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約束
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「そなたのせいで皆を死に追いやってもか」
「どこまで対象になるのでしょうか」
「逃がす気か?」
「親戚や邸で働く者は関係ありません」
「それは通らぬ!」
アンセムは好いた相手がいるのは可哀想だと思ったが、茶の席でも覇気のない姿に、腹を括った自分とは違って、まだ逃げようとするソアリスに苛立っていた。
王命とまではいかないが、それに近い結婚となっている。
「親戚と邸の者はお許し願えませんか」
「家族は良いのか」
「優秀だそうですから、自分たちでどうにかするでしょう。私は覚悟は出来ておりますので」
ソアリスは幼い頃からララシャと比べられて、貴族令嬢として劣っていると思っていることを、アンセムは王太子妃教育もララシャよりも順調であることから、分かっていなかった。
そして口が悪いことで、欠陥品扱いされていることも知らなかった。
「死ぬ覚悟か」
「はい、逃げようかとも思いましたが、監視が厳しくて、当の昔に諦めました」
「処刑よりもか」
「死ぬことも考えましたが、自分の罪は見届けなくてはなりませんから」
その日、邸に帰ると部屋に閉じ込められることになった。
結婚の日までこのまま過ごすように言われたのだ。殿下に処刑と言われて、怯んだのだろう。王太子妃になって粗相をしても同じことになるのに、寿命を延ばしたいのだと笑った。
そもそもの始まりは両親のせいであった。ロアンスラー公爵家と王家はある約束をしていた。
ロアンスラー公爵家は陛下の妹の嫁ぎ先の筆頭だった。嫡男であったキリスに一目ぼれした隣国の王女だった母を持つ侯爵家のマルシャが求婚し、自分たちの婚姻を認めてもらうために、王子なら娘を、王女なら息子をに差し出す約束をしていたのだ。
王女もキリスも恋仲という訳では無かったため、いざこざは無かったが、王太子と一つ年下で生まれたララシャは将来が決まっていたのだ。マルシャはララシャを王太子妃にするために育てた。それを母国の者に奪われることになるとは思っていなかった。自分のしたことが返って来たのだ。
それでも最悪ソアリスがいると奮い立たせて、落としどころで両国を納得させたのだ。ララシャは穏やかで大人しい性格だったが、ソアリスはお転婆で口の立つ子であった。一歩下がるような王太子妃には向かいないが、なってもらうしかないのだ。
案の定、帰国すると愛するキリスが項垂れており、ソアリスは嫌だ、だったら家から出て行くと言ったそうだ。ララシャなら結局口だけで無理だろうが、ソアリスなら出て行きかねないと思った。
そして部屋に閉じ込められたソアリスは日に日に、死に侵食されていった。母の怒鳴り声と、兄の文句、父のたしなめているいるようでいない都合のいい言い訳。結婚式で心臓を切り裂いてしまおうかと思ったほどだ。
結婚式の日。眩しいほどの快晴だった。
両親も兄は作り笑顔で何か言っていたが、既にソアリスに言葉は届かなかった。
「しっかり努めるんだぞ」
「ちゃんとしないと、自分に返って来るのよ」
「相応しくないが、やるしかないんだ」
親しくない者には姉のおこぼれ婚と揶揄され、ソアリスの目には誰も喜んでいるようには見えなかった。
この頃のソアリスの心は既に死を迎えていたと言っていい。叫びもがくような過剰な感情はなくなり、何も感じなくなった、目の前にあるものだけこなせばいい。
悪い口すら、開かれることはなかった。
初夜も嬉々とするメイドに念入りに磨かれて寝室に放り込まれたが、処刑できなかった相手と結婚させられて、殿下も来ないだろうと早々に眠った。
「寝ているのか…」
さすがにアンセムも起こしてまで行うことではないと、初夜を諦め、その後はソアリスは自室で眠り始めたために閨は諦めるしかなかった。
そんな日々が続いていたある日、やっと殿下から話があった。
「どこまで対象になるのでしょうか」
「逃がす気か?」
「親戚や邸で働く者は関係ありません」
「それは通らぬ!」
アンセムは好いた相手がいるのは可哀想だと思ったが、茶の席でも覇気のない姿に、腹を括った自分とは違って、まだ逃げようとするソアリスに苛立っていた。
王命とまではいかないが、それに近い結婚となっている。
「親戚と邸の者はお許し願えませんか」
「家族は良いのか」
「優秀だそうですから、自分たちでどうにかするでしょう。私は覚悟は出来ておりますので」
ソアリスは幼い頃からララシャと比べられて、貴族令嬢として劣っていると思っていることを、アンセムは王太子妃教育もララシャよりも順調であることから、分かっていなかった。
そして口が悪いことで、欠陥品扱いされていることも知らなかった。
「死ぬ覚悟か」
「はい、逃げようかとも思いましたが、監視が厳しくて、当の昔に諦めました」
「処刑よりもか」
「死ぬことも考えましたが、自分の罪は見届けなくてはなりませんから」
その日、邸に帰ると部屋に閉じ込められることになった。
結婚の日までこのまま過ごすように言われたのだ。殿下に処刑と言われて、怯んだのだろう。王太子妃になって粗相をしても同じことになるのに、寿命を延ばしたいのだと笑った。
そもそもの始まりは両親のせいであった。ロアンスラー公爵家と王家はある約束をしていた。
ロアンスラー公爵家は陛下の妹の嫁ぎ先の筆頭だった。嫡男であったキリスに一目ぼれした隣国の王女だった母を持つ侯爵家のマルシャが求婚し、自分たちの婚姻を認めてもらうために、王子なら娘を、王女なら息子をに差し出す約束をしていたのだ。
王女もキリスも恋仲という訳では無かったため、いざこざは無かったが、王太子と一つ年下で生まれたララシャは将来が決まっていたのだ。マルシャはララシャを王太子妃にするために育てた。それを母国の者に奪われることになるとは思っていなかった。自分のしたことが返って来たのだ。
それでも最悪ソアリスがいると奮い立たせて、落としどころで両国を納得させたのだ。ララシャは穏やかで大人しい性格だったが、ソアリスはお転婆で口の立つ子であった。一歩下がるような王太子妃には向かいないが、なってもらうしかないのだ。
案の定、帰国すると愛するキリスが項垂れており、ソアリスは嫌だ、だったら家から出て行くと言ったそうだ。ララシャなら結局口だけで無理だろうが、ソアリスなら出て行きかねないと思った。
そして部屋に閉じ込められたソアリスは日に日に、死に侵食されていった。母の怒鳴り声と、兄の文句、父のたしなめているいるようでいない都合のいい言い訳。結婚式で心臓を切り裂いてしまおうかと思ったほどだ。
結婚式の日。眩しいほどの快晴だった。
両親も兄は作り笑顔で何か言っていたが、既にソアリスに言葉は届かなかった。
「しっかり努めるんだぞ」
「ちゃんとしないと、自分に返って来るのよ」
「相応しくないが、やるしかないんだ」
親しくない者には姉のおこぼれ婚と揶揄され、ソアリスの目には誰も喜んでいるようには見えなかった。
この頃のソアリスの心は既に死を迎えていたと言っていい。叫びもがくような過剰な感情はなくなり、何も感じなくなった、目の前にあるものだけこなせばいい。
悪い口すら、開かれることはなかった。
初夜も嬉々とするメイドに念入りに磨かれて寝室に放り込まれたが、処刑できなかった相手と結婚させられて、殿下も来ないだろうと早々に眠った。
「寝ているのか…」
さすがにアンセムも起こしてまで行うことではないと、初夜を諦め、その後はソアリスは自室で眠り始めたために閨は諦めるしかなかった。
そんな日々が続いていたある日、やっと殿下から話があった。
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