私のバラ色ではない人生

野村にれ

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気晴らし

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「おかあさま~」
「アリル。どうしましたか」

 ソアリスに呼び掛けたのは、6歳になったアリル第一王女。

「わたしも木にのぼります」
「もちろんよ!私がお手本を見せてあげましょう!ハハハハハ!」
「おかあさま、かっこいい」

 悪魔のような高笑いだが、行うことは木登りだ。もはや第一子からの伝統のため、女児でも誰も止められはしない。侍女と護衛がおろおろするだけだ。

 最初はさすがに王太子妃がそのようなことをされてはいけません、王子が怪我をされたらどうするんですかと止めたのだ。

「私は王太子殿下の子どもを産んだ正妃ですのよ?」

 とても傲慢な言葉だが、求めているのは木登りである。結局、止められそうもなく、慌てて王太子を呼んだ。

「止めるんだ、危ないことはしてはいけない」
「この木はとても登り易く、気持ちのいい木です」
「は?」
「私が見ている時しかさせませんし、落ちたら私が受け止めます。何のために鍛えていると思っているのです?」

 運動をしているのは見ていたが、まさか木登りのためだとは思わなかった。

「王太子妃教育でも、してはいけないと言われていませんが?」
「誰も木に登るなどと考えないだろう!」
「まさか、殿下は登れないの?」

 そう言って、ソアリスはアンセムをうわ~信じられないという目で見つめている。この目つきは殺傷能力が非常に高い。

「…王族は登らないんだ」
「どこにも書いてもいないのに?言われてもいないのに?あなたが勝手にそう思っているのではなくて?」
「え?」

 アンセムは何も言えなくなってしまい、両陛下に助けを求めた。

「止めなさい」「そうよ、危ないわ」
「手本を見せますし、落ちたら受け取ます。どこに駄目だと書いてあるのです?最近、決められたことですか?では書類を見せてください、さあ!」

 あまりの気迫に両陛下もたじろいでしまうほどであった。

 両陛下もアンセムからソアリスは王太子妃には相応しくないと思っていること、爆発しない様に鬱憤を晴らすことで、公な場では我慢していることを、大目に見て欲しい。出来れば、見て見ぬ振りをして欲しいと言われていた。

「怪我をして痛みを覚えることも、大事なことではないですか?木登りは攻略し、達成感を味わう第一歩なのです。気晴らしくらいさせても貰えないのですか?横暴ではありませんか?」

 両陛下も謎の理論で説き伏せて、乗馬服ではあるが、慣れた様子で木に登って行き、ユリウスは「おかあさま、すごい」と、キャッキャと喜んでいたが…皆はああ、これは隠れて登っていたのだなと感じたという。

 そして、アンセムはあることを思い出した。

 前にララシャと婚約中に、公爵邸に入ったばかりのメイドが、ソアリスを探していた際、執事に「木は見たのか」と言われていたこと。おそらくソアリスいない=木という暗黙の了解だったのであろう。

 そして、この木がいいのだと自信満々で言っていたように、色んな王宮の木にも登っていたと見られる。

 自分が登って無事だと確認すると、ユリウスに落ちた時の受け身から、手取り足取り教えて、しばらくするとユリウスにも素質があったのか、小猿のように登り始め、二人で木に座る姿はまるで異空間のように酷く美しかった。

 そして、絶対に一人では登らない、雨の後は登らない、怪我をしたらすぐ見せて治療するなどと、子どもたちに指導をしていた。

 ユリウスはもちろん腕や足に擦り傷程度の怪我はした、皆はおろおろと心配した。

「人を傷付けたわけでもない、怪我もせず木に登ろうとは思いあがるな。目標達成への痛みも知るべきだ、そして登った気分は最高なのだ!ハハハハハ!」

 ソアリスは高揚した顔で言い、ユリウスもそうだ!と胸を張り、誰も遠目をするしかなく、言い返せなかった。

 アンセムもこっそり木登りに挑戦したが、うまく登れなかった。

 虫取り観察もまるで先生のように子どもたちを連れて出掛けた、アンセムも付いて行ったが、彼女の手腕にはまるで敵わなかった。

 虫もなかなか捕まえられず、捕まえても強く掴んで弱らせて、子どもたちには可哀想、ソアリスには雑巾を見る目で見られてしまった。

 側近二人のまるでソアリス妃はお父上ですねという言葉に、私は母のように見守っていこうと思うことにした。

 少しずつ、ソアリスの強さを皆が認知していった。
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