58 / 67
妹の告白2
しおりを挟む
「この前の事件の際、私の兄と結婚していた義姉のことは知っていますか」
「確か主犯のソック伯爵の娘と」
「はい、彼女は何も知らなかった、気付かなかった、当たり前だと思ったと言ったそうです。私は気付いていて、見ないようにしていたのだと思っていました」
「気付かないはずがないと」
確かに気付かないものなのかと思うところはある。
「はい、私の両親はほとんど王都におり、私はずっと領地におりました」
「領地に?」
「はい、それでも異様さに気付いていたのです。それなのに気付かないものかと疑ったのです。でも結局は同じなのです。罪を犯していた、そのことで享受する生活をしていた、周りから見ればどちらも変わらない」
「私も王族の生まれですから、そう判断するかもしれません」
心証は違うかもしれないが、知っていようが、知らなかろうが、そのお金で生活していた罪がある。王族であれば、皆が処罰を受けるだろう。
「ええ、私には兄がおりました。母が私を産んで、もう出産はしたくないと、遠縁から引き取った養子でした。兄は王都にいたのですが、体調を悪くして、領地に来ました。私は同世代の子がいることを、始めは素直に喜んでしまったのです。彼はそうではなかったのかもしれませんが、兄は優しい人でした…」
そう話すアイレットは今まで一番優しい表情であった。
「好きだったのですか?異性として」
「あの頃は分かりませんでしたが、あのまま生きていたら、そう思ったと思います」
そう感じたのはアイレットになってからであった。誰にも兄と同じような気持ちにはなれず、特別だったのだと気付いた。
「兄は勉強を教えるのが上手でした、私も兄の様になりたいと思い、ならば教師になったらどうかと言われましたが、私にとって教師という者はあまり好む相手はありませんでした」
「何かあったのですか」
「領地に捨て置かれた娘でしたから、厳しく扱っていいと思われたんでしょうね。教材で叩かれたり、間違えると髪を引っ張られたりしたことがありました。メイドに見付かって、クビにはなりましたが」
「そうでしたか…」
きっと優しい兄はその教師とは違って、褒めて教えてくれたのだろう。
「教師ではなく、修道女でもいいと教えてくれました」
「お兄様の勧めだったのですか…」
それならば修道女になりたいという思いは、何よりも叶えたいことだっただろう。
「はい、長々とすみません。ですが、この世にいない人の話をするのは、難しいものですから」
「いいえ、お兄様も処刑に?」
「いえ、兄はクーデターで亡くなりました。実子でもないのに、あんな家に引き取られなければ、きっと今でも生きていたと思います。申し訳ないことをしました」
実子ではなかったのなら、助かる方法もあったかもしれない。だが、クーデターを起こした側からすれば、関係などなかったのだろう。
「会いたいですか」
「はい、誰よりも兄に会いたいです」
好きな相手なのか、たまたま現れた優しい同世代の子に、恋のようなもの、憧れのようなものを抱いただけなのかは分からないが、大切な人には違いないのだろう。
「今でも好きですか」
「いえ、私に修道女を勧めるということは、異性として見てはいなかった証拠でしょう。これは今になって分かるというものですが」
「それは分かりませんよ」
「そうだと良いですね。私はだからこそ、修道院ではなく、処刑されることを選びました」
「選んだ?」
「兄が殺されたのに、実子である私が生きていることは出来ないと思ったからです」
「…それは」
「確か主犯のソック伯爵の娘と」
「はい、彼女は何も知らなかった、気付かなかった、当たり前だと思ったと言ったそうです。私は気付いていて、見ないようにしていたのだと思っていました」
「気付かないはずがないと」
確かに気付かないものなのかと思うところはある。
「はい、私の両親はほとんど王都におり、私はずっと領地におりました」
「領地に?」
「はい、それでも異様さに気付いていたのです。それなのに気付かないものかと疑ったのです。でも結局は同じなのです。罪を犯していた、そのことで享受する生活をしていた、周りから見ればどちらも変わらない」
「私も王族の生まれですから、そう判断するかもしれません」
心証は違うかもしれないが、知っていようが、知らなかろうが、そのお金で生活していた罪がある。王族であれば、皆が処罰を受けるだろう。
「ええ、私には兄がおりました。母が私を産んで、もう出産はしたくないと、遠縁から引き取った養子でした。兄は王都にいたのですが、体調を悪くして、領地に来ました。私は同世代の子がいることを、始めは素直に喜んでしまったのです。彼はそうではなかったのかもしれませんが、兄は優しい人でした…」
そう話すアイレットは今まで一番優しい表情であった。
「好きだったのですか?異性として」
「あの頃は分かりませんでしたが、あのまま生きていたら、そう思ったと思います」
そう感じたのはアイレットになってからであった。誰にも兄と同じような気持ちにはなれず、特別だったのだと気付いた。
「兄は勉強を教えるのが上手でした、私も兄の様になりたいと思い、ならば教師になったらどうかと言われましたが、私にとって教師という者はあまり好む相手はありませんでした」
「何かあったのですか」
「領地に捨て置かれた娘でしたから、厳しく扱っていいと思われたんでしょうね。教材で叩かれたり、間違えると髪を引っ張られたりしたことがありました。メイドに見付かって、クビにはなりましたが」
「そうでしたか…」
きっと優しい兄はその教師とは違って、褒めて教えてくれたのだろう。
「教師ではなく、修道女でもいいと教えてくれました」
「お兄様の勧めだったのですか…」
それならば修道女になりたいという思いは、何よりも叶えたいことだっただろう。
「はい、長々とすみません。ですが、この世にいない人の話をするのは、難しいものですから」
「いいえ、お兄様も処刑に?」
「いえ、兄はクーデターで亡くなりました。実子でもないのに、あんな家に引き取られなければ、きっと今でも生きていたと思います。申し訳ないことをしました」
実子ではなかったのなら、助かる方法もあったかもしれない。だが、クーデターを起こした側からすれば、関係などなかったのだろう。
「会いたいですか」
「はい、誰よりも兄に会いたいです」
好きな相手なのか、たまたま現れた優しい同世代の子に、恋のようなもの、憧れのようなものを抱いただけなのかは分からないが、大切な人には違いないのだろう。
「今でも好きですか」
「いえ、私に修道女を勧めるということは、異性として見てはいなかった証拠でしょう。これは今になって分かるというものですが」
「それは分かりませんよ」
「そうだと良いですね。私はだからこそ、修道院ではなく、処刑されることを選びました」
「選んだ?」
「兄が殺されたのに、実子である私が生きていることは出来ないと思ったからです」
「…それは」
487
お気に入りに追加
2,293
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
(完結)婚約破棄から始まる真実の愛
青空一夏
恋愛
私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。
女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?
美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)
舞台装置は壊れました。
ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。
婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。
『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』
全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り───
※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます
2020/10/30
お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o)))
2020/11/08
舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる