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マリアリージュ教会3
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「アイレット様、ノワソ伯爵がいらしてます」
「…はい」
気分を害するようなことはなかったと思うが、何かあったのだろうかと思いながら、ノワソ伯爵が待つ部屋に行くと、従者と待っており、朗らかな笑顔であった。
「お待たせいたしました」
「こちらこそ、急に訪ねて申し訳ありません。あれから、何か出来ることがないかと思いまして、思い切って伺わせてもらいました」
ノワソ伯爵は、実業家としての顔も持ち、パン屋も貴族の道楽ではない。
「ありがとうございます。では、少々お待ちいただけますか」
しばらくすると、アイレットが運んで来たトレイには紛れもなく小さなパンが乗せられていた。
「出来たのですか」
「はい、ようやくですが。いかがでしょうか」
アイレットが試行錯誤した、いちごとブルーベリーのデニッシュであった。デニッシュ生地に、瑞々しいいちごと、ブルーベリーがキラキラと輝いている。いちごは以前作ったことがあったが、ブルーベリーは初めてで、失敗しながら作り上げた。
「す、素晴らしいです。可愛い」
「ありがとうございます」
「下の生地の形が変えてあるのですね」
「はい、子どもには視覚も大事ですから。店の方も見ていただけますか?」
「勿論です」
部屋に案内すると、そこには小さなパン屋が出来上がりつつあった。近所の大工に廃材で作って貰ったパンを置く台、網も設置され、ドライフラワーなどで飾りつけもされていた。
「素敵ですね」
「素晴らしいですよね」
「籠やトングは?」
「籠は編んでいる最中でして、トングは流石に購入しようかと思っております」
「でしたら、トングは私が寄付させてください。店に予備がありますので、すぐに届けさせます」
「ありがとうございます、助かります」
トングが寄付されることを報告し、元の部屋に戻ると、伯爵は何やら言い難そうに話し始めた。
「あと、お金を支払いますので、あのデニッシュを売ってはいただけませんか」
「え?」
「妻に話したら、是非欲しいと言いまして…パン屋は妻の案でして、今日行くように言ったも妻でして、こういう時に力にならないでどうするのと、自分よりもあなたがお会いしたのだから、信用されるでしょうと」
「さようでしたか、わざわざありがとうございます」
「本当に素晴らしいと思いまして、こう見えて、可愛いものが夫婦共々好きでして」
「私だけの判断では断言は出来ませんが、母国ではバザーで売っているんです」
「そうなのですか?」
「はい、下世話ですが、いい稼ぎになるんです。少しお待ちいただけますか、牧師様に確認して参ります」
母国でもキーホルダーにしたり、鉛筆に付けたり、そのまま売ったりと、売れ行きがいいので、需要があることは知っている。
修道女たちの材料は違うが、アイレットが作った物は全て持ち込んだ物で作っているため、牧師には好きなようにして貰っていいと言われて、売ることになった。
「了承を得ましたので、お売りします」
「ありがとうございます!」
「母国では大体1つ、500ルペくらいですので」
ヒルズ王国と貨幣は同じであるため、妥当な金額を言ったはずだったのだが、伯爵は驚いた顔をしている。
「ええ!そんな、50000ルペ払います。足りない物にでも使ってください」
「いえいえ、そんなには」
「いえ、本来は売り物でもないのに売っていただくのですから」
「では、お言葉に甘えて、予算に入れさせてもらいます」
ノワソ伯爵は嬉しそうに帰って行かれ、牧師様に渡そうとしたが、これはあなたのお金だと、もし叶うならば、母国に帰った後にも送る資金にして欲しいと頼まれてしまい、受け取ることにした。
そしてトングも贈られて来て、籠もいくつかできたので、まだ足りないところもあるが、授業が出来る運びとなった。
アイレットの滞在の予定の1週間は過ぎていたが、母国にも連絡をして、形になるまでは残る許可を得ていた。
「…はい」
気分を害するようなことはなかったと思うが、何かあったのだろうかと思いながら、ノワソ伯爵が待つ部屋に行くと、従者と待っており、朗らかな笑顔であった。
「お待たせいたしました」
「こちらこそ、急に訪ねて申し訳ありません。あれから、何か出来ることがないかと思いまして、思い切って伺わせてもらいました」
ノワソ伯爵は、実業家としての顔も持ち、パン屋も貴族の道楽ではない。
「ありがとうございます。では、少々お待ちいただけますか」
しばらくすると、アイレットが運んで来たトレイには紛れもなく小さなパンが乗せられていた。
「出来たのですか」
「はい、ようやくですが。いかがでしょうか」
アイレットが試行錯誤した、いちごとブルーベリーのデニッシュであった。デニッシュ生地に、瑞々しいいちごと、ブルーベリーがキラキラと輝いている。いちごは以前作ったことがあったが、ブルーベリーは初めてで、失敗しながら作り上げた。
「す、素晴らしいです。可愛い」
「ありがとうございます」
「下の生地の形が変えてあるのですね」
「はい、子どもには視覚も大事ですから。店の方も見ていただけますか?」
「勿論です」
部屋に案内すると、そこには小さなパン屋が出来上がりつつあった。近所の大工に廃材で作って貰ったパンを置く台、網も設置され、ドライフラワーなどで飾りつけもされていた。
「素敵ですね」
「素晴らしいですよね」
「籠やトングは?」
「籠は編んでいる最中でして、トングは流石に購入しようかと思っております」
「でしたら、トングは私が寄付させてください。店に予備がありますので、すぐに届けさせます」
「ありがとうございます、助かります」
トングが寄付されることを報告し、元の部屋に戻ると、伯爵は何やら言い難そうに話し始めた。
「あと、お金を支払いますので、あのデニッシュを売ってはいただけませんか」
「え?」
「妻に話したら、是非欲しいと言いまして…パン屋は妻の案でして、今日行くように言ったも妻でして、こういう時に力にならないでどうするのと、自分よりもあなたがお会いしたのだから、信用されるでしょうと」
「さようでしたか、わざわざありがとうございます」
「本当に素晴らしいと思いまして、こう見えて、可愛いものが夫婦共々好きでして」
「私だけの判断では断言は出来ませんが、母国ではバザーで売っているんです」
「そうなのですか?」
「はい、下世話ですが、いい稼ぎになるんです。少しお待ちいただけますか、牧師様に確認して参ります」
母国でもキーホルダーにしたり、鉛筆に付けたり、そのまま売ったりと、売れ行きがいいので、需要があることは知っている。
修道女たちの材料は違うが、アイレットが作った物は全て持ち込んだ物で作っているため、牧師には好きなようにして貰っていいと言われて、売ることになった。
「了承を得ましたので、お売りします」
「ありがとうございます!」
「母国では大体1つ、500ルペくらいですので」
ヒルズ王国と貨幣は同じであるため、妥当な金額を言ったはずだったのだが、伯爵は驚いた顔をしている。
「ええ!そんな、50000ルペ払います。足りない物にでも使ってください」
「いえいえ、そんなには」
「いえ、本来は売り物でもないのに売っていただくのですから」
「では、お言葉に甘えて、予算に入れさせてもらいます」
ノワソ伯爵は嬉しそうに帰って行かれ、牧師様に渡そうとしたが、これはあなたのお金だと、もし叶うならば、母国に帰った後にも送る資金にして欲しいと頼まれてしまい、受け取ることにした。
そしてトングも贈られて来て、籠もいくつかできたので、まだ足りないところもあるが、授業が出来る運びとなった。
アイレットの滞在の予定の1週間は過ぎていたが、母国にも連絡をして、形になるまでは残る許可を得ていた。
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