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妹の言葉

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「アデリーナ様、行きましょう」
「アイレット、あなたそんなに喋るのね」
「ええ、修道女になるつもりだったので、俗世とはあまり慣れ合わない方がいいかと思っておりましたので」
「そう…」

 アデリーナはマリーに付き添われて退席し、両親たちは大丈夫だったかと駆け込んで来た。

「大丈夫です、久しぶりに話をしただけです」

 全てが聞こえていたかは分からないが、あれだけアデリーナが声を張っていたので、おそらく聞こえていたのだろうが、問題にするつもりはない。

 その後、アデリーナは黙って参列し、アイレットは出席者にリンダース・ロズウェルを見付け、最後に伝えることにした。レオにも伝えてあったので、さりげなく人を遠ざけてくれている。

「アイレット様、おめでとうございます」
「ありがとう。あなたは私をミジュリアン・バートロに似ていると言ったわね」
「っいえ、気分を害したなら謝ります」
「気分を害す?そんな風に思われているのね、私はミジュリアンの生まれ変わりなの。信じるか信じないかはあなたに任せるわ。ねえ、リン?」

 リンダースは目を見開いたまま、言葉が出て来ず、立ち尽くした。リンというのは、バートロ伯爵家でメイドとして潜入した時の名前であった。

 そのままアイレットは去り、彼がどう思うか、どうするかは好きにすればいい。だが、自身が殺した相手が生まれ変わっているということを知らしめたかった。

 結婚式は華々しく終わり、レオも忙しい仕事なので、一日だけ観光をして、ヒルズ王国に戻った。

 リンダースは考え込むことが増え、アデリーナはそれ以降、格段に大人しくなり、これまで皆がアデリーナを咎めて来たが、正義を持つマスタール家に、アイレットのような物言いをする人はおらず、その言葉がアデリーナの心を抉ったのだ。

 ヒルズ王国でアイレットは社交界にも最低限ではあるが、顔を出すことになった。オプティ王国では一切関わらなかったので、初めての経験ではあるが、作法も改めて教えてもらい、夜会はレオと一緒でないと出席しないということにもなっている。
 、
 侯爵令嬢でありながら、修道女をしていたことも隠してもいないので、アイレットに恥じることはない。処刑を受け入れ、二度目を生きているアイレットは、非常に肝が据わっている。

 絡んで来たのはまさかのレオの元妻であった。

 現在はあの友人とも関係のない、子爵家に嫁いでいるようで、レオが飲み物を取りに行った隙に声を掛けて来た。

「アイレット様でしたかしら」
「…」
「私、レオの元妻ですの。私たちはとても良き時間を過ごしたのですよ。アドバイスさせていただこうかと思いまして」
「…」

 何も言わないことに腹を立てたのか、近付いてきて小声で話し始めた。

「修道女だったんでしょう?そんな女がどうやって誑かしたのかしら?もしかして、純情ぶってかしら」

 アイレットは女の耳元に寄り、丁寧な言葉でゆっくりと話した。

「ご自身が貞操観念が緩いからと、同じ志向を持っていると思われたのですか?私は大公夫人です、馴れ馴れしく声を掛けるなど、許されると思ってらっしゃるの?」

 そう言うと、苛立って来たのが分かったので、最後にふうと耳に息を吹き掛けると、女は身体をビクっとさせ、言葉が出ないようであった。そこへ慌てたレオが両手にグラスを持って、戻って来た。

「アイレット!」
「まあ、美味しそうね」
「何があった?」
「さあ、この方はどなたかしら?勝手に話し掛けて来ただけよ」
「もう行こう、相手にするだけ時間の無駄だ」
「っレオ」
「子爵夫人に呼び捨てにされる筋合いはないが?」
「っ」

 レオが睨み付けると、さすがに周りの視線もあり、黙るしかなかった。

「何をしたんだい?」
「御忠告と、嬢が教会で言っていたんです。耳に息を掛けると、戦意を消失すると、それを試してみました」
「おお、それは…それでぼうっとしていたんだな」
「ええ、私は修道女だからって、優しいと思ったんでしょうね。子どもたちに鬼ババアと言われていたというのに」
「私の奥さんは強いですからね」
「ええ、二度目ですから」
「それは私とだけの秘密でしょう」
「そうでしたね」

 ふふふと微笑み合う、大公夫妻はとても仲が良く、元妻は何をしに来たのだと、そして極めて嫌われているということが分かり、不貞のことは公にされていなかったが、元妻が原因であることは確信に変わった。
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