私のバラ色ではない人生

後任

「何を言っているの！ララシャが隣国に嫁ぐことになったのですから、あなたが代わりになるのが当たり前でしょう」
「どうして当たり前なのです？それはお母様の考える当たり前でしょう？なぜ私がお母様の当たり前に従わなくてはならないのですか？お姉様をわざと引き合わせたんですの？お前が全ての元凶だろうが！わざとだったと言ってやろうか？」
「何て言い方をするの！」

　マルシャはソアリスの頬を叩き付け、ソアリスは衝撃で壁に打ち当たった。ララシャには絶対に手を上げることはないが、自分の思い通りにならない、言葉遣いの荒いソアリスには躊躇なく手を上げるのだ。

「何事だ！」
「生意気な口を利くものですから、つい」
「やり過ぎだ」
「だって、私が悪いような言い方をするものだから」

　ソアリスは真っ赤になった頬、口から血を流しながら体を起こしていた。

「事実を言ったまでですわ、王家に迷惑を掛けるくらいなら、いない方がいいでしょう？私の言っていることの方がおかしい？お前らよりマシじゃないか？」
「迷惑を掛けないようにすればいいでしょう。手当するから、こちらに来なさい」
「結構です！叩き付けたことを明日、皆に見て頂きましょう。虐待していると見なされるでしょうね、ララシャにも影響がないといいですね？」

　ソアリスも言うつもりはない、そんなことを言えば、王家で保護しますなんて言われたら困るからである。だが、脅しには使える。

「な、な、そんなことさせられないわ」
「でしたら明日、お断りをして来てください。いつも通り、欠陥品は家から出すことにしたと言うのよ、簡単でしょう？」
「そんなこと出来る訳ないでしょう！」
「ソアリス、手当をして貰いなさい。その顔では外にも出られないよ」
「手を出したのはお母様でしょう？いつもいつも自分が正しいとは思わないことね」
「だったら部屋にずっと居なさい！」

　ソアリスの頬は化粧で隠し、無理矢理連れて行くことになった。マルシャは叩いたことをバラされたくないため、歩み寄ろうとしていたが、ソアリスは外を見たまま何も話さなかった。それがまた逆鱗に触れ、余計なことを言うんじゃありませんよと怒鳴り付ける。親子関係は最悪な状況であった。

　ピデム王国とはクロンデールに有利な形で、既に話が付いているようで、陛下と王妃陛下、王太子殿下が待っていた。

「次女のソアリスです」
「ソアリス・ロアンスラーです」

　ソアリスは静かにカーテシーを行った。

「何度か姉君と同席したが、改めてアンセム・グレンバレンだ」
「…はい」
「そういえば、無口だったな…」

　アンセムはロアンスラー公爵家で、ララシャと共にソアリスと何度か一緒にお茶を飲んだが、相槌を求められれば打つだけで、会話をした記憶もなかった。

「無口なわけではありません。余計なことを言うなと家族に言われておりますので、ご容赦ください」
「ソアリス！」

　マルシャは今すぐにでも咎めたかったが、このままでは手を挙げたことを言い出すのではないかと、証拠も化粧で隠しているだけで、取ってしまえばバレてしまうことに、恐れていた。

「昨日、少し厳しくしたので、拗ねてしまいまして、申し訳ありません」
「ソアリス嬢も戸惑っておるのだろう。ララシャ嬢のことは残念ではあるが、これもまた運命なのだろう」
「有難きお言葉にございます」
「アンセム、ソアリス嬢とよく話すといい」
「はい、よろしくお願いしますね、ソアリス嬢」
「…はい、よろしくお願いいたします」

　愛想のない娘をマルシャは深く睨み付けるしかなかったが、ソアリスは母親を見ることすらなかった。そしてアンセムとの会話は弾むことはなかった。