私のバラ色ではない人生

野村にれ

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驚愕1

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「43歳ソアリスばあさんが、妊娠したの」
「はああああ!?」

 アンセムの驚愕の声が響き渡った。

 オーランもクイオは声にならず、目を見開き、ソアリスを見ている。まるでバケモノを見る目である。

「そんな大きな声が出せたのね…オーラン、クイオ。ある意味、悪い口のバケモノではありますが、そんな目で見ないで頂戴」
「「失礼いたしました」」

 二人は深く頭を下げて、謝罪している。

「じいさんにはカイルスの時よりも、馬車馬のように働いて貰うわよ」
「ほ、本当なのか?」
「そうらしいわ…」

 カイルスが生まれて、約10年。夫婦の営みがなかったわけではないが、ソアリスに怒られるので、アンセムは子どもは出来ないように気を付けていた。

 しかし、40歳を過ぎてからは、もう妊娠することはないだろうと、気が緩んでいたのは確かである。

「ソアリス、いくつだ?」
「だから43だと言っているでしょう」

 アンセムは二つ年上なので、今年45歳である。混乱しているので、何を自分で言っているのか、よく分かっていない。

「そうだった、えっ?大丈夫なのか?」
「知らんがな」
「王妃陛下は体が若いのではないかと、お医者様も仰ってますわ」

 ロペス医師もうんうんと、小刻みに頷いている。

「リズ夫人!?」

 ずっと優雅にお茶を飲んでいたリズに、今さら気付いて、驚いているアンセム。

「気付いていなかったの?失礼なじいさんだこと…」
「いや、すまない。驚き過ぎてしまって」
「ここはどこ…私は誰…?」

 自分以上に驚いて、慌てふためいて、座る様子もないアンセムに、ソアリスはすっかり落ち着いて来た。

「そ、そこまでではない」
「リズが気付いたの!ソアリスばあさん、当分気付かなかったと思うわ」
「自信満々で言うことではないわよ」
「姑ぇ~」

 ソアリスは酸っぱいような顔をして、リズに向けている。

「あなたも姑でしょう」
「リズ夫人ありがとう、おそらく事実だろう…誰も疑わなかったはずだ」
「いいえ、付き合いは誰よりも長いものですから」

 アンセムもソアリスから、幼なじみで友人だと聞いており、今となってはアリルの姑となって、アンセムにとっても家族である。

「何ヶ月くらいなんだ?」
「13週、4ヶ月です」

 既にソアリスの最終の生理を確認して、導き出していた。

「それはもう結構経っているのではないか?」

 アンセムは気は使って来たが、ソアリスが変わりないことから、あまり妊娠に関わって来なかったので、詳しく分からない。

「…はい、もう安定期に入っております」
「は?」

 さすがにアンセムでも、初期流産のリスクが減り、悪阻が治まるとされる安定期は分かる。ソアリスの年齢も年齢ゆえに、喜びよりも不安が勝ったが、既に安定期に入っていたというのか。改めてなんて女性なのかと、自身の妻を見つめた。

「悪阻はなかったのか?」
「ねえです。でもレモンのマドレーヌが急に食べたくなって」

 ソアリスはようやく与えられたレモンのマドレーヌを、もぐもぐ食べている。

「レモンのマドレーヌ?」
「陛下、我が邸でソアリスが好む、レモンのマドレーヌです。妊娠中に特に好んでいたものですから、まさかと思いまして」
「そうだったのか…よく気付いてくれた」

 聞くまで誰もソアリスが、妊娠しているなどと思ってもいなかった。

「恐れ入ります。ソアリス、揚げ芋とトマトも食べたいんじゃない?」
「ああ!食べたいわね」

 リズはソアリスは悪阻は酷くないが、揚げ芋とトマトを好んでおり、甘いものはあまりだったが、我が邸のレモンのマドレーヌだけは美味しいとよく食べていた。

「でも揚げ芋は昨日、おやつに山盛り食べたわ」
「はい?」

 リズが侍女たちを見ると、渋い顔をして、こくりと頷いている。誰もまさかとも思わなかった証拠である。

「山盛り食べて、走って、お昼寝したもの」
「ばあさんのすることではないわよ」
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