私のバラ色ではない人生

野村にれ

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強愛

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 第六子は男児で、まるでアンセムの生き写しだった。ソアリスは自分に似なくて良かったと思う反面、怨念を感じた。

 カイルスと名付けられ、きょうだいと年が離れているので、構いたくて仕方がない。おかげでソアリスは、皆がお母さんとお父さんよと、また押し付けている。

 しかし、カイルスは言葉が達者で、動けるようになると母にべったり。突撃はもちろん、母の膝の上が大好きなのだ。

 ソアリスも邪魔にならなければいいかと、膝に乗せて書類をバッサバッサと裁いて行く。傍から見れば、かっこいい母親となっていた。

 それでも、ソアリスも暇ではない。公務も鍛錬も、木登りもログハウスもブランコもある。姿が見えないと、おとうしゃま&おにいしゃま&おねえしゃま攻撃を開始し、皆の心臓をズッキューンと撃ち抜いていった。

「おかあしゃまはどこ?かいるす、さがちてるの」
「いっちょにさがちて?」
「おかあしゃまーーー!!」

 アンセムの側近のオーランとクイオにもすり寄って、一緒に母を探させ、母との時間が取れれば、母を独り占めする。非常に母への愛が重い末息子となった。

 現在、ユリウス14歳、マイノス13歳、アリル11歳、エクル9歳、ミフル7歳、カイルス1歳の布陣である。

 ある日、剣術の稽古を終えたユリウスとマイノス。庭を見ていて、ユリウスはあることを思い出した。

「この前、母上とカイルスが庭で遊んでいたんだが」
「何かあったのか」
「母上が大きなカエルをだな、捕まえたようで」
「カエル…」
「カエルが逃げ出そうと、ぴょんと母上の頭に乗ってだな」
「似合いそうだな…」

 王妃の頭にカエルが乗ることくらいで、驚くことはないユリウスとマイノス。

「ああ、立ち上がって腰に手を当てて、カイルスに王様みたいだろうって、いつもの悪魔のような高笑いを…」
「あれを…」

 二人も幾度となく耳にした、悪魔のような高笑い。ハハハハハから、フハハハハ、グヘヘヘヘなどとバリエーションも豊富となっている。

「カイルスは?」
「キラキラした目で拍手していた」
「…ああ」
「おろおろするメイドと従者に、カイルスが皆も拍手するように言ったようで」
「…ああ」
「ぼくは、おかあしゃまみたいになるんだって」
「…」
「そしてカエルはどこかに飛んで行って、あの二人はそこで、そのままぐーぐー寝たんだ。カイルスは母上の胸の上で幸せそうに寝ていた…」
「…それは」

 母・ソアリスは公務以外では、急に寝ることがある。父によると、子どもたちと遊び疲れて、そのまま眠ってしまい、部屋に転がっていることも多かったそうだ。

 そういえば、そうだったかもと、思い返すくらい普通のことであった。

「メイドと従者が揺すっても、二人は全く起きなくて」
「あれ、起きないんだよな」

 マイノスも急に眠った母に構って貰いたくて、揺すったことは数知れず。しかし、一度も起こせたことはない。

「つまり、二人は似ていると言いたいんだな?」
「ああ、顔は父上にそっくりだが、中身はおそらく一番似ているのではないか」
「危険じゃないか」

 ユリウスとマイノスは成長して、さすがにソアリスの口が悪いこと、考え方が過激であることを理解している。むしろ、王妃として澄ましている顔を見ると、実際の感情が想像出来てしまうくらいである。

「そうだ!母上とカイルスが一緒になったら、被害が増えるのだ。しかもあの顔でされたら、マイノス耐えられるか?」
「おぞましい」
「まだ幼いが、どこかで矯正しなくてはならないような気がする…いや、いいのか?いや、良くないよな?」
「悪いことかと言われると、そうとも言い切れない。しかも、可愛いんだよな…カイルスは」
「それだよな…」

 うーんとユリウスとマイノスは腕を組んで、黙り込むしかなかった。
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