私のバラ色ではない人生

野村にれ

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おば

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 従者とメイドが小さなお姫様を連れて、入って来た。お姫様はアンセムを見付けると、ぴょんと抱き付いた。アンセムは会わせたくなかったが、ソアリスは会いたいなら会わせればいいと言い切った。

「おとうしゃま」
「アリル、こちらはお母様のお姉さんと旦那さんだよ」
「はじめまちて、アリル・グレンバレンでしゅ」

「まあ、本当にソアリスにそっくりね」
「本当だ、ララシャにも似ている」

 二人は襲い掛かりそうな雰囲気は無かったが、目を爛々とさせてアリルを見ていた。ララシャは見付けたと言わんばかりの顔だった。

「ちょんなに見られたら、こわい」

 アリルはアンセムに力強く抱き付き、怯えた目で二人を見つめた。

「ごめんなさいね。あまりに可愛いから、見つめてしまったのよ」
「そうでしゅか」
「抱っこさせてくれない?」
「やです、おとうしゃまがいい」
「そ、そう…」

 ララシャは断られるとは全く思っておらず、クロンデール王国側に是非抱いてやってくださいという人もこの場にはいない。

「アリル王女、妻に抱かせては貰えないか」
「やーよ、おかあしゃまは?」

 アリルは人見知りということはないのだが、前の二人に全く興味がない。

「おそとにおしごとだよ」
「えええ!あしょんでほしかったのに。おかあしゃまとあそぶのがいちばんたのちいのよ?」
「そうだな、戻って元気だったら遊んで貰おう」

 ソアリスは子どもにベッタリということはないのだが、遊ぶときはどろんこで遊ぶくらいの気合をみせるゆえ、子どもたちはソアリスが大好きだった。アンセムも息子二人と木登りをする姿は、かっこいいとさえ思った。

「おとうしゃまもおねがいちてくれる?」
「いいよ」
「やったぁ!」

 父娘で楽しい話は進んで行き、ララシャはアリルを自分に懐かせたい、こちらに主導権を戻さなくてはならないと思った。

「お母様に似ているわね」
「よく言われましゅ。うれしいね、おとうしゃま」

 アリルはアンセムに同意するように、にっこり笑った。

「私はお母様のお姉様だから、私にも似てるでしょう?」
「おとうしゃま、このおばににてる?」
「…おば」

 ララシャは"おば"発言にショックを受けているようだった。

 伯母に違いないが、アリルの"おば"は不特定多数のおばさんの"おば"である。ララシャは言われた経験がないのであろう。ソアリスと一つしか違わないのだが、アリルにとっては母以外は"おば"なのだ。

「う~ん、どうかな?アリルはお母様に似ているから、お父様はそう思わないけど」
「うん、わたちもそうおもう。おば、にてないよ。まちがいだよ。はずかちいね」

 くふふふと、無邪気な満面の笑みにララシャは打ち砕かれた。アリルはソアリスに似ていると言われることを誇り思っているのだ。風貌もだが、口ぶりもソアリスにそっくりだった。おばさまではなく、おば発言もおそらく、非公式な場でソアリスが"おば"と言ったのだろう。

 正確には「あんの、ばばあ」だと思うので、むしろ"おば"でもマシだったと思うべきである。

 前にソアリスが「鞭打ちにしてやろうか」と口走って、ユリウスとマイノスの流行となって困ったのだ。ソアリスは私が口が悪いのは分かっていたことでしょうと開き直ったが、子どもの前では気を付けますと反省して、子どもたちの前では絶対に使わない。だが、聞いてしまうことはある。

 結局、アリルの悪意のない"おば"発言でララシャの情熱は収まったのか、二人はまた来ると帰って行った。

 それでもララシャはどうしてもアリルを欲しいと思った、正攻法では側にいることも、連れ帰ることも出来ないために、両親に泣きついた。

「アリルをルイス殿下の妻にするために、側に置きたいの」
「それはいい考えね」
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