私のバラ色ではない人生

野村にれ

文字の大きさ
上 下
142 / 395

しおりを挟む
 ソアリスはゆっくりとソファから立ち上がり、ベビーベットの側に行った。

「皆でたくさん呼んであげてね。私はこの子がきっと一番、呼んであげられないと思うから」
「お母様…」

 そうかもしれないが、急にしんみりさせて来るとは思わなかった。

「アリルとエクルとミフルは自分の子どもだと思って、ねっ?ユリウスとマイノスも、子どもが増えたと思って、ねっ?ルルエとエクシアーヌも、あれ、双子だったかなとでも思って、ねっ?」
「世話を押し付けようとしているのね?」

 意図に気が付いたきょうだいたちは、ソアリスをじっとりと見つめた。

「まあ、人聞きの悪い!」
「絶対そうじゃない!」
「だって、私、王妃なのよ?それでばあさまでもあるのよ?忙しいじゃない?」
「いやいやいや」

 カイルスの時も押し付ける気満々だったが、カイルスは予想を超えて、ソアリスに執着していたので、押し付けるという点では失敗している。

「カイルスはたった一人の妹だから、優しくてあげてね?」
「お母様、やっぱり私より妹の方が可愛い?」
「可愛いのはユリウスもマイノスもカイルスも、アリルもエクルもミフルも同じよ。ユリウスとマイノスが禿げあがって、肥え太っても、アリルもエクルもミフルがシミだらけで、樽の様になってしまったとしても、お母様には可愛いの」

 貶されているのか、母の大きな愛なのか、5人は複雑な表情を浮かべた。

 実はケイトに対面したカイルスは、皆が可愛いという中で、孫の時とは違って、複雑な気持ちになっていた。

 ソアリスのお腹に弟か妹がいることは理解していた。お兄ちゃんも少し大きくなった気がして、嬉しかったのも本当だった。

 でもケイトを見たら私より小さいから、お母様の優しい表情を見ていたら、奪われてしまうのではないかという思いが、ようやく襲って来てしまったのだ。

「同じ?」
「そう同じ。だからケイトも可愛い、カイルスも可愛い。努力でどうにもならないことを、比べられるのって嫌でしょう?背が高いとか低いとか」
「うん」
「だから、皆同じなの。ただ、ケイトはカイルスやお兄様やお姉様と違って、まだ出来ないことが多いの。ご飯もお風呂も、お手洗いも、お服も着れないの。だから手伝ってあげなきゃならないの、それは特別だからではなくて、助けが必要だからなの、分かる?」

 ソアリスがきちんとした母親に見える瞬間であった。

「うん、私も最初はフォークとナイフをうまく使えませんでした」
「そうね。カイルスはユリウスが助けて欲しいって言ったら、助けてあげたいと思うでしょう?」
「はい」
「それと同じで、皆でケイトを助けてあげるの。どう?」

 ソアリスにとって0歳児も、今年23歳になる第一子のユリウスも同等だと言っているのだ。どこまでもソアリスのブレないところである。

「うん、それならいいよ」
「ありがとう。じゃあ、カイルスももう少ししたら、お世話してあげてね」
「はい!」

 カイルスはソアリスの話をソアリスが言うからではなく、ちゃんと理解した上で、納得してくれた。気持ちはままならないかもしれないが、ソアリスの言葉をカイルスが忘れることはない。

「後、首が座ったら恒例の連結もやりましょうね!王妃命令です!」
「げ」「うわ」

 声を上げたのは勿論、ユリウスとマイノスである。

 その妻・ルルエとエクシアーヌは事情を知らないので、二人が説明をすると、咳払いと共に笑いをかみ殺すしかなかった。

 20歳を過ぎて、子どもも持っている父親だが、ソアリスにとっては可愛い息子には変わりなく、抱く夫と抱かれる夫を是非見てみたいと思った。

 そして、ケイトの名前が発表され、国外にも母子ともに健康な状態で、第四王女が無事誕生したことは発表されていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木あかり
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

さげわたし

凛江
恋愛
サラトガ領主セドリックはランドル王国の英雄。 今回の戦でも国を守ったセドリックに、ランドル国王は褒章として自分の養女であるアメリア王女を贈る。 だが彼女には悪い噂がつきまとっていた。 実は養女とは名ばかりで、アメリア王女はランドル王の秘密の恋人なのではないかと。 そしてアメリアに飽きた王が、セドリックに下げ渡したのではないかと。 ※こちらも不定期更新です。 連載中の作品「お転婆令嬢」は更新が滞っていて申し訳ないです(>_<)。

相手不在で進んでいく婚約解消物語

キムラましゅろう
恋愛
自分の目で確かめるなんて言わなければよかった。 噂が真実かなんて、そんなこと他の誰かに確認して貰えばよかった。 今、わたしの目の前にある光景が、それが単なる噂では無かったと物語る……。 王都で近衛騎士として働く婚約者に恋人が出来たという噂を確かめるべく単身王都へ乗り込んだリリーが見たものは、婚約者のグレインが恋人と噂される女性の肩を抱いて歩く姿だった……。 噂が真実と確信したリリーは領地に戻り、居候先の家族を巻き込んで婚約解消へと向けて動き出す。   婚約者は遠く離れている為に不在だけど……☆ これは婚約者の心変わりを知った直後から、幸せになれる道を模索して突き進むリリーの数日間の物語である。 果たしてリリーは幸せになれるのか。 5〜7話くらいで完結を予定しているど短編です。 完全ご都合主義、完全ノーリアリティでラストまで作者も突き進みます。 作中に現代的な言葉が出て来ても気にしてはいけません。 全て大らかな心で受け止めて下さい。 小説家になろうサンでも投稿します。 R15は念のため……。

【完結】王太子に婚約破棄され、父親に修道院行きを命じられた公爵令嬢、もふもふ聖獣に溺愛される〜王太子が謝罪したいと思ったときには手遅れでした

まほりろ
恋愛
【完結済み】 公爵令嬢のアリーゼ・バイスは一学年の終わりの進級パーティーで、六年間婚約していた王太子から婚約破棄される。 壇上に立つ王太子の腕の中には桃色の髪と瞳の|庇護《ひご》欲をそそる愛らしい少女、男爵令嬢のレニ・ミュルべがいた。 アリーゼは男爵令嬢をいじめた|冤罪《えんざい》を着せられ、男爵令嬢の取り巻きの令息たちにののしられ、卵やジュースを投げつけられ、屈辱を味わいながらパーティー会場をあとにした。 家に帰ったアリーゼは父親から、貴族社会に向いてないと言われ修道院行きを命じられる。 修道院には人懐っこい仔猫がいて……アリーゼは仔猫の愛らしさにメロメロになる。 しかし仔猫の正体は聖獣で……。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 ・ざまぁ有り(死ネタ有り)・ざまぁ回には「ざまぁ」と明記します。 ・婚約破棄、アホ王子、モフモフ、猫耳、聖獣、溺愛。 2021/11/27HOTランキング3位、28日HOTランキング2位に入りました! 読んで下さった皆様、ありがとうございます! 誤字報告ありがとうございます! 大変助かっております!! アルファポリスに先行投稿しています。他サイトにもアップしています。

傷物にされた私は幸せを掴む

コトミ
恋愛
エミリア・フィナリーは子爵家の二人姉妹の姉で、妹のために我慢していた。両親は真面目でおとなしいエミリアよりも、明るくて可愛い双子の妹である次女のミアを溺愛していた。そんな中でもエミリアは長女のために子爵家の婿取りをしなくてはいけなかったために、同じく子爵家の次男との婚約が決まっていた。その子爵家の次男はルイと言い、エミリアにはとても優しくしていた。顔も良くて、エミリアは少し自慢に思っていた。エミリアが十七になり、結婚も近くなってきた冬の日に事件が起き、大きな傷を負う事になる。 (ここまで読んでいただきありがとうございます。妹ざまあ、展開です。本編も読んでいただけると嬉しいです)

婚約者からの断罪が終わったので北の修道院へバカンスに行ってきます。

四折 柊
恋愛
 嫌いな婚約者から冤罪により婚約破棄をされたアンジェリカは北の修道院に送られることになった。その企みは知っていたのでそれを利用することにした。先に手を打って快適に過ごせるように修道院を改修して準備万端にしてバカンスに行く。そこで大好きな人と楽しく過ごすことにしたアンジェリカのお話。 (断罪シーンはありません)前編:アンジェリカ(公爵令嬢) 後編:ラフェエル(従者)となります。※8/6に後日談2を追加しました。

処理中です...