私のバラ色ではない人生

野村にれ

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挨拶

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 アリル、ユリウス、マイノスと婚約が決まり、ついにエクルにも縁談の話が出るようになった。アンセムはまだいいのではないかとごねていたが、両親に良き相手なら決めておいた方がいいと言われて、まずは精査することになった。

 王家は申し込みもあるが、結んでもいい候補者の中から選ぶことが多い。

 ユリウスがなかなか決まらなかったので、皆、申し込むのを躊躇っている間にアリルの方が決まってしまった。

 そして、ユリウスが決まり、マイノスがゾル王国の第二王女と婚約したことで、王太子が変わるのかと一部はざわついたが、アイリーンが公爵家に嫁いでいるが、ますます強固に縁付くことは良きことだと、概ね好意的であった。

 もしマイノスを婚約者が王女だからと、王太子に勧めるようなことがあれば、王家から出すつもりであり、マイノスもエクシアーヌも希望している。

 マイノスはエクシアーヌをシアと呼ぶようになり、ガルヴェート公爵邸に滞在して会うこともあったが、手紙でやり取りをしながら、交流を深めている。

 ゾル王国の両陛下とエクシアーヌ王女が、こちらが頼んだ縁談だからとクロンデール王国に挨拶に訪れた。もちろん、ソアリスにも会ったが、さすがに表向きなので、まだ澄ました顔の王妃仕様であった。

 母国ではないので、自己紹介も兼ねて、きょうだい全員が集まっていた。

 そして、両陛下もエクシアーヌも、おそらく気をつけと言われて、ピシっと立っている小さなカイルスに目じりが下がりっぱなしだった。

「かいるす・ぐれんばれんでございまし。まいのすおにいしゃまを、どうぞよろしくおねがいしましゅ」

 相手は他国の王族であるため、失礼のないようにソアリスと練習した挨拶である。

「おお、立派な挨拶をありがとう。こちらこそよろしく頼む」
「む」
「んんん、素晴らしいわ!よろしくお願いいたしますわね」
「ね」

 マリエンヌは悶絶しそうなところを何とか耐えた。エクシアーヌは声にならず、顔を両手で覆ってしまっており、カイルスがてこてこ歩いて行き、覗き込んだ。

「おねえちゃま、だいじょうぶ?」
「だだだ大丈夫でございます、こちらこそよろしくお願いします」
「ます」

 達成感に満ちたカイルスは、いつものようにソアリスの元へ急いだ。

「おかあさま、かいるす、ほめられたよ、がんばったよ」
「語尾が怪しかったわ」

 カイルスはどうも気が抜けるのか、語尾の発音が怪しく、でし、まし、しゅになることが多い。ソアリスに注意されるので、人の語尾を真似てしまう。

 おとうさま、おかあさまは言えるのだが、おにいさま、おねえさまは怪しく、おにいちゃま、おにいたま、おにいしゃまになったりもする。皆、言えるようになるまでそのままでいいと、ソアリスも注意はしない。

「あやしくないよ、ねえ、おにいちゃま?おねえちゃま?」
「もちろんだ」「良かったぞ」「上手でしたよ」「立派よ」「かっこ良かったわよ」
「ほうら!」

 ソアリスにそっくりの澄ました顔である。

「甘やかしても、カイルスから何も出ませんよ」

 いや、可愛いカイルスが頑張っていただけでも、胸が温かくなると言っても、母には通用しないことは分かっている。

「出るよ、おかあさま、すきすきってでるよ」
「そんなもの出さなくていいわよ」
「ちょんな~」
「でもよく頑張りましたね」
「あいっ!」

 ようやく満足したカイルスはうふふと笑い、ソアリスの片手を握りながら、しな垂れかかっている。非常に幸せそうである。

「騒がしくてすみません」

 アンセムは平謝りしたが、三人ともソアリスの塩対応にはちょっと引っ掛かったが、温かい気持ちでしかない。

 いつも追いかけ回されているソアリスには、いつもの対応である。皆も四六時中追いかけ回されてみなさいと言われれば、黙るしかない。
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