私のバラ色ではない人生

未婚者のパーティー２

「どうなさったの？」

　鈍感力を発揮していたミリンティーは、リーリアが思わず声を出し、絶句した理由が分からなかった。

「い、いえ…」
「私、初めて来たのだけど、こういった場所って、令息から声を掛けて来るものじゃないのかしら？」
「公爵家の方もいらっしゃいませんから、オイエン侯爵令嬢から声を掛けなければ、お相手はお話出来ませんよ。侯爵令嬢なのですから」

　誰も声を掛けたくないと思われていることも否定できないリーリアだったが、さすがに言えないので、常識的な話をすることにした。

　その言葉にミリンティーは、この場で一番高貴な立場で、特別な存在なのだと勘違いして、驕った気持ちになっていた。

　もし、どうしてもミリンティーに話し掛けたいのならば、マナー違反だが、謝罪の上で声を掛けるしかない。

　だが、わざわざミリンティーに声を掛ける者は皆無であった。

　あとはファビラミアのように、マナー違反して、話し掛ける者しかいない。

「ねえ、私の代わりにあなたが声を掛けて来て貰えない？」

　リーリアは親しくもない相手に、なぜそのようなことをしなければならないのかと、思わず声を上げそうになったが、冷静に対応することにした。

「お相手を探しに来られたのではないのですか？」
「っな、お父様に言われて仕方なく来たのよ！」

　馬鹿にされた気分になって、ミリンティーは思わずカッとなった。

「皆様、そうだと思いますよ。私も義妹の付き添いですので、離れられないのです」

　付き添いは、不慣れな令息や令嬢の様子を見守るために付いて来ている。それを２１歳のミリンティーのために、動くことは出来ない。

「そう、もういいわ！」

　去って行ったミリンティーに、リーリアは卒業してから約３年となるが、あまりに変わっていない姿に、ただただ驚いた。

　結局、ミリンティーは何人かの令息と目が合って、令息も相手は侯爵令嬢ということもあり、無視するのは悪いと思って、お辞儀をされた程度で終わった。

　世代が違うので、分からない顔ばかりだったのもあったが、高位貴族ではないということだろうと思い、自分の立場の分かっていないミリンティーは、やっぱり私にこのような場所は似合わないわと帰って行った。

「どうだったぁ？」

　夜会ではないので、帰ると母・ローティーが期待した様子で待ち構えていた。

　初めて侯爵令嬢であるミリンティーが参加するとなれば、もしかしたら見初められるのではないかと思っていたからである。

「私には向いていないわ」
「良い方がいなかったのぉ？」
「いなかったわ」
「そうなのぉ…残念だったわね、また次があるわよぉ」

　また行かないといけないかと思うと、ミリンティーは憂鬱な気持ちになった。そして、帰宅した父・ブレオンにも呼ばれて、聞かれることになった。

「どうだったんだ？」
「良い方がいませんでした」
「そうか」
「付き添いというものが、あると聞いたのですが」

　また行くことになるならば、せめて付き添いが欲しいと思った。

「ああ、マイオンは引き受けたがらないだろう」
「マイオンだなんて」

　弟を連れて参加するなんて恥ずかしい。付き合いはないが、親戚か、知り合いにでも頼んでくれればいいじゃないか。

「せめて女性がいいです。オット、いえ、エルムート伯爵家に嫁いだ方が同級生で、義妹の付き添いをされていましたわ」
「エルムート…そうか、偶然だな」
「お知り合いなのですか？」
「ああ、エルムート伯爵とは友人だ」
「じゃあ、どうして嫡男を、私の婚約者にしてくださらなかったの！」

　その言葉には伯爵令嬢のリーリアなんかじゃなく、侯爵令嬢である私が結婚したのにという言葉が、隠されていた。