私のバラ色ではない人生

野村にれ

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団欒2

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「ロアンスラー公爵家は、今まで通り知らない振りをしておいてください。その方が都合がいいの。樽には樽らしくいて貰わないと」

 ソアリスは謝罪など必要としていないと言わんばかりに、いつも通りである。

 被害者がそう言っているのだから、アンセムが追及することはしないでおこうと思った。だが、今後は睨み付けてしまいそうだ。

「その、樽。今後、見たら思っちゃうわ」
「でも樽でしょう?ソファで横向きで寝転んでいる姿なんて、打ち上げられた何かにしか見えないのよ?」
「っふ、ちょっと」
「しかも、その姿で手招きされたことがあって、いよいよ樽らしく、起き上がれなくなったのかと思ったものよ」

 アンセムは想像して、ゲフンゲフンと咳をしている。

「でもね、昔は樽も細かったそうなのよ!今のところは大丈夫だと思うけど、アリルも気を付けるのよ」
「ええ…分かったわ」

 アリルも、ああはなりたくないと、力強く頷いた。

「私は物心ついた時から樽だったけど、出産する度に増し増ししたそうよ。おかげでお父様が酷く貧弱に見えるでしょう?」

 父・キリスは元々細身で、年を取って痩せたこともあり、横にいるマルシャのせいで、余計に細く見えている。

「増し増し…」

 アリルは自分の体形が気になったが、母という良いお手本と、駄目なお手本として祖母を見ることにした。

「だが、鼻毛は関係なかったんじゃないか?」

 アンセムはあの場で胸部のことはともかく、鼻毛を指摘することはなかったのではないかと思った。

「だって、ずっとちろちろと、しかもなくなってるし」
「お母様、お父様には悪戯しませんものね」
「だって公式な場では駄目だと言われたから、陛下にはしてませんわ」
「悪戯?」
「私たちが悶絶しているの見たことありません?あれ、全部お母様の仕業よ」
「そうだったのか!喉に何か詰まらせたのかと思っていたが」

 アンセムも何度か目撃していたが、事情まで知ることはなかった。そして、分かっている者もいたが、説明が出来ないので、誰も教えなかった。

「お母様、鼻毛によく出会うんです!それが苛立つようで」
「だって、きちんとした身なりをしているのに、鼻毛が出ているのよ!なぜそこを怠ったのかが分からないの。馬車で揺られている内に、ひょっこり出たのかもしれないじゃない?」
「ぶぶぶ!馬車ならいいの?」
「そこは従者なり、奥方が高貴な毛が出ておりますよって、教えてあげるべきだけど…私に指摘されるのは嫌でしょう?王妃に鼻毛を指摘されたと、文献に残ったら可哀想じゃない」
「文献って…ふふふっ」

 アンセムは自分の鼻が異様に気になった。

「陛下は大丈夫よ、私が必ずチェックしているから。だって真面目なこと言ってるのに、鼻毛なんて出てたらもう何も聞く気なくなるでしょう。ルイス殿下がいい例じゃない、おい鼻毛って呼びそうになったわよ」
「確かにそうですわね」

 確かにソアリスにじっと見られてることがあったが、そんなチェックをされていたとは。ホッとしていいのか、触れて来なかった夫婦は知らないことがまだあった。

「お母様、家族が出ていたらどうするのです?」
「そうね、まだ遭遇していないのよね。カイルスなら抱き上げてしまえばいいけど、王女たちは抱き上げられるけど、ちょっと注目を浴びるわよね」
「私たちは異常に気にしていますから、大丈夫ですよ」
「そう?扇子で隠すのが一番よね、そして軽やかに引き抜く」
「出来るの?」
「だから遭遇しないのよ、本番一発勝負よ」
「それは…」

 母は器用だとは言い難く、失敗する予感しかしない、近付いてきた時点で、身構えるだろうが、まさか鼻毛を抜かれるとは思わないだろう。

 アンセムも気にもしていなかったが、これからは気を付けようと心に誓った。
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