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アンセムはリベル殿下からのお祝いの手紙を読んで、また気が重くなり、ソアリスに相談することにした。
私室の近付くと、ソアリスの声と、何かを叩く破裂音がした。
ソアリスの私室は、人通りの少ない場所にしている。万が一聞いても、聞かなかったことにすることがプロの仕事である。
『それは前に駄目だと言っただろうが!』
パ―――ン、パン、パパパーン、ドス
『言い回しを変えて、持って来ても同じなんだよ!分からないと思ってんのか!くせえ口で話すんじゃねえ!』
今日も絶好調に鬱憤を晴らしている。一緒に来た側近であるオーランも、小さく頷いている。
「補助金だったか?」
「おそらく、そうだと思います」
ある貴族が新しい工場の建設の補助金を申請したが、まだ年数も経っていない工場で、ソアリスはそれよりも衛生管理を徹底するように言ったはずが、言い回しを変えて、また出して来たのだろう。
衛生管理をするよりも、新しい工場を建てればいいと思っていることに怒っているのだ。そのような者はまた同じことを繰り返す。
「誰かを監査に向かわせてくれ」
「承知しました」
ドアを叩くと、ソアリスの声はスンと静かになり、何もなかったかのように澄ました顔で出て来た。
「いかがしましたか?」
「相談があって」
「ではどうぞ」
破裂音の原因だろうと思われる、硬そうなクッションが転がってはいるが、見なかったことにするのが、こちらも礼儀である。
「ララシャ妃が今度はエクルに会いたいと言っている…そうだ」
「はあ…まだ足りないの?」
以前、相談に来たリベルから、戻ってから話して理解して貰えたこと、迷惑を掛けて申し訳なかったという文を貰い、ソアリスにも話してあった。
「養子や婚約者にとは言っていないが…」
「はあ…あの夫婦は殿下を友達だとでも思っているのでしょうかね?」
それはアンセムも考えていた、婚約を解消した相手に、よくも夫婦揃って会いに来るものだと、常々思っている。
「リベル殿下は前はもう少し、しっかりされた方だと思っていたんだがな…」
リベル殿下とはララシャと一緒ではなかったが、何度か婚約解消になる前に会っており、王太子殿下の支えとなっており、羨ましい関係だとすら思っていた。
アンセムには三歳年上の姉・アイリーンがいるが、クロンデール王国は、男女共に王にはなれるのだが、物心が付く頃には王にはならないと言い、周りを困らせるような子であった。
アンセムが生まれると、アイリーンはこの子が王になるべきだと神が言っているなどと言い、両陛下もその方がいいかと、了承することにした。
アイリーンは王族は堅苦しいからと、現在は他国の貴族に嫁いでいる。実は王家とロアンスラー公爵家との約束は当初はアイリーンと、ララシャとソアリスの兄・サイラスの予定だったのだが、なかったことになっていた。
ゆえにララシャは生まれた時から、アンセムの婚約者となっていたのだ。
成長してから自由なアイリーンと、気難しいサイラスは絶対に合わなかった、いずれ婚約解消になっていただろうというのが、皆の見解であった。
ただ、まさかアンセムも婚約解消となるとは思っていなかったが、今となってはソアリスで良かったと思っている者の方が多い。思っていないのはロアンスラー公爵夫妻くらいだろう。
「雑巾だと思って話していいなら、同席しますよ」
「雑巾?もう少し、小動物くらいにはならないか?」
「小動物なんて可愛いものではないでしょう!臭い雑巾です」
「臭い…」
それでも一人で会うのはもう沢山だったため、仕方ないと思い、ようやくソアリスはララシャに会うことになった。
私室の近付くと、ソアリスの声と、何かを叩く破裂音がした。
ソアリスの私室は、人通りの少ない場所にしている。万が一聞いても、聞かなかったことにすることがプロの仕事である。
『それは前に駄目だと言っただろうが!』
パ―――ン、パン、パパパーン、ドス
『言い回しを変えて、持って来ても同じなんだよ!分からないと思ってんのか!くせえ口で話すんじゃねえ!』
今日も絶好調に鬱憤を晴らしている。一緒に来た側近であるオーランも、小さく頷いている。
「補助金だったか?」
「おそらく、そうだと思います」
ある貴族が新しい工場の建設の補助金を申請したが、まだ年数も経っていない工場で、ソアリスはそれよりも衛生管理を徹底するように言ったはずが、言い回しを変えて、また出して来たのだろう。
衛生管理をするよりも、新しい工場を建てればいいと思っていることに怒っているのだ。そのような者はまた同じことを繰り返す。
「誰かを監査に向かわせてくれ」
「承知しました」
ドアを叩くと、ソアリスの声はスンと静かになり、何もなかったかのように澄ました顔で出て来た。
「いかがしましたか?」
「相談があって」
「ではどうぞ」
破裂音の原因だろうと思われる、硬そうなクッションが転がってはいるが、見なかったことにするのが、こちらも礼儀である。
「ララシャ妃が今度はエクルに会いたいと言っている…そうだ」
「はあ…まだ足りないの?」
以前、相談に来たリベルから、戻ってから話して理解して貰えたこと、迷惑を掛けて申し訳なかったという文を貰い、ソアリスにも話してあった。
「養子や婚約者にとは言っていないが…」
「はあ…あの夫婦は殿下を友達だとでも思っているのでしょうかね?」
それはアンセムも考えていた、婚約を解消した相手に、よくも夫婦揃って会いに来るものだと、常々思っている。
「リベル殿下は前はもう少し、しっかりされた方だと思っていたんだがな…」
リベル殿下とはララシャと一緒ではなかったが、何度か婚約解消になる前に会っており、王太子殿下の支えとなっており、羨ましい関係だとすら思っていた。
アンセムには三歳年上の姉・アイリーンがいるが、クロンデール王国は、男女共に王にはなれるのだが、物心が付く頃には王にはならないと言い、周りを困らせるような子であった。
アンセムが生まれると、アイリーンはこの子が王になるべきだと神が言っているなどと言い、両陛下もその方がいいかと、了承することにした。
アイリーンは王族は堅苦しいからと、現在は他国の貴族に嫁いでいる。実は王家とロアンスラー公爵家との約束は当初はアイリーンと、ララシャとソアリスの兄・サイラスの予定だったのだが、なかったことになっていた。
ゆえにララシャは生まれた時から、アンセムの婚約者となっていたのだ。
成長してから自由なアイリーンと、気難しいサイラスは絶対に合わなかった、いずれ婚約解消になっていただろうというのが、皆の見解であった。
ただ、まさかアンセムも婚約解消となるとは思っていなかったが、今となってはソアリスで良かったと思っている者の方が多い。思っていないのはロアンスラー公爵夫妻くらいだろう。
「雑巾だと思って話していいなら、同席しますよ」
「雑巾?もう少し、小動物くらいにはならないか?」
「小動物なんて可愛いものではないでしょう!臭い雑巾です」
「臭い…」
それでも一人で会うのはもう沢山だったため、仕方ないと思い、ようやくソアリスはララシャに会うことになった。
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