私のバラ色ではない人生

野村にれ

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アリルの婚約

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 だが、楽し気な妻たちを横目に、夫たちは関わりはあるのだが、親しく話したことがなく、気まずい空気が流れている。リズの夫、ミアト・バーセムは、アンセムより二つ年上で、騎士団の副団長を務めている。

 アンセムも筋肉質ではあるが、ミアトは筋肉隆々とした身体つきで大きい。

「妻が申し訳ありません」
「いえ、こちらもりんごジュースを強請っているようで」
「っあ、あの…それは」

 ミアトは大きな身体を小さくさせて、恐縮した。

「いや、困るのも無理はない。毎回、言っているのか?」
「はい、お会いする際はほぼ…」

 あの顔はやっぱりそうだと思った、王妃の願いを断るのも難儀だろう。

「ですが、妻が悪いのです。私がりんごも片手で潰せるのだと話して、握り潰したりんごでジュースを飲んでみたいと王妃陛下が言われたそうで、搾りたて?握りたて?じゃないと、盛り上がったようでして」
「ああ…想像が出来る…」
「ええ…」
「嫌なことや駄目なことは、きっぱり断ってくれていい。すまないな」
「いいえ、私は気を使えるような細かい人間ではないので、王妃陛下の性格は有難いと思っております」
「そうか、それならいいのだが…」

 ソアリスの方を見ると、なぜか祝いに肩車してやろうという話になっており、しかもアリルはドレスだからと、ルーファに向かって、さあ!と言いながら腕を広げており、ルーファも侍女もまたあわあわとしている。

「肩車でしたら、私が!」

 立ち上がったのはミオトである。

「そうだな、公爵に敵う者はおるまい」

 公爵も息子にさあ!と腕を広げ、ルーファは困惑した顔になっており、幼子ではないので、恥ずかしいのだろうが、止める者がいない。

 仕方なくルーファは肩車されることになり、顔を両手で覆ってしまっている。

「いいなぁ、公爵の肩車…」
「ソアリス、強請ってはならぬぞ」
「………はい」
「何だ、今の間は!」

 ソアリスはそっと目を逸らした。アリルもドレスを握りしめて、ルーファを羨ましそうに見ている。

「ドレスじゃなかったらっ!」
「アリルは、後で父様がしよう」
「………はい」
「何だ、今の間は!絶対、公爵にして貰いたいって顔じゃないか!」
「王女殿下も、今度ドレスではない際に」
「っな」
「まあ、本当ですか?楽しみにしております」

 そんなやり取りをしていると、扉が叩かれて、護衛が確認に向かうと、同時に入って来たのは追っ掛けである。

「おかあしゃま―――!!」
「カイルス…皆様にご挨拶が先でしょう?」

 カイルスは母に言われて、ピシッと気をつけをした。

「かいるす・ぐれんばれんでし」

 カイルスは言葉は達者だが、上手く話すのは苦手なままであった。皆は可愛いから、そのままでいて欲しいと溺愛している。

 バーセム一家も整列して、自己紹介をし、カイルスはいつものソアリスの膝に乗ったが、ソアリスはそうだと、何かひらめいた顔をした。

「カイルス、肩車してあげる」
「かちゃぐるま?」

 ソアリスはカイルスをひょいと肩に乗せて、おねえさまおめでとう、ルーファさまおめでとう、リズよろしくね、公爵様もよろしくおねがいしますと、言うように指示を出し始めた。

「おねえしゃま、おめでとう」
「るーふぁしゃま、おめでとう」
「りず、よろちくね」
「こーしゃくしゃま、よろちくおねがいしまし」

 完全に言わされているだけだが、その姿に皆は胸を押さえており、ミオトは胸が痛いとまで言い出し、素敵な顔合わせは終わった。

 そして、皆は後からソアリスの嬉しい誉め言葉「力持ちですね」と言う瞬間だったことに気付き、ああ…と後悔することになった。

 その後、アリルはルーファとの交流のために、バーセム公爵邸に訪れることになった。リズは後はお若いお二人で、ぐふふと言う声が聞こえそうな顔で去って行き、さすがソアリスの友人である。ちなみに侍女と護衛がいるので、二人きりではない。

 ルーファは穏やかで、意外と話をするのが好きな令息である。共通点であるソアリスの話で、話は弾み、賑やかな声にリズは頬が緩みっぱなしだった。

 まだ二人とも学園にも通っておらず、護衛の関係もあるので、公爵邸と王宮で会うことばかりだが、お茶とお菓子とお喋りがあれば、時間はあっという間に過ぎていく、仲のいい二人となった。
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