私のバラ色ではない人生

野村にれ

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限界

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「…その方と婚約されてはいかがですか」
「え?何を言っているの」

 マイノスの婚約者、エクシアーヌの姉・シシリーヌが婚約者である、パトリック・ダソールはある夜会で、シシリーヌとクラスメイトの令息が、親しくしているのを見せ付けられていた。

「本気で言っているのではありませんわよね?私はあなたの婚約者ですのよ?そのような言葉を言うなんて、信じられないわ!」
「異性と親しい距離を取られていたでしょう?」

 シシリーヌは令息の腕を持ち、至近距離で話をしていた。

「嫉妬は見苦しくてよ?距離は少し近かったかもしれないけど」

 シシリーヌはその言葉に喜々としていたが、パトリックは呆れた表情であった。

「もう限界です…」

 そのクラスメイトであるロックス・デザート伯爵令息は、評価の高いパトリックに勝てたような気分を味わっていたが、不穏な様子に焦って弁解を始めた。

「ダソール公爵令息様、殿下と私はやましい関係ではありません」
「君が断れないのは分かるよ、王女殿下だからね」
「…はい」

 ロックスもその言葉で助かったなどとは思っていない、不味いという思いが、体中に巡り始めた。

「婚約解消を願い出させてもらう。帰りは頼んでおくから、今日は失礼するよ」
「っな!私はパトリックの愛を知りたかったのよ」
「止めてくれと何度も言ったよね?もう限界なんだ…」
「そんなことをしたら、後悔するのはパトリックの方よ?分かっているの?」

 パトリックは一瞬、シシリーヌを見たが、目を逸らし、そのままシシリーヌを送って貰う手はずを整えて帰って行った。

 シシリーヌは呆然としたが、パトリックが厳しいことを言うことはこれまでもあった、だが言い過ぎたねといつも謝ってくれていた、だから今回も謝って来るはずだと思い直した。

 そして、ロックスは慌てて帰って、父親に事情を話し、愚か者がと怒鳴られた後、ダソール公爵家に謝罪に行き、事なきを得た。

 パトリックは翌日、婚約の解消を父と一緒に両陛下に願い出た。

 またもシシリーヌのパトリックの愛を試したかったという理由ではあったが、いよいよ婚約は解消になることになった。

 これまでも似たようなことはあった。不貞行為をするほどシシリーヌも愚かではないので、それこそ近くで話をしたり、腕を持ったり、身体に触れたり程度ではあったが、積み重なっているパトリックは疲れていた。

 嫉妬ではなく、疲労である。

 それもそのはず、試し行動をしたのはシシリーヌなのに、「私を愛しているなら、怒るでしょう」「愛していないのね」「愛は返さないと成り立たない、これではやっていけない」などと押し付けて来る。

 止めるように言っても、「足りない」「もっと情熱を持たないといけない」「どうして出来ないの」と、なぜかパトリックが怒られることになる。

 まさに心身ともに疲弊をしてるパトリックに、両陛下も同意するしかなかった。

「私はこれで解放されるかもしれないと、思ってしまっていたのです。婚約者である資格がありません。解消して、私は嫡男から外して貰い、出て行きます。ですので、公爵家の咎めはどうかお許しいただけませんでしょうか」

 いくらあからさまな非はなくとも、パトリックも王女との婚約を解消するのだから、覚悟をしている。

「そのような必要はない。シシリーヌが全面的に悪い。辛い思いをさせてすまなかったな。婚約は解消、いや白紙に戻そう」
「いえ、私は」
「パトリックに落ち度はない。ダソール公爵、白紙に戻すということで構わぬか」
「はい、感謝申し上げます」

 そして、いわゆる性格の不一致ということで、二人の婚約は白紙に戻されることになり、解消ではないので、お互いに婚約などなかったことになった。

 パトリックの周りは大きな声では言えないが、良かったなとパトリックを思いやり、しばらく静かに過ごしたいと、シシリーヌより年上で学園も卒業していることから、領地に引っ込むことになった。

 問題はシシリーヌである。17歳で婚約そのものがなくなってしまったのだ。
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