35 / 348
アリルの婚約
しおりを挟む
だが、楽し気な妻たちを横目に、夫たちは関わりはあるのだが、親しく話したことがなく、気まずい空気が流れている。リズの夫、ミアト・バーセムは、アンセムより二つ年上で、騎士団の副団長を務めている。
アンセムも筋肉質ではあるが、ミアトは筋肉隆々とした身体つきで大きい。
「妻が申し訳ありません」
「いえ、こちらもりんごジュースを強請っているようで」
「っあ、あの…それは」
ミアトは大きな身体を小さくさせて、恐縮した。
「いや、困るのも無理はない。毎回、言っているのか?」
「はい、お会いする際はほぼ…」
あの顔はやっぱりそうだと思った、王妃の願いを断るのも難儀だろう。
「ですが、妻が悪いのです。私がりんごも片手で潰せるのだと話して、握り潰したりんごでジュースを飲んでみたいと王妃陛下が言われたそうで、搾りたて?握りたて?じゃないと、盛り上がったようでして」
「ああ…想像が出来る…」
「ええ…」
「嫌なことや駄目なことは、きっぱり断ってくれていい。すまないな」
「いいえ、私は気を使えるような細かい人間ではないので、王妃陛下の性格は有難いと思っております」
「そうか、それならいいのだが…」
ソアリスの方を見ると、なぜか祝いに肩車してやろうという話になっており、しかもアリルはドレスだからと、ルーファに向かって、さあ!と言いながら腕を広げており、ルーファも侍女もまたあわあわとしている。
「肩車でしたら、私が!」
立ち上がったのはミオトである。
「そうだな、公爵に敵う者はおるまい」
公爵も息子にさあ!と腕を広げ、ルーファは困惑した顔になっており、幼子ではないので、恥ずかしいのだろうが、止める者がいない。
仕方なくルーファは肩車されることになり、顔を両手で覆ってしまっている。
「いいなぁ、公爵の肩車…」
「ソアリス、強請ってはならぬぞ」
「………はい」
「何だ、今の間は!」
ソアリスはそっと目を逸らした。アリルもドレスを握りしめて、ルーファを羨ましそうに見ている。
「ドレスじゃなかったらっ!」
「アリルは、後で父様がしよう」
「………はい」
「何だ、今の間は!絶対、公爵にして貰いたいって顔じゃないか!」
「王女殿下も、今度ドレスではない際に」
「っな」
「まあ、本当ですか?楽しみにしております」
そんなやり取りをしていると、扉が叩かれて、護衛が確認に向かうと、同時に入って来たのは追っ掛けである。
「おかあしゃま―――!!」
「カイルス…皆様にご挨拶が先でしょう?」
カイルスは母に言われて、ピシッと気をつけをした。
「かいるす・ぐれんばれんでし」
カイルスは言葉は達者だが、上手く話すのは苦手なままであった。皆は可愛いから、そのままでいて欲しいと溺愛している。
バーセム一家も整列して、自己紹介をし、カイルスはいつものソアリスの膝に乗ったが、ソアリスはそうだと、何かひらめいた顔をした。
「カイルス、肩車してあげる」
「かちゃぐるま?」
ソアリスはカイルスをひょいと肩に乗せて、おねえさまおめでとう、ルーファさまおめでとう、リズよろしくね、公爵様もよろしくおねがいしますと、言うように指示を出し始めた。
「おねえしゃま、おめでとう」
「るーふぁしゃま、おめでとう」
「りず、よろちくね」
「こーしゃくしゃま、よろちくおねがいしまし」
完全に言わされているだけだが、その姿に皆は胸を押さえており、ミオトは胸が痛いとまで言い出し、素敵な顔合わせは終わった。
そして、皆は後からソアリスの嬉しい誉め言葉「力持ちですね」と言う瞬間だったことに気付き、ああ…と後悔することになった。
その後、アリルはルーファとの交流のために、バーセム公爵邸に訪れることになった。リズは後はお若いお二人で、ぐふふと言う声が聞こえそうな顔で去って行き、さすがソアリスの友人である。ちなみに侍女と護衛がいるので、二人きりではない。
ルーファは穏やかで、意外と話をするのが好きな令息である。共通点であるソアリスの話で、話は弾み、賑やかな声にリズは頬が緩みっぱなしだった。
まだ二人とも学園にも通っておらず、護衛の関係もあるので、公爵邸と王宮で会うことばかりだが、お茶とお菓子とお喋りがあれば、時間はあっという間に過ぎていく、仲のいい二人となった。
アンセムも筋肉質ではあるが、ミアトは筋肉隆々とした身体つきで大きい。
「妻が申し訳ありません」
「いえ、こちらもりんごジュースを強請っているようで」
「っあ、あの…それは」
ミアトは大きな身体を小さくさせて、恐縮した。
「いや、困るのも無理はない。毎回、言っているのか?」
「はい、お会いする際はほぼ…」
あの顔はやっぱりそうだと思った、王妃の願いを断るのも難儀だろう。
「ですが、妻が悪いのです。私がりんごも片手で潰せるのだと話して、握り潰したりんごでジュースを飲んでみたいと王妃陛下が言われたそうで、搾りたて?握りたて?じゃないと、盛り上がったようでして」
「ああ…想像が出来る…」
「ええ…」
「嫌なことや駄目なことは、きっぱり断ってくれていい。すまないな」
「いいえ、私は気を使えるような細かい人間ではないので、王妃陛下の性格は有難いと思っております」
「そうか、それならいいのだが…」
ソアリスの方を見ると、なぜか祝いに肩車してやろうという話になっており、しかもアリルはドレスだからと、ルーファに向かって、さあ!と言いながら腕を広げており、ルーファも侍女もまたあわあわとしている。
「肩車でしたら、私が!」
立ち上がったのはミオトである。
「そうだな、公爵に敵う者はおるまい」
公爵も息子にさあ!と腕を広げ、ルーファは困惑した顔になっており、幼子ではないので、恥ずかしいのだろうが、止める者がいない。
仕方なくルーファは肩車されることになり、顔を両手で覆ってしまっている。
「いいなぁ、公爵の肩車…」
「ソアリス、強請ってはならぬぞ」
「………はい」
「何だ、今の間は!」
ソアリスはそっと目を逸らした。アリルもドレスを握りしめて、ルーファを羨ましそうに見ている。
「ドレスじゃなかったらっ!」
「アリルは、後で父様がしよう」
「………はい」
「何だ、今の間は!絶対、公爵にして貰いたいって顔じゃないか!」
「王女殿下も、今度ドレスではない際に」
「っな」
「まあ、本当ですか?楽しみにしております」
そんなやり取りをしていると、扉が叩かれて、護衛が確認に向かうと、同時に入って来たのは追っ掛けである。
「おかあしゃま―――!!」
「カイルス…皆様にご挨拶が先でしょう?」
カイルスは母に言われて、ピシッと気をつけをした。
「かいるす・ぐれんばれんでし」
カイルスは言葉は達者だが、上手く話すのは苦手なままであった。皆は可愛いから、そのままでいて欲しいと溺愛している。
バーセム一家も整列して、自己紹介をし、カイルスはいつものソアリスの膝に乗ったが、ソアリスはそうだと、何かひらめいた顔をした。
「カイルス、肩車してあげる」
「かちゃぐるま?」
ソアリスはカイルスをひょいと肩に乗せて、おねえさまおめでとう、ルーファさまおめでとう、リズよろしくね、公爵様もよろしくおねがいしますと、言うように指示を出し始めた。
「おねえしゃま、おめでとう」
「るーふぁしゃま、おめでとう」
「りず、よろちくね」
「こーしゃくしゃま、よろちくおねがいしまし」
完全に言わされているだけだが、その姿に皆は胸を押さえており、ミオトは胸が痛いとまで言い出し、素敵な顔合わせは終わった。
そして、皆は後からソアリスの嬉しい誉め言葉「力持ちですね」と言う瞬間だったことに気付き、ああ…と後悔することになった。
その後、アリルはルーファとの交流のために、バーセム公爵邸に訪れることになった。リズは後はお若いお二人で、ぐふふと言う声が聞こえそうな顔で去って行き、さすがソアリスの友人である。ちなみに侍女と護衛がいるので、二人きりではない。
ルーファは穏やかで、意外と話をするのが好きな令息である。共通点であるソアリスの話で、話は弾み、賑やかな声にリズは頬が緩みっぱなしだった。
まだ二人とも学園にも通っておらず、護衛の関係もあるので、公爵邸と王宮で会うことばかりだが、お茶とお菓子とお喋りがあれば、時間はあっという間に過ぎていく、仲のいい二人となった。
4,300
お気に入りに追加
7,625
あなたにおすすめの小説
「だから結婚は君としただろう?」
イチイ アキラ
恋愛
ホンス伯爵家にはプリシラとリリアラという二人の娘がいた。
黒髪に茶色の瞳の地味なプリシラと、金髪で明るい色彩なリリアラ。両親は妹のリリアラを贔屓していた。
救いは、祖父母伯爵は孫をどちらも愛していたこと。大事にしていた…のに。
プリシラは幼い頃より互いに慕い合うアンドリューと結婚し、ホンス伯爵家を継ぐことになっていた。
それを。
あと一ヶ月後には結婚式を行うことになっていたある夜。
アンドリューの寝台に一糸まとわぬリリアラの姿があった。リリアラは、彼女も慕っていたアンドリューとプリシラが結婚するのが気に入らなかったのだ。自分は格下の子爵家に嫁がねばならないのに、姉は美しいアンドリューと結婚して伯爵家も手に入れるだなんて。
…そうして。リリアラは見事に伯爵家もアンドリューも手に入れた。
けれどアンドリューは改めての初夜の夜に告げる。
「君を愛することはない」
と。
わがまま妹に寝取られた物語ですが、寝取られた男性がそのまま流されないお話。そんなことしたら幸せになれるはずがないお話。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
婚約者の断罪
玉響
恋愛
ミリアリア・ビバーナム伯爵令嬢には、最愛の人がいる。婚約者である、バイロン・ゼフィランサス侯爵令息だ。
見目麗しく、令嬢たちからの人気も高いバイロンはとても優しく、ミリアリアは幸せな日々を送っていた。
しかし、バイロンが別の令嬢と密会しているとの噂を耳にする。
親友のセシリア・モナルダ伯爵夫人に相談すると、気の強いセシリアは浮気現場を抑えて、懲らしめようと画策を始めるが………。
もう尽くして耐えるのは辞めます!!
月居 結深
恋愛
国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。
婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。
こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?
小説家になろうの方でも公開しています。
2024/08/27
なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。
悲劇の令嬢を救いたい、ですか。忠告はしましたので、あとはお好きにどうぞ。
ふまさ
恋愛
「──馬鹿馬鹿しい。何だ、この調査報告書は」
ぱさっ。
伯爵令息であるパーシーは、テーブルに三枚に束ねられた紙をほうった。向かい側に座る伯爵令嬢のカーラは、静かに口を開いた。
「きちんと目は通してもらえましたか?」
「むろんだ。そのうえで、もう一度言わせてもらうよ。馬鹿馬鹿しい、とね。そもそもどうして、きみは探偵なんか雇ってまで、こんなことをしたんだ?」
ざわざわ。ざわざわ。
王都内でも評判のカフェ。昼時のいまは、客で溢れかえっている。
「──女のカン、というやつでしょうか」
「何だ、それは。素直に言ったら少しは可愛げがあるのに」
「素直、とは」
「婚約者のぼくに、きみだけを見てほしいから、こんなことをしました、とかね」
カーラは一つため息をつき、確認するようにもう一度訊ねた。
「きちんとその調査報告書に目を通されたうえで、あなたはわたしの言っていることを馬鹿馬鹿しいと、信じないというのですね?」
「き、きみを馬鹿馬鹿しいとは言ってないし、きみを信じていないわけじゃない。でも、これは……」
カーラは「わかりました」と、調査報告書を手に取り、カバンにしまった。
「それではどうぞ、お好きになさいませ」
【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。
川嶋マサヒロ
恋愛
「僕たちの婚約を破棄しよう」
愛しき婚約者は無情にも、予測していた言葉を口にした。
伯爵令嬢のバシュラール・ディアーヌは婚約破棄を宣告されてしまう。
「あの女のせいです」
兄は怒り――。
「それほどの話であったのか……」
――父は呆れた。
そして始まる貴族同士の駆け引き。
「ディアーヌの執務室だけど、引き払うように通達を出してくれ。彼女も今は、身の置き所がないだろうしね」
「我が家との取引を中止する? いつでも再開できるように、受け入れ体勢は維持するように」
「決闘か……、子供のころ以来だよ。ワクワクするなあ」
令嬢ディアーヌは、残酷な現実を覆せるのか?
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
なにひとつ、まちがっていない。
いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。
それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。
――なにもかもを間違えた。
そう後悔する自分の将来の姿が。
Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの?
A 作者もそこまで考えていません。
どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる