私のバラ色ではない人生

野村にれ

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 ソアリスはゆっくりとソファから立ち上がり、ベビーベットの側に行った。

「皆でたくさん呼んであげてね。私はこの子がきっと一番、呼んであげられないと思うから」
「お母様…」

 そうかもしれないが、急にしんみりさせて来るとは思わなかった。

「アリルとエクルとミフルは自分の子どもだと思って、ねっ?ユリウスとマイノスも、子どもが増えたと思って、ねっ?ルルエとエクシアーヌも、あれ、双子だったかなとでも思って、ねっ?」
「世話を押し付けようとしているのね?」

 意図に気が付いたきょうだいたちは、ソアリスをじっとりと見つめた。

「まあ、人聞きの悪い!」
「絶対そうじゃない!」
「だって、私、王妃なのよ?それでばあさまでもあるのよ?忙しいじゃない?」
「いやいやいや」

 カイルスの時も押し付ける気満々だったが、カイルスは予想を超えて、ソアリスに執着していたので、押し付けるという点では失敗している。

「カイルスはたった一人の妹だから、優しくてあげてね?」
「お母様、やっぱり私より妹の方が可愛い?」
「可愛いのはユリウスもマイノスもカイルスも、アリルもエクルもミフルも同じよ。ユリウスとマイノスが禿げあがって、肥え太っても、アリルもエクルもミフルがシミだらけで、樽の様になってしまったとしても、お母様には可愛いの」

 貶されているのか、母の大きな愛なのか、5人は複雑な表情を浮かべた。

 実はケイトに対面したカイルスは、皆が可愛いという中で、孫の時とは違って、複雑な気持ちになっていた。

 ソアリスのお腹に弟か妹がいることは理解していた。お兄ちゃんも少し大きくなった気がして、嬉しかったのも本当だった。

 でもケイトを見たら私より小さいから、お母様の優しい表情を見ていたら、奪われてしまうのではないかという思いが、ようやく襲って来てしまったのだ。

「同じ?」
「そう同じ。だからケイトも可愛い、カイルスも可愛い。努力でどうにもならないことを、比べられるのって嫌でしょう?背が高いとか低いとか」
「うん」
「だから、皆同じなの。ただ、ケイトはカイルスやお兄様やお姉様と違って、まだ出来ないことが多いの。ご飯もお風呂も、お手洗いも、お服も着れないの。だから手伝ってあげなきゃならないの、それは特別だからではなくて、助けが必要だからなの、分かる?」

 ソアリスがきちんとした母親に見える瞬間であった。

「うん、私も最初はフォークとナイフをうまく使えませんでした」
「そうね。カイルスはユリウスが助けて欲しいって言ったら、助けてあげたいと思うでしょう?」
「はい」
「それと同じで、皆でケイトを助けてあげるの。どう?」

 ソアリスにとって0歳児も、今年23歳になる第一子のユリウスも同等だと言っているのだ。どこまでもソアリスのブレないところである。

「うん、それならいいよ」
「ありがとう。じゃあ、カイルスももう少ししたら、お世話してあげてね」
「はい!」

 カイルスはソアリスの話をソアリスが言うからではなく、ちゃんと理解した上で、納得してくれた。気持ちはままならないかもしれないが、ソアリスの言葉をカイルスが忘れることはない。

「後、首が座ったら恒例の連結もやりましょうね!王妃命令です!」
「げ」「うわ」

 声を上げたのは勿論、ユリウスとマイノスである。

 その妻・ルルエとエクシアーヌは事情を知らないので、二人が説明をすると、咳払いと共に笑いをかみ殺すしかなかった。

 20歳を過ぎて、子どもも持っている父親だが、ソアリスにとっては可愛い息子には変わりなく、抱く夫と抱かれる夫を是非見てみたいと思った。

 そして、ケイトの名前が発表され、国外にも母子ともに健康な状態で、第四王女が無事誕生したことは発表されていた。
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