかったは当てにならないのだが、乳母と護衛に今日はもう帰っていいと伝えると、ありがとうございますと、神様でも見るような顔で見られ、とんでもなく申し訳ない気持ちになった。

「ケイト、何していたの?メイドも護衛も疲れ切った顔をしていたわよ」
「はしっただけよ」

 ソアリスはその言葉にきっと、振り回されていながらも、怪我をさせてはいけないという気持ちもあるので、疲れ切っていたのだろうと思った。

「リズのところに行くのだけど、おやつをねだってはいけませんよ?可愛い顔も禁止です」
「ソアリス様、可愛い顔は難しいかと…」

 付き添っているのは、キャロラインである。

「何か臭いものでも、嗅がせて、渋い顔をさせましょうか」

 滅茶苦茶なことを言っているが、ソアリスは至って本気である。

「それも、それで可愛いとおっしゃられそうではありませんか…」
「リズは弱いのよね…カイルスにも激甘だったもの」

 カイルスはおやつを強請ったりすることはなかったので良かったが、ソアリスは微笑んでいるケイトが悪巧みを考えているようにしか見えない。
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