上 下
63 / 67

挨拶

しおりを挟む
 アイレットは還俗し、ヒルズ王国に行くことになった。

「修道女だったのに、大丈夫なのですか」
「大丈夫!もう甥も知っているし、功績だってもう我が国にあるでしょう?ウェルカムだよ」
「そうですか…」

 ひと悶着くらいはあるだろうと思っていたので、アイレットは拍子抜けした。

 バタバタと修道女や子どもたちが、お別れに来てくれて、後ろで微笑むシーラ牧師に泣きそうになったが、お世話になりましたと笑って去ることにした。

 その足でマスタール侯爵家に行き、大公閣下が既に連絡をしていたようで、アデリーナ以外の家族が勢ぞろいしており、驚いてしまった。

 さすがに入りきらないので、両親と兄だけが応接室で向かい合った。

「アイレット…本当に嬉しいよ」
「ええ、嬉しくて。勿論、修道女としても立派だったと思っているわ」
「私も嬉しいよ」
「ありがとうございます」
「二人で話し合いながら、生きて行こうと思っています」
「「「よろしくお願いします」」」
「はい!」

 アイレットはこのような場に居合わせることがないと思っていたので、終始居たたまれなかったが、大公閣下が嬉しそうにしているので、受け入れることにした。

 アイレットは27歳、大公閣下は34歳だった。

 皆、お似合いだった、良かったなどと歓喜に湧いたが、仕事から戻ったアデリーナにも分かることなので、伝えることにした。

「アイレットが結婚することになった」
「えっ、あの子は修道女でしょう?」
「お前の耳にも入るだろうから、伝えておく」

 アデリーナは30歳になっていた、さすがに周りは結婚し、子どもが生まれて、疎遠になって行き、アデリーナは社交界でも家でも孤立していた。

 初婚の相手は難しいと分かり、後妻の話を受けようかという気にもなり始め、アイレットが結婚せず修道女をしていることで、私より不幸だと、女性としてアイレットには勝っていると思うことで、自尊心を保っていた。

「相手はレオ・ライプ・ローグレイン大公閣下だ」
「…は?どうして!私の間違いじゃないの!」
「何を言っているんだ?」
「だから、大公閣下なら私への婚約よ!アイレットじゃないわ」

 アデリーナはにやける顔を抑え切れず、満々の笑みが零れ、ふふふふと声を出して笑い始めた。これで結婚出来ないと思っていた人たちを見返すことが出来る。

 アデリーナが結婚しなかったのは大公閣下がいたからなのねと、裁判官の妻なんて、アデリーナにピッタリの相手だと、皆が私を羨ましい目で見つめる。

 ヒルズ王国で最先端の場所に住み、洗練されたファッション、お洒落な食事、そして爵位も見た目も素敵な旦那様に、傅かれる生活に戻れる。

 そして、帰国すれば、皆がアデリーナの話を聞きたがり、憧れるようになる。

 ようやく私の時代が来たのだ、アデリーナはそう思った。

「馬鹿なことを言うんじゃない!」
「馬鹿なのはお父様よ!私と閣下には接点があるの!アイレットにはないでしょう?しっかりして頂戴!マスタール侯爵令嬢って書かれていて勘違いしたんでしょう?あの子は修道女、マスタール侯爵令嬢はこの私しかいないのよ!」
「はあ…今日、二人揃って結婚の挨拶に来ている。間違えようがいない」
「は?」

 二人揃って?どういうこと?本当にアイレットだって言うの?しかも大公閣下と?

「何でよ!アイレットがどうして」
「大公閣下がアイレットを気に入って、結婚することになった」
「嘘よ!」
「嘘じゃない」
「婚約するなら私でしょう?私の方が年も近くて、価値観も合うはずよ、どうしてお父様は私を勧めないかったの!」
「はあ…大公閣下がアイレットを見初めたのだ。誰でもいいわけじゃない」
「そんな…」

 そんなはずない、私よりアイレットが選ばれるはずがない。しかも、大公閣下だなんて、何かの間違いに決まっている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

いくら時が戻っても

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。 庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。 思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは――― 短編予定。 救いなし予定。 ひたすらムカつくかもしれません。 嫌いな方は避けてください。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)

青空一夏
恋愛
 従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。  だったら、婚約破棄はやめましょう。  ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!  悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!

完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。 結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに 「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……

好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】

須木 水夏
恋愛
 大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。 メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。 (そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。) ※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。 ※ヒーローは変わってます。 ※主人公は無意識でざまぁする系です。 ※誤字脱字すみません。

処理中です...