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祝言2
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「姉がお世話になっています」
「こちらこそお世話になりっぱなしよね、あなた」
「ああ、公爵に嫁いでくれて感謝している。エクシアーヌにも教育を担って貰い、本当に良い縁を結んだと思う」
王家を離れることになっても、エクシアーヌにも王子妃教育は受ける必要があったため、ゾル王国に派遣する予定だったが、アイリーンが私がやればいいじゃないということになり、教育を施すことになったのだ。
アイリーンは何もして来なかったクロンデール王国への恩返しだと言っていた。
「はい、私共も感謝しております」
「当初の予定だと、ソアリス様のお兄様と婚約することになっていたと、最近聞かされた時は驚いたわ」
「そのようですね、ハ…いえ、兄とは絶対に合わないと思います」
「気難しい性格だと…」
「ハ…いえ、兄は自分が正しいと思い込むような質でして」
皆、先程から兄と言おうとして、"ハ"と出て来ることが、気になって仕方がない。
「ソアリス様、"ハ"は何ですの?」
「ハ、は…」
「ソアリス、私も気になっている。言っていい」
「ハエです」
「ハエ…」
「ハエだったのね」「ハエか…」
「私、不愉快な相手に渾名を付けて、頭の中で呼ぶのですけど、目も大きく、ブンブンうるさくて、手をバタバタ動かし、汚物に止まる、ハエになりましたの」
アンセムは予想を上回る酷さに許可は出したが、白目を剥きそうだった。
「サイラスはおろか、兄すら出て来なくなっているじゃないか」
「口に出すことがなかったものですから」
「ふふふ、妹君にそんな渾名を付けられている相手は、アイリーン様には絶対合わなかったでしょうね」
サイラスはアイリーンより一つ年下ではあったが、結婚したのは兄妹の仲で一番最後だった。年若い令嬢を妻にして、それなりには上手くやっているらしい。
ソアリスと私的な話をすることはないので、ソアリスの中ではいつまで経っても、あの頃の煩わしいハエでしかない。
「ああ、だからシシリーヌが人気者王女だったのね」
「いえ、尻を出せリーヌもあります」
「こら、ソアリス!」
さらっと言い放ったソアリス。考え抜いて付けられた名前をそんな風に言われては、気が悪いだろう。
「あはははは!お尻を叩こうとしたの?叩いてくれて良かったのに、ねえあなた」
「ああ、叩かれて当然だ。夜這いをするような王族は要らぬ」
リガルタもマリエンヌもシシリーヌの夜這いが、一番衝撃を受けた。報告書とこちらも監視役を付けていたので、事実であることは明白であった。阻止されなくても、ゾル王国側がシシリーヌを撤収しただろう。
「エクシアーヌもそう言っておりましたわ」
「エクシアーヌにはさせなくていい苦労をさせてしまったわ、シシリーヌって名前が良くなかったのかしらね」
「あれは夢見がちな、私の祖母が付けたものだったからな…」
二人が付けたわけではなかったのか、それでも良かったとはならないが、アンセムは苦笑いで誤魔化した。
「そういえば、ピデム王国の王太子の娘、第一王女がロンド王国に嫁がれると」
「ええ、そのようですわね」
「シシリーヌに会うことはないと思うけど」
「大丈夫ですよ、ピデム王国には貸しがありますものね、陛下?」
ソアリスの言葉にリガルタとマリエンヌは、ララシャ妃のことだろうと思った。実はその後もアリル、ルイスのことなどで弱みを握りまくっていることは知らない。
「ああ、ご心配されなくても、何かあれば力になります。こちらも何かあれば、力をお貸しいただければと思います」
「勿論だ!」
アンセムもソアリスも国王夫妻がエクシアーヌのことを大事に思っていることに間違いはないが、ロンド王国のことが気掛かりだったのだろう。
二人とも真に晴れやかな顔をして、帰国した。
エクシアーヌという家族が増えて、ますます賑やかになっていたが、珍しくユリウスがソアリスを訪ねて来た。
「こちらこそお世話になりっぱなしよね、あなた」
「ああ、公爵に嫁いでくれて感謝している。エクシアーヌにも教育を担って貰い、本当に良い縁を結んだと思う」
王家を離れることになっても、エクシアーヌにも王子妃教育は受ける必要があったため、ゾル王国に派遣する予定だったが、アイリーンが私がやればいいじゃないということになり、教育を施すことになったのだ。
アイリーンは何もして来なかったクロンデール王国への恩返しだと言っていた。
「はい、私共も感謝しております」
「当初の予定だと、ソアリス様のお兄様と婚約することになっていたと、最近聞かされた時は驚いたわ」
「そのようですね、ハ…いえ、兄とは絶対に合わないと思います」
「気難しい性格だと…」
「ハ…いえ、兄は自分が正しいと思い込むような質でして」
皆、先程から兄と言おうとして、"ハ"と出て来ることが、気になって仕方がない。
「ソアリス様、"ハ"は何ですの?」
「ハ、は…」
「ソアリス、私も気になっている。言っていい」
「ハエです」
「ハエ…」
「ハエだったのね」「ハエか…」
「私、不愉快な相手に渾名を付けて、頭の中で呼ぶのですけど、目も大きく、ブンブンうるさくて、手をバタバタ動かし、汚物に止まる、ハエになりましたの」
アンセムは予想を上回る酷さに許可は出したが、白目を剥きそうだった。
「サイラスはおろか、兄すら出て来なくなっているじゃないか」
「口に出すことがなかったものですから」
「ふふふ、妹君にそんな渾名を付けられている相手は、アイリーン様には絶対合わなかったでしょうね」
サイラスはアイリーンより一つ年下ではあったが、結婚したのは兄妹の仲で一番最後だった。年若い令嬢を妻にして、それなりには上手くやっているらしい。
ソアリスと私的な話をすることはないので、ソアリスの中ではいつまで経っても、あの頃の煩わしいハエでしかない。
「ああ、だからシシリーヌが人気者王女だったのね」
「いえ、尻を出せリーヌもあります」
「こら、ソアリス!」
さらっと言い放ったソアリス。考え抜いて付けられた名前をそんな風に言われては、気が悪いだろう。
「あはははは!お尻を叩こうとしたの?叩いてくれて良かったのに、ねえあなた」
「ああ、叩かれて当然だ。夜這いをするような王族は要らぬ」
リガルタもマリエンヌもシシリーヌの夜這いが、一番衝撃を受けた。報告書とこちらも監視役を付けていたので、事実であることは明白であった。阻止されなくても、ゾル王国側がシシリーヌを撤収しただろう。
「エクシアーヌもそう言っておりましたわ」
「エクシアーヌにはさせなくていい苦労をさせてしまったわ、シシリーヌって名前が良くなかったのかしらね」
「あれは夢見がちな、私の祖母が付けたものだったからな…」
二人が付けたわけではなかったのか、それでも良かったとはならないが、アンセムは苦笑いで誤魔化した。
「そういえば、ピデム王国の王太子の娘、第一王女がロンド王国に嫁がれると」
「ええ、そのようですわね」
「シシリーヌに会うことはないと思うけど」
「大丈夫ですよ、ピデム王国には貸しがありますものね、陛下?」
ソアリスの言葉にリガルタとマリエンヌは、ララシャ妃のことだろうと思った。実はその後もアリル、ルイスのことなどで弱みを握りまくっていることは知らない。
「ああ、ご心配されなくても、何かあれば力になります。こちらも何かあれば、力をお貸しいただければと思います」
「勿論だ!」
アンセムもソアリスも国王夫妻がエクシアーヌのことを大事に思っていることに間違いはないが、ロンド王国のことが気掛かりだったのだろう。
二人とも真に晴れやかな顔をして、帰国した。
エクシアーヌという家族が増えて、ますます賑やかになっていたが、珍しくユリウスがソアリスを訪ねて来た。
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