私のバラ色ではない人生

野村にれ

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「はい、お義母様のようには言えませんけど、私だって思うことくらいあります。それを発散させて、皆の前ではきちんと出来るのですね」
「ルルエは見習わなくていいからね、あんな暴言、使い慣れていないと出ないから」
「確かに、あのような言葉はすぐには出ませんわね」

 ルルエは悔しそうな顔をしており、母が一般的だと思われたら困ると焦った。

「母は特殊なんだ、普通は怒られて矯正させられるのだろうけど、匙加減が分かっているかのように、使っているから」
「母が言っていたのです。ソアリス様は、学生時代は陰の支配者のようであったと」
「え?陰の支配者…なんてことだ」

 母は絶対に知らずに生きている、しかもなんて恥ずかしい呼び名だと言い出すことだろう。そもそも絶対にあり得ないと、否定できないことが悔しい。

「悪い意味ではないのですよ、纏めてらっしゃったという意味だそうです。母の妹がソアリス様と同い年で、叔母に言わせると代弁者だったそうです。言えないことを、さらっと言って、言えない叔母にはそれはもう格好いい存在だったそうです」
「なんて言っていたのかな?」
「私が好きなエピソードは」
「え?好きなエピソードがあるの?」
「はい、勿論です」

 ルルエはいつもように、穏やかに微笑んでいる。

「運動をしている際に、教師の注意も聞かずに、いつも喋って騒がしくしていたグループがいて、その一番騒がしい方に、静かにするように言っているのが聞こえないのかと、お耳の遠い方の様に耳元で…言われたそうです、ふふ。その子は真っ赤になって、叔母はスッキリしたと申しておりました」

 ユリウスはその姿が息子ゆえに想像が出来てしまう。物凄く小馬鹿にした顔で行っていたに違いない。

 しかも正確には「先生が静かにしろと言っているのが聞こえないのかな?耳クソが詰まっているのかな?」と耳の遠い老人に話し掛けるように、詰め寄ったのだ。

「あとは、婚約者がいる相手にベタベタする方が、自慢話をしてくることがあったようで、面白くない話をするなと一喝されたとか」
「それはするだろうな…」
「叔母様は家で練習したこともあったそうですわ」
「いや、真似てはいけない」
「それが練習でも、なかなか言えなかったそうです」

 言える方が問題なのだが、確かに当たり前ではないのだろう。口に出来る立場でもあったのもあるが、母だからこそだったのだろう。

「それでルルエはそんなに驚いていなかったのだね」
「いえ、驚きはしましたが、これかと思ったのです。あれだけの言語がペラペラと出るのも、才能ですわ。ですから、私もお義母様にはなれませんが、妖精だとは思うことにします」

 頭の中だけだとしても、母の首を絞めて泡を吹かせるよりは、ルルエには妖精が向いているだろう。

「そうだな、妖精だな。父上も妖精という言葉が出る時点で、相当母上に毒されているな」
「夫婦ですから、似て来るのではありません?」
「そうかもしれぬな」

 母が父に似ることはないかもしれないが、曾祖父も短期間でかなり毒されていたように、影響力があり過ぎる。

「私たちは分かり合っていれば、気にすることはない」
「はい、子どものことは後継者が必要だからとは考えないようにしますわ。カイルス様だって、もしエクシアーヌ様が先に懐妊されても、相応しい人がなればいいと思うことにします」
「そうだ!正直、私も未だに自分が相応しいとは思っていない。だからこそ、相応しい者がなればいいとは常々思っていた」
「そうですわね、少し元気になりました。明日からは走りますし、新しいことに目を向けます」

 ルルエは翌日から、ソアリスには付いては行けなかったが、少しづつ走るようになった。エクシアーヌとも関係が悪いわけではなかったが、一緒に走ることで距離が縮まり、良い関係が築けるきっかけとなった。
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