私のバラ色ではない人生

野村にれ

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 その後、ルルエは皆のおかげで随分と気持ちが楽にはなったが、妖精さんがいなくなったわけではない。

 王宮で行われた他国との交流パーティーに、出席していたユリウスとルルエ夫妻。ユリウスが僅かに離れた瞬間にやって来たのは、これまでも何度も嫌味を言って来ていた、二つ年上のミーチュア・オードエル公爵令嬢。今年23歳になるが、婚約解消になってから、婚約していない。

 ルルエは侯爵令嬢であったことから、嫌味を言って来る者は限られ、年上の令嬢や夫人が占めていた。その筆頭がこのミーチュアである。

「まあ、まだその座にしがみついてらっしゃるの?そろそろ身の程を弁えたら?」
「(妖精さんだわ、この令嬢は妖精、この令嬢は妖精、この令嬢は妖精)」

 ルルエは必死で頭の中で、言われ通りに唱えることにした。

「まあ、私を無視するの?傲慢な王太子妃様だこと!」

 ルルエは笑みを張り付けて、立ち向かおうとしたが、ルルエを呼ぶ声がして、こんなにホッとする声はないほどの安心感だった。

「ルルエ」
「はい、王妃陛下」

 ルルエから見たソアリスは、可愛らしい顔立ちでありながらも、髪色と瞳の色も相まって、美しさも兼ね備え、背筋も良いことから、若々しい義母だと思っている。

「ハリドラー王国の大使様が刺繍やキルトのお話をしたいそうなの、ルルエに頼めるかしら?」

 ソアリスが刺繍をしたのは、学園での授業の際だけで、至るところに血が付いており、教師にも頑張りは認められた。ソアリス曰く、細かい動きが馬鹿になっているということだった。

「はい、是非お話したいです」
「あと」
「王妃様、刺繍でしたら私の方が得意です」

 ミーチュアはチャンスと言わんばかりに声を上げたが、無視というよりは、ソアリスにはいない者として扱われていた。

「シズリーラ王国の大使様には、娘様に何かお勧めの小説をご案内してくれる?冒険の話が好きみたいなの」

 ソアリスは必要な歴史書や、学術書は読むが、娯楽小説を読む時間があれば身体を動かしたり、寝ていたい質であるために、冒険小説などさっぱり分からない。

 名前は聞いたことはあっても、タイトルだけ知っているという状態である。

 舞台も同様で、自身もうっかり寝てしまうことを分かっているので、滅多に参加せず、参加する際は目覚まし(夫と子ども)を両サイドに置き、抓って起こしてもらうようにしている。

 サングラスすればいいのでは?と言ったら、夫と娘に観る気がないと言っているようなものだと叱られた。息子には溜息を付かれた。

「承知致しました」
「あの!」
「シズリーラ王国の大使は、今アリルが御話しているから、先にハリドラー王国の大使様よ、顔は分かるわね?」

 アリルは詳しいとは言えないが、婚約者・ルーファの影響で娯楽小説を読むようになっているために、ルーファと共に対応をしている。

 ソアリスは早々に離脱して、ルルエを探していて、妖精さんを見付けたというわけである。本日、付き添っている侍女はキャロライン。

「はい」

 ルルエはシズリーラ王国の大使の方へ向かった。ユリウスもソアリスの目線に気付き、ルルエに合流した。

「王妃陛下!!なぜ、無視するんですか?」
「オードエル公爵令嬢、ルルエ王太子妃殿下から声を掛けられましたか?」

 話し始めたのは、キャロライン。奇しくも、元ロアンスラー公爵令嬢、元ノージュリー公爵令嬢、現オードエル公爵令嬢が揃っている。

 友人でもない二人が話すには、本来はルルエから声を掛けてからとなる。

「オードエル公爵令嬢ともあろう方が、マナーを疎かにされることは許されません。示しが付かないと思いませんか?」
「それは」

 いつも公爵令嬢として偉そうにしているのだから、マナーくらいきちんとしろという意味である。
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