私のバラ色ではない人生

悲劇のヒロイン再び１

　ジルアス伯爵家の夜会が迫り、家族総出であるために、マルシャのメイドを借りることは出来ない。そのくらいのことはララシャにも分かった。

　メイドが足りないから、連れて行けないと言われたら、困る。

　誰も何も言ってこないことから、連れて行って貰えないのでは？と不安になったが、考えないようにしていた。きっと出席させてもらえるはずだというよりは、絶対出席するという思いに変えた。

　それはファシリアの夜会よりも遥かに豪華で、そんな場所でまた注目されたい。そのためにはドレスは手持ちの物だとしても、美しく着飾らなければならない。

　とは言っても、頼れそうな相手はローティー、ファシリアしかいない。だが、親族であるジルアス伯爵邸に行くのに、メイドを借りたいなどと言うことは出来ない。

　ファシリアに何を言われるか分からないと考え、既に離縁されているのだが、二人には頼めないと判断したが、別の友人に手紙を出すにも、結局はなぜなのかということになる。

　しかもサイラスに許可を得ないといけない上に、誰かにこっそり頼もうにも、サイラスに伝えますと言われてしまう。金品を掴ませて、買収しようにも、お金も、余計な宝飾品も持っていない。

　そもそもロアンスラー公爵邸に、ララシャの味方になる者はいない。

　結局、ララシャは不本意ではあるが、下級貴族が支度をして貰えるサービスを利用することにした。前に出かけた際に、見掛けていたのである。

　誰にも言わなかったのは、やはりお前が出席できるわけないだろうと、言われたくなかったからである。言われなければ、参加が出来ると思っていたと言える。

「本当なら、どんなドレスがいいか、どんな宝飾品がいいか、どんな髪型で、どんなメイクがいいか聞いてくるべきだけど、絶対に参加するんだから！」

　最初は裕福な伯爵家なら余分なメイドもいるだろう、公爵家を伯爵家が拒否することは出来ないだろうから、押し掛けようかとも思ったが、馬車で伯爵家に行ってと言うのは危険だと感じた。

　だが、行ってしまえば、叔母にも情に訴えて、お願いすれば大丈夫だろうと、馬車の手配だけを行うことにした。

　サイラスは家にばかりいて、出掛けられらないのは辛いとララシャに嘆かれ、面倒なので、話を付けてある店で、消耗品だけは購入することを許可している。

　それ以外にロアンスラー公爵の名で購入すれば、働かせると言われているので、破っていない。

　そして、当日。ララシャは消耗品を購入して、友人とお茶をして、帰りは送って貰うと言い、御者を返した。御者はパーティーの方の担当ではなかったこと、ドレスを持っているのはおかしいと思ったが、売りでもするのかと思って、邸に戻った。御者は報告を行い、パーティーもあったので、まあいいかと思った。

　ララシャはドレスは買えないが、全くお金を持っていないわけではなかったので、サービス利用分だけは支払うことは出来る。

　そして、その後に店から馬車を呼んでもらうことにした。

　店員もララシャが横柄ではあったが、客なので、要望通りに支度を行った。だが、ララシャが去った後は、文句の嵐となった。

「疲れた…何なの、太ったおばさん」
「高位貴族って言うなら、自分の邸でやって貰えばいいじゃない」

　ララシャはロアンスラー公爵の名前は出さなかったが、自分は高位貴族だと言って、偉そうにしていた。だが、店員にとってはそれが嘘か本当か分からず、ただの太ったおばさんでしかない。

「細くしなさい、でもコルセットを締めるなって、無理に決まっているじゃない」
「薄化粧に見えるように、でも毛穴を隠して陶器のようにって、無理に決まっているじゃない」
「その割には濃い口紅を選んだわよね」
「お勧めしないと言ったんだけど」
「本人がいいと言ったのだから良いわよ、忘れましょう」

　ララシャはオレンジ色のパステルカラーのドレスに、濃い赤い口紅を塗って、颯爽とジルアス伯爵家に到着した。