42 / 348
ユリウスの婚約
しおりを挟む
ユリウスもこの件で婚約者を定めた方がいいと感じ、何人かのご令嬢と会い、申し込んだのはルルエ・トエル侯爵令嬢。ルルエも快諾して、婚約が決まった。
トエル侯爵夫妻は穏やかな人柄で、ルルエもそうであった。
きょうだいたちは大人しそうに見え、大丈夫かと心配した。
「だが、自己主張が強過ぎるのも、こだわりが強過ぎるのも駄目だろう?」
「確かに…」
「人柄の良さそうな方ではあるわね…」
「毒を以て毒を制すようなことは出来ないわよね…」
「地獄は見たくない」
ソアリスにソアリスに似た娘をぶつけたら、どうなっても嫌な予感しかしない。
礼儀や成績も優秀であることは前提であるため、決め手はよく笑うことだった。朗らかさで何とか、母と上手くやっていけるのではないかと考えた。
そして、ユリウスが王太子に決まり、婚約と同時に発表された。既に王太子教育は受けていたが、今後はルルエも王太子妃教育を受けることになる。
気になるソアリスとの相性は今のところ…良好である。
「ルルエ・トエルでございます」
「ユリウスをどうぞよろしくお願いしますわね」
「はい、精進して参ります」
「ユリウスは、トエル嬢を愚物から守るのよ」
愚物…阿呆阿呆娘、あっぱらパールのようなことを言っているのだろう。彼女は通うお金がなくなって、学園からも去った。
「…はい」
本心はどう思っているのかは、我慢出来るような性格ではないので、何かあればボロが出るだろうと、ユリウスは思っていた。
「賢そうで可愛い子ね、私の私室辺りはお化けが出るとでも言っておいてね。私のせいで解消したいなんて言われたら、困るもの」
褒めた側から、何てことを言い出すのかと思ったが、ルルエには徐々に知らせていく方がいいだろうとは思っていた。
「呪詛を吐くお化けが出ると?」
「そうそう、王妃の私室の辺りは近付いてはならぬと!」
「でもカイルスが来るだろう?」
母を探してカイルスは私室辺りもよくウロウロしている。お化けが出るのに、幼子がウロウロしているのは、説得力に欠ける。
「カイルスには見えないとか言っておけばいいじゃない。いける、いける」
いける、いけるじゃない!全く直す気はないことは分かっていたが、開き直り過ぎじゃないか?
今のところルルエが私室に近付くような用事もないので、バレてはいない。
アリルとエクルとミフルがルルエをお茶に誘うこともあり、兄しかいないルルエは始めは戸惑っていたが、すっかり打ち解けたようであった。
「皆、ありがとう。ルルエも喜んでいる」
「いえ、このくらいは。お母様はお茶なんて呑気に飲んでいる暇があったら、一気飲みしてお昼寝をしたいと思ってますから、絶対に誘いませんでしょう?」
「っう。そうだな…」
王女が誘うこともあるだろうが、王妃が誘うことはないところをフォローしてくれていたのか。
「普通の令嬢はお茶くらい飲むものですからね」
「お兄様も参加してくださいね」
母があの調子だったので、あまりお茶を飲むという行為に触れて来なかった。
ある日、エクルとルルエがお茶をしているところに参加していたが、ルルエの後方に、母とカイルスが何やらぶつかり合っているのが見える。カイルスが母に突撃しては、投げ捨てられ、再び来いと腕を広げている。
一体何をしているのだ…母親がするような行為ではないことは明らかである。
エクルも気付いたようで、さてどうしようかと考えているのが分かる。
母子が遊んでいることに変わりはないが、あれはどちらかというと、父子だと絵になる光景ではないだろうか。多分、侍女も護衛もこれは父だと思うことにしたような顔をしている。
そもそも、外でしなくてもいいじゃないか。
エクルはお茶は室内にしておけば、良かったと後悔しているところだろう。
「どうかなさいまして?」
ユリウスとエクルはさて、どう答えようかと思っていたら、目線に気付いてしまったようで、ルルエが振り返った。
トエル侯爵夫妻は穏やかな人柄で、ルルエもそうであった。
きょうだいたちは大人しそうに見え、大丈夫かと心配した。
「だが、自己主張が強過ぎるのも、こだわりが強過ぎるのも駄目だろう?」
「確かに…」
「人柄の良さそうな方ではあるわね…」
「毒を以て毒を制すようなことは出来ないわよね…」
「地獄は見たくない」
ソアリスにソアリスに似た娘をぶつけたら、どうなっても嫌な予感しかしない。
礼儀や成績も優秀であることは前提であるため、決め手はよく笑うことだった。朗らかさで何とか、母と上手くやっていけるのではないかと考えた。
そして、ユリウスが王太子に決まり、婚約と同時に発表された。既に王太子教育は受けていたが、今後はルルエも王太子妃教育を受けることになる。
気になるソアリスとの相性は今のところ…良好である。
「ルルエ・トエルでございます」
「ユリウスをどうぞよろしくお願いしますわね」
「はい、精進して参ります」
「ユリウスは、トエル嬢を愚物から守るのよ」
愚物…阿呆阿呆娘、あっぱらパールのようなことを言っているのだろう。彼女は通うお金がなくなって、学園からも去った。
「…はい」
本心はどう思っているのかは、我慢出来るような性格ではないので、何かあればボロが出るだろうと、ユリウスは思っていた。
「賢そうで可愛い子ね、私の私室辺りはお化けが出るとでも言っておいてね。私のせいで解消したいなんて言われたら、困るもの」
褒めた側から、何てことを言い出すのかと思ったが、ルルエには徐々に知らせていく方がいいだろうとは思っていた。
「呪詛を吐くお化けが出ると?」
「そうそう、王妃の私室の辺りは近付いてはならぬと!」
「でもカイルスが来るだろう?」
母を探してカイルスは私室辺りもよくウロウロしている。お化けが出るのに、幼子がウロウロしているのは、説得力に欠ける。
「カイルスには見えないとか言っておけばいいじゃない。いける、いける」
いける、いけるじゃない!全く直す気はないことは分かっていたが、開き直り過ぎじゃないか?
今のところルルエが私室に近付くような用事もないので、バレてはいない。
アリルとエクルとミフルがルルエをお茶に誘うこともあり、兄しかいないルルエは始めは戸惑っていたが、すっかり打ち解けたようであった。
「皆、ありがとう。ルルエも喜んでいる」
「いえ、このくらいは。お母様はお茶なんて呑気に飲んでいる暇があったら、一気飲みしてお昼寝をしたいと思ってますから、絶対に誘いませんでしょう?」
「っう。そうだな…」
王女が誘うこともあるだろうが、王妃が誘うことはないところをフォローしてくれていたのか。
「普通の令嬢はお茶くらい飲むものですからね」
「お兄様も参加してくださいね」
母があの調子だったので、あまりお茶を飲むという行為に触れて来なかった。
ある日、エクルとルルエがお茶をしているところに参加していたが、ルルエの後方に、母とカイルスが何やらぶつかり合っているのが見える。カイルスが母に突撃しては、投げ捨てられ、再び来いと腕を広げている。
一体何をしているのだ…母親がするような行為ではないことは明らかである。
エクルも気付いたようで、さてどうしようかと考えているのが分かる。
母子が遊んでいることに変わりはないが、あれはどちらかというと、父子だと絵になる光景ではないだろうか。多分、侍女も護衛もこれは父だと思うことにしたような顔をしている。
そもそも、外でしなくてもいいじゃないか。
エクルはお茶は室内にしておけば、良かったと後悔しているところだろう。
「どうかなさいまして?」
ユリウスとエクルはさて、どう答えようかと思っていたら、目線に気付いてしまったようで、ルルエが振り返った。
4,118
お気に入りに追加
7,625
あなたにおすすめの小説
「だから結婚は君としただろう?」
イチイ アキラ
恋愛
ホンス伯爵家にはプリシラとリリアラという二人の娘がいた。
黒髪に茶色の瞳の地味なプリシラと、金髪で明るい色彩なリリアラ。両親は妹のリリアラを贔屓していた。
救いは、祖父母伯爵は孫をどちらも愛していたこと。大事にしていた…のに。
プリシラは幼い頃より互いに慕い合うアンドリューと結婚し、ホンス伯爵家を継ぐことになっていた。
それを。
あと一ヶ月後には結婚式を行うことになっていたある夜。
アンドリューの寝台に一糸まとわぬリリアラの姿があった。リリアラは、彼女も慕っていたアンドリューとプリシラが結婚するのが気に入らなかったのだ。自分は格下の子爵家に嫁がねばならないのに、姉は美しいアンドリューと結婚して伯爵家も手に入れるだなんて。
…そうして。リリアラは見事に伯爵家もアンドリューも手に入れた。
けれどアンドリューは改めての初夜の夜に告げる。
「君を愛することはない」
と。
わがまま妹に寝取られた物語ですが、寝取られた男性がそのまま流されないお話。そんなことしたら幸せになれるはずがないお話。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
婚約者の断罪
玉響
恋愛
ミリアリア・ビバーナム伯爵令嬢には、最愛の人がいる。婚約者である、バイロン・ゼフィランサス侯爵令息だ。
見目麗しく、令嬢たちからの人気も高いバイロンはとても優しく、ミリアリアは幸せな日々を送っていた。
しかし、バイロンが別の令嬢と密会しているとの噂を耳にする。
親友のセシリア・モナルダ伯爵夫人に相談すると、気の強いセシリアは浮気現場を抑えて、懲らしめようと画策を始めるが………。
もう尽くして耐えるのは辞めます!!
月居 結深
恋愛
国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。
婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。
こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?
小説家になろうの方でも公開しています。
2024/08/27
なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。
悲劇の令嬢を救いたい、ですか。忠告はしましたので、あとはお好きにどうぞ。
ふまさ
恋愛
「──馬鹿馬鹿しい。何だ、この調査報告書は」
ぱさっ。
伯爵令息であるパーシーは、テーブルに三枚に束ねられた紙をほうった。向かい側に座る伯爵令嬢のカーラは、静かに口を開いた。
「きちんと目は通してもらえましたか?」
「むろんだ。そのうえで、もう一度言わせてもらうよ。馬鹿馬鹿しい、とね。そもそもどうして、きみは探偵なんか雇ってまで、こんなことをしたんだ?」
ざわざわ。ざわざわ。
王都内でも評判のカフェ。昼時のいまは、客で溢れかえっている。
「──女のカン、というやつでしょうか」
「何だ、それは。素直に言ったら少しは可愛げがあるのに」
「素直、とは」
「婚約者のぼくに、きみだけを見てほしいから、こんなことをしました、とかね」
カーラは一つため息をつき、確認するようにもう一度訊ねた。
「きちんとその調査報告書に目を通されたうえで、あなたはわたしの言っていることを馬鹿馬鹿しいと、信じないというのですね?」
「き、きみを馬鹿馬鹿しいとは言ってないし、きみを信じていないわけじゃない。でも、これは……」
カーラは「わかりました」と、調査報告書を手に取り、カバンにしまった。
「それではどうぞ、お好きになさいませ」
【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。
川嶋マサヒロ
恋愛
「僕たちの婚約を破棄しよう」
愛しき婚約者は無情にも、予測していた言葉を口にした。
伯爵令嬢のバシュラール・ディアーヌは婚約破棄を宣告されてしまう。
「あの女のせいです」
兄は怒り――。
「それほどの話であったのか……」
――父は呆れた。
そして始まる貴族同士の駆け引き。
「ディアーヌの執務室だけど、引き払うように通達を出してくれ。彼女も今は、身の置き所がないだろうしね」
「我が家との取引を中止する? いつでも再開できるように、受け入れ体勢は維持するように」
「決闘か……、子供のころ以来だよ。ワクワクするなあ」
令嬢ディアーヌは、残酷な現実を覆せるのか?
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる