私のバラ色ではない人生

野村にれ

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お忍び

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 エクルが嫁ぐまでに、喋り始めるかと思っていたケイトだったが、一歳になっても、まだ言葉と言えるものは喋っていない。

 ミオトは『おかあ』『おとう』と言い始め、今では『おとうちゃま』『おかあちゃま』と、話せる言葉も日に日に増えている。エマリーも「かあ」「とお」と、赤ちゃんらしく、喋り始めていた。

 両親たちはただただ、成長に感動していた。

 ケイトは普通なら言葉が遅いのねというところだが、ソアリスと同じなら言葉を溜め込んでいると聞いていたので、そうではないと皆も思っていた。

 お忍びで、グレイ殿下がミフルに会いに来た。

 ソアリスもララシャがきっかけとなっているので、改めて謝罪を行った。

「ご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした」
「王妃様が謝ることは、何一つありません」

 心からそう思っており、エスザール王国ではソアリスは生まれた場所を誤ったのだと認識されており、誰もソアリスに蟠りを感じてはいない。

「不愉快な思いをさせたことに変わりはありません」
「では、受け取らせていただきます」
「ありがとうございます」
「可愛い末っ子様に、会わせては貰えませんか」

 グレイはまだ一度もケイトに会っておらず、ソアリスも謝罪しようと同席したので、ケイトは連れて来ていなかった。

「破天荒な娘でして…」
「はい、いつもミフルの手紙に笑わせて貰っています」
「お母様、大丈夫よ。グレイ様も分かってらっしゃるから」
「えええ…頬や首や、肩や、顎にくれぐれも注意してくださいね。護衛の方も、目に余るようなら、とっ捕まえてくださいませ」

 グレイの護衛は目を見開き、返事をしていいものか困惑していた。

 ソアリスはケイトを呼びに出て行き、ミフルとグレイは待つことになった。

「まだ言葉は喋らないのだよな?」
「でもこちらが言うことは、おそらく分かっている様子ですから」
「楽しみだなぁ」

 そして、現れたソアリスとケイトだったが、肩車なのか?という、定番となっているソアリスの肩に乗り、顎を持っているスタイルで登場した。

 ソアリスは止めさせようかとも思ったが、最初に見て置けば、どうなるか想定が出来るだろうと、そのままで突撃することになった。

「ばぁ~」
「ケイト、この方はミフルお姉様の婚約者で、エスザール王国のグレイ・ファルリット王子殿下よ。失礼がないようにね」
「うぃ~」

 とんでもないご様子ではあるが、グレイは立ち上がってソアリスの側に?ケイトに向かった。

「ケイト王女殿下、グレイと申します」
「うぉ~」
「ミフルに似ているね、だがソアリス様にも似ている。本当に可愛いなぁ」

 グレイが笑顔を向けると、ケイトもにこっと笑った。

「ミフルの言う通りだね、言っていることが分かっているよ」
「そうでしょう?」
「ケイト、降りて、ご挨拶なさい」

 ソアリスが絡まっていたケイトを降ろし、ぬいぐるみを渡した。

「あっ、そのぬいぐるみは…」
「持ち方が独特で、申し訳ありません」

 ケイトはグレイから貰った犬のぬいぐるみの首を絞めるような形で、抱えていた。

「それでも大事にしているのよね?」
「えい」
「気に入ってくれ良かった。実はそのシリーズの新しい物が出てね。プレゼントに持って来たんだ」

 どうかなと渡したのは黒い犬で、今持っているのは茶色であった。ミオスとエマリーにも、別のぬいぐるみを持って来ていた。

「きゃ」
「ありがとうございます」

 ケイトは両腕に、犬を首絞めスタイルで抱えており、嬉しそうである。

「喜んでくれて良かった、食べ物がいいかとも思ったのですが、ミフルから止められまして」
「ええ、申し訳ありません」

 ケイトはミフルに、一つ貸してあげて、二人で遊んでいる。そこへメイドが何か摘まめるような物をと、運んで来た。

「ぺっ、ぺっ」

 ケイトが急に声を上げ、アンセムに言っていた、あの言葉だと思った。
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