私のバラ色ではない人生

野村にれ

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エクルの結婚

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 エクル第二王女とブルックス・テイラーの結婚式が行われた。

 アンセムは時折、寂しそうにしていたが、前国王陛下夫妻から孫までと、王家が一堂に会する圧巻の勢揃いであった。

 ただケイトだけはフラワーガールという大役があった。ミオスもエマリーも一緒にと思ったが、ルルエとエクシアーヌがもし失敗したらと不安に駆られ、叔母であり、今のところ一番地位は高いので、務めるということになった。

 ユリウス、マイノス、アリルの時はフラワーボーイはカイルスが務めたが、年齢的にも卒業することになった。

 だが、ケイトは歩けるようになったとはいえ、まだ覚束ない。大事な結婚式を託していいのかと思ったが、なぜか本人はやる気満々で、指導役はカイルスが行い、大物だから大丈夫という絶対なる自信を持っていた。

 花びらを撒きながら、花婿と花嫁を先導するケイトは、足取りこそゆっくりではあったが、とびきりの笑顔で、花びらを撒き、まるで主役のようであった。

 方々から可愛い~という声が聞こえ、その中には野太い声も響き渡っていた。誰かと思い、ソアリスが辺りを探すと、まさかのテイラー侯爵の従者であるベストオブ・ボブこと、ボブデランであった。

 エクルもブルックスも緊張していたが、ケイトの姿に思わず笑みが零れた。

 滞りなく務めたケイトは、手を広げて、しっかりとお菓子を貰って、席に座った。カイルスがお菓子が貰えるよと吹き込んでいたので、やる気だったのである。

「お菓子は後で食べるのよ」
「う~」
「駄目よ、持っているのは構わないから」
「だ~」

 お菓子を抱えたエクルは、嬉しそうに、結婚式の間も大人しくしており、ついにエクルはテイラー侯爵家に嫁いだ。

 アリルは妊娠中ではあったが、酷い悪阻は過ぎたところで、出席することが出来た。何かあってもいいようにルーファも、バーセム公爵夫妻も側に付いている。

 そして、結婚式が無事終わると、アリルはエクルの元へ向かった。

「エクル~綺麗だったわよ~」
「お姉様、大丈夫なの?」
「大丈夫!エクルの花嫁姿を見れなかったら、一生後悔するところだったわ」
「ありがとう、お姉様も順調で良かったわ」
「お母様がバケモノだと実感しているところよ」

 なぜ母は妊娠中に、辛いだと何だの言っていたが、公務もこなしており、あんなに元気だったのかが、妊娠した今、心から理解が出来ないと、リズに毎日言っているほどであった。

「ふふふふふ、でも今朝、辛いことがあったら、いつでも帰って来たらいい、逃げて来てもいい、私が蹴散らしてやるからって、お母様らしいような、そうではないような、嬉しかったわ」

 教会に行く前にソアリスに、改まってではなく、さらっと言われて、エクルは泣きそうになった。

「え?そんなこと、言われたの?」
「お姉様…言われてない?」

 てっきりアリルも言われていると思って話していた。

「言われてない…私は帰って来るなってこと?」
「待って、多分リズ様がいるからじゃない?お姉様、もし何かあって王宮に逃げ込むとしても、バーセム公爵家の誰かに言うでしょう?」
「そ、そうね…」

 何もないとは言わないが、ルーファのことならリズ夫人に話してしまうだろう。

「でも言って欲しかったわ」
「ふふっ、ごめんなさいね」
「んもう!」
「私も入れてよ~!」

 エクルとアリルの楽しそうな様子に、ミフルもやって来た。

「ミフルの時には何て言うのかしら?」
「何の話?」
「お母様はバケモノだって話よ、悪阻があんなに辛いなんて知らなかったわ」

 ミフルはまだ知らない方がいい話だと、アリルもエクルも口を噤んだ。

「トマトばかり食べていたんでしょう?」
「そうなの、一生分食べたかもしれないわ。お母様もトマト食べていた癖に、名前をトマトにしたらどうかって言うのよ、レモン王子の再来よ」
「トマトくん?トマトちゃん?」

 三王女の笑い合う姿をアンセムが微笑ましく見つめていたが、ケイトにお菓子はまだ食べてはいけないのかと言わんばかりに、脛を蹴られていた。
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