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爾後2
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「あと寝技やローキックの相手をさせて、木から逆さに吊るすのも良いですわね」
「逆さ…」
「あと、人気者王女って大きく刺繍をしたジャケットを着せて」
「刺繍…」
地獄だ、地獄の扉を開いてしまったとしか言えない。まさに心身ともに喪失状態に追い込むだろう。
「しませんよって言うはずだ」
「分かりませんよ、アリルだって、エクルだって、ミフルだって…ふふふふふ」
ソアリスの含み笑いを聞きながら、アンセムはそんな日が来ないことを、信じるしかないと思った。きっとリガルタ陛下も厄介な王女でも、そんな気持ちだったのではないかと想像した。
その王族から一気に平民となったシシリーヌ。ロンド王国に頼れる相手もおらず、無謀だったとしか言いようがない。
オーバンがゾル王国とのやり取りを話すと、そんなはずはないと荒れた。約束のことはきっと本気じゃない、婚約が白紙になりさえすればと思っていた。
だが、新聞を見せれば事実だと突き付けられた。もう王女ではない。
オーバンは抹消するなどといった話はもちろん聞いておらず、自分のせいで一国の王女を平民にしてしまったと責任を感じた。
婚約の白紙も両親に伝えてはいたが、了承は貰えていなかった。だが、相手が王女だと分かればきっと認めてくれるだろうと思っていたが、王女ではなくなってしまった。そんなシシリーヌに価値はないと、婚約の白紙は認められない。
だが、元王女という点はいつか使えるかもしれないと、囲うことは許された。
婚約者も共同事業のこともあり、愛人にすればいいと、結婚は予定通りすることになった。
王女が他国の令嬢から婚約者を奪ったなど醜聞でしかなく、王家が認めないと伝えていたはずが、パトリックも公爵令息だったことから、シシリーヌは問題ないと勝手に思っていた。
確かに娘に甘い親なら、無理やり押し通したかもしれないが、そうではないことは知っていたはず。
「いつ婚約は白紙になるの?」
「共同事業のこともあって、難しいようなんだ…」
「そんな!あなた、黙したの!」
「まさか抹消されるだなんて、シシリーヌは聞かされていたんだろう?なぜ言わなかった?聞いていたら、連れ帰ったりはしなかった」
今思えば浅墓な行動だったと思うが、あの時は王女を連れ帰る自分に酔っていた。
「不安だったの!」
「それは分かってる、だからこそ冷静になるべきだった。シシリーヌといるためには、婚約者と結婚をしなければならない」
「そんな!そんなの側妃と変わらないじゃない!」
「違う!真に愛しているのはシシリーヌだけだ。どちらにしても、平民になった君とは結婚は出来ないじゃないか」
「そんな…」
シシリーヌはオーバンの結婚式の日も知らされないまま、ただオーバンが来るのを待つ日々となった。
オーバンは予定が狂ったと思っていたが、政略結婚でしかない妻と、自分を求めてくれるシシリーヌの二重生活を始めることになった。
妻だけではシシリーヌだけでは息が詰まる、元にはなってしまったが、王女を愛人にしていることも気分を高揚させるものだった。
シシリーヌは帰ると言い出すこともあったが、帰る場所はない。母国で平民として暮らすのかと言われれば、シシリーヌは黙るしかなかった。
オーバンは愛していると言葉でも、行動でも表してくれるシシリーヌには理想的な相手だった。だが、愛人になりたかったわけではない。
「私だって君と結婚して一緒に暮らしたい、抹消されるなんて知らなかった」
「それは…」
そう言えば、シシリーヌは何にも言えない。機嫌を取りながらも優越感に浸るようになり、妻と子どもを作りながらも、シシリーヌには気付かれぬようにしていた。
シシリーヌはオーバンを疑わず、何も知らない方が幸せかもしれない。悲劇のヒロインは踊り続けなくてはならない。
ララシャに似た境遇であったように思えるが、ヒロインにはなれなかったシシリーヌ。愛に生きるという点では、願いは叶うのかもしれない。
「逆さ…」
「あと、人気者王女って大きく刺繍をしたジャケットを着せて」
「刺繍…」
地獄だ、地獄の扉を開いてしまったとしか言えない。まさに心身ともに喪失状態に追い込むだろう。
「しませんよって言うはずだ」
「分かりませんよ、アリルだって、エクルだって、ミフルだって…ふふふふふ」
ソアリスの含み笑いを聞きながら、アンセムはそんな日が来ないことを、信じるしかないと思った。きっとリガルタ陛下も厄介な王女でも、そんな気持ちだったのではないかと想像した。
その王族から一気に平民となったシシリーヌ。ロンド王国に頼れる相手もおらず、無謀だったとしか言いようがない。
オーバンがゾル王国とのやり取りを話すと、そんなはずはないと荒れた。約束のことはきっと本気じゃない、婚約が白紙になりさえすればと思っていた。
だが、新聞を見せれば事実だと突き付けられた。もう王女ではない。
オーバンは抹消するなどといった話はもちろん聞いておらず、自分のせいで一国の王女を平民にしてしまったと責任を感じた。
婚約の白紙も両親に伝えてはいたが、了承は貰えていなかった。だが、相手が王女だと分かればきっと認めてくれるだろうと思っていたが、王女ではなくなってしまった。そんなシシリーヌに価値はないと、婚約の白紙は認められない。
だが、元王女という点はいつか使えるかもしれないと、囲うことは許された。
婚約者も共同事業のこともあり、愛人にすればいいと、結婚は予定通りすることになった。
王女が他国の令嬢から婚約者を奪ったなど醜聞でしかなく、王家が認めないと伝えていたはずが、パトリックも公爵令息だったことから、シシリーヌは問題ないと勝手に思っていた。
確かに娘に甘い親なら、無理やり押し通したかもしれないが、そうではないことは知っていたはず。
「いつ婚約は白紙になるの?」
「共同事業のこともあって、難しいようなんだ…」
「そんな!あなた、黙したの!」
「まさか抹消されるだなんて、シシリーヌは聞かされていたんだろう?なぜ言わなかった?聞いていたら、連れ帰ったりはしなかった」
今思えば浅墓な行動だったと思うが、あの時は王女を連れ帰る自分に酔っていた。
「不安だったの!」
「それは分かってる、だからこそ冷静になるべきだった。シシリーヌといるためには、婚約者と結婚をしなければならない」
「そんな!そんなの側妃と変わらないじゃない!」
「違う!真に愛しているのはシシリーヌだけだ。どちらにしても、平民になった君とは結婚は出来ないじゃないか」
「そんな…」
シシリーヌはオーバンの結婚式の日も知らされないまま、ただオーバンが来るのを待つ日々となった。
オーバンは予定が狂ったと思っていたが、政略結婚でしかない妻と、自分を求めてくれるシシリーヌの二重生活を始めることになった。
妻だけではシシリーヌだけでは息が詰まる、元にはなってしまったが、王女を愛人にしていることも気分を高揚させるものだった。
シシリーヌは帰ると言い出すこともあったが、帰る場所はない。母国で平民として暮らすのかと言われれば、シシリーヌは黙るしかなかった。
オーバンは愛していると言葉でも、行動でも表してくれるシシリーヌには理想的な相手だった。だが、愛人になりたかったわけではない。
「私だって君と結婚して一緒に暮らしたい、抹消されるなんて知らなかった」
「それは…」
そう言えば、シシリーヌは何にも言えない。機嫌を取りながらも優越感に浸るようになり、妻と子どもを作りながらも、シシリーヌには気付かれぬようにしていた。
シシリーヌはオーバンを疑わず、何も知らない方が幸せかもしれない。悲劇のヒロインは踊り続けなくてはならない。
ララシャに似た境遇であったように思えるが、ヒロインにはなれなかったシシリーヌ。愛に生きるという点では、願いは叶うのかもしれない。
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ーーーーー
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