私のバラ色ではない人生

野村にれ

文字の大きさ
上 下
62 / 348

禍害(裏)3

しおりを挟む
 王子と王女はソアリスに言われた通りに動いた。ユリウスとマイノスは公務や訓練で忙しいことにし、時間のある風を装った王女たちが担当して、案内をする。

 アンセムはソアリスにあなただと側妃になるから、可能性は低いけど、念のため男性だから執務室から出るな、しかも書類を押し付けられて、大人しくしていた。

 一日目が過ぎ、二日目になっても、何も起きていないと思っていたが、大間違いであった。

「姉が何かしていたのでしょうか」
「マイノスのところへ、きちんと挨拶をしておきたいからと訪ねていた。それだけなら、姉だからいいのだが、近くに寄ろうとしたり、腕を取ろうとしたり、訓練の場に現れて、わざとらしく褒めたりしていたそうだ」
「そんなことを…申し訳ございません」

 ユリウスとマイノスはソアリスの侍女が監視をしているので、何か報告があれば、交代をして、ソアリスに報告がいくことになっていた。

「エクシアーヌ王女のせいではない。ただね、ユリウスにも同じようなことをしていたんだ…」
「何てことを…部屋にいるとばかり…婚約者の方にも申し訳が立ちません」

 エクシアーヌは勝手に出歩いてはいけないと思い、案内された図書館で宿題をして過ごしていた。時折、王女が来て、少し話をしたくらいであった。

「そこはソアリスの侍女が、鉄壁で守っていたから、問題ない。ユリウスの婚約者にも説明をしている」
「母の侍女は皆、既に結婚して、子どももいる夫人たちなんだが、シシリーヌ王女が女性を側に置くのは、今後のためにもどうかと思いますとまで言いだしてね」
「申し訳ございません!」
「私たちも子どもの頃から知り合いなんだ。親しくて当たり前。懸想なんてしたら、私の方が母上に尻を出せと言われかねない」
「絶対、言われるな。しかも、夫人の前で叩くだろう」

 息子を辱めるなんて、ソアリスの大好物だろう。

「マイノスならともかく、私は関係ないのに、まるで自分が婚約者になったような口振りだろう?ああ、これは母上の勘が当たっているのだと実感したよ」

 妹の婚約者の兄という範疇を超えたと思った。

「おそらく、それもお母様の狙いでしょうね。あの手の方は老婆でもない限り、側に女性がいることを嫌がる。ある意味、頭と下半身が直結しているから、男女というだけで疑いの目を向ける」
「アリル!」
「お母様が言っていたのです」
「そうだろうな、普段はずっと側に置くことはないんだが、今回はソアリスが監視のために配置していた。不安にさせるようなことがあったら、申し訳なかった。エクシアーヌ王女ももう謝らなくていい」
「ありがとうございます」

 そして、マイノスがエクシアーヌに向かって、改めて頭を下げた。

「時間が取れなくてすまなかった」
「いいえ、それはこちらの台詞です」
「母上が動く分、カイルスの相手が出来ない。だから、カイルスの体力を削ぐために、相手をしなければならなくてね」
「体力を削いで、昼寝させて、体力を削いで、早めに寝させるのが目的でしてね。放って置くとお母様を探しに行ってしまうから」
「一人だと飽きてしまうから、皆が代わる代わる相手をしていてね」

 カイルスの目を逸らすために遊び続け、ご褒美として、食事中はソアリスに甲斐甲斐しく世話をして貰っていたのだ。

「それで眠そうだったんですね」
「いつもは自分で食べなさいと言われるのに、遊び疲れて、お母様が食べさせてくれるなんて、カイルスにとっては幸せでしかないのです。それでお風呂に入れば、そのまま眠る予定だったんですけど…」

 トイレで目が覚めてしまい、ソアリスがいないことで泣き出してしまったのだ。

「あとは両陛下に全て包み隠さず報告をさせて貰う。迎えは既に待機されている状態なんだ」
「はい、ありがとうございます」

 明日にはシシリーヌだけが帰国することになり、エクシアーヌはようやく肩の荷が下りた。

 再び、ドアがノックされ、先程のメイドが入って来た。

「どうした?何かあったのか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「だから結婚は君としただろう?」

イチイ アキラ
恋愛
ホンス伯爵家にはプリシラとリリアラという二人の娘がいた。 黒髪に茶色の瞳の地味なプリシラと、金髪で明るい色彩なリリアラ。両親は妹のリリアラを贔屓していた。 救いは、祖父母伯爵は孫をどちらも愛していたこと。大事にしていた…のに。 プリシラは幼い頃より互いに慕い合うアンドリューと結婚し、ホンス伯爵家を継ぐことになっていた。 それを。 あと一ヶ月後には結婚式を行うことになっていたある夜。 アンドリューの寝台に一糸まとわぬリリアラの姿があった。リリアラは、彼女も慕っていたアンドリューとプリシラが結婚するのが気に入らなかったのだ。自分は格下の子爵家に嫁がねばならないのに、姉は美しいアンドリューと結婚して伯爵家も手に入れるだなんて。 …そうして。リリアラは見事に伯爵家もアンドリューも手に入れた。 けれどアンドリューは改めての初夜の夜に告げる。 「君を愛することはない」 と。 わがまま妹に寝取られた物語ですが、寝取られた男性がそのまま流されないお話。そんなことしたら幸せになれるはずがないお話。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

婚約者の断罪

玉響
恋愛
ミリアリア・ビバーナム伯爵令嬢には、最愛の人がいる。婚約者である、バイロン・ゼフィランサス侯爵令息だ。 見目麗しく、令嬢たちからの人気も高いバイロンはとても優しく、ミリアリアは幸せな日々を送っていた。 しかし、バイロンが別の令嬢と密会しているとの噂を耳にする。 親友のセシリア・モナルダ伯爵夫人に相談すると、気の強いセシリアは浮気現場を抑えて、懲らしめようと画策を始めるが………。

悲劇の令嬢を救いたい、ですか。忠告はしましたので、あとはお好きにどうぞ。

ふまさ
恋愛
「──馬鹿馬鹿しい。何だ、この調査報告書は」  ぱさっ。  伯爵令息であるパーシーは、テーブルに三枚に束ねられた紙をほうった。向かい側に座る伯爵令嬢のカーラは、静かに口を開いた。 「きちんと目は通してもらえましたか?」 「むろんだ。そのうえで、もう一度言わせてもらうよ。馬鹿馬鹿しい、とね。そもそもどうして、きみは探偵なんか雇ってまで、こんなことをしたんだ?」  ざわざわ。ざわざわ。  王都内でも評判のカフェ。昼時のいまは、客で溢れかえっている。 「──女のカン、というやつでしょうか」 「何だ、それは。素直に言ったら少しは可愛げがあるのに」 「素直、とは」 「婚約者のぼくに、きみだけを見てほしいから、こんなことをしました、とかね」  カーラは一つため息をつき、確認するようにもう一度訊ねた。 「きちんとその調査報告書に目を通されたうえで、あなたはわたしの言っていることを馬鹿馬鹿しいと、信じないというのですね?」 「き、きみを馬鹿馬鹿しいとは言ってないし、きみを信じていないわけじゃない。でも、これは……」  カーラは「わかりました」と、調査報告書を手に取り、カバンにしまった。 「それではどうぞ、お好きになさいませ」

(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏
恋愛
 私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。  女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?  美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。

川嶋マサヒロ
恋愛
「僕たちの婚約を破棄しよう」 愛しき婚約者は無情にも、予測していた言葉を口にした。 伯爵令嬢のバシュラール・ディアーヌは婚約破棄を宣告されてしまう。 「あの女のせいです」 兄は怒り――。 「それほどの話であったのか……」 ――父は呆れた。 そして始まる貴族同士の駆け引き。 「ディアーヌの執務室だけど、引き払うように通達を出してくれ。彼女も今は、身の置き所がないだろうしね」 「我が家との取引を中止する? いつでも再開できるように、受け入れ体勢は維持するように」 「決闘か……、子供のころ以来だよ。ワクワクするなあ」 令嬢ディアーヌは、残酷な現実を覆せるのか?

なにひとつ、まちがっていない。

いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。 それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。 ――なにもかもを間違えた。 そう後悔する自分の将来の姿が。 Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの? A 作者もそこまで考えていません。  どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。

【完結】愛すればこそ奪う

つくも茄子
恋愛
侯爵家の次男アーサーが結婚寸前で駆け落ちした。 相手は、侯爵家の上級メイドであり、男爵令嬢であるアンヌだった。二人は幼馴染の初恋同士であり、秘密の恋人でもあった。家のために、成り上がりの平凡な令嬢との結婚を余儀なくされたアーサーであったが、愛する気持ちに嘘はつかない!と全てを捨てての愛の逃避行。 たどり着いた先は辺境の田舎町。 そこで平民として穏やかに愛する人と夫婦として暮らしていた。 数年前に娘のエミリーも生まれ、幸せに満ちていた。 そんなある日、王都の大学から連絡がくる。 アーサーの論文が認められ、講師として大学に招かれることになった。 数年ぶりに王都に戻るアーサー達一行。 王都の暮らしに落ち着いてきた頃に、アーサーに襲いかかった暴行事件! 通り魔の無差別事件として処理された。 だが、アーサーには何かかが引っかかる。 後日、犯人の名前を聞いたアーサーは、驚愕した! 自分を襲ったのが妻の妹! そこから明らかになる、駆け落ち後の悲劇の数々。 愛し合う夫婦に、捨てたはずの過去が襲いかかってきた。 彼らは一体どのような決断をするのか!!! 一方、『傷物令嬢』となった子爵令嬢のヴィクトリアは美しく優しい夫の間に二人の子供にも恵まれ、幸せの絶頂にいた。 「小説家になろう」「カクヨム」にも公開中。

処理中です...